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磁器素地の品質向上研究

■九谷焼技術センター  ○橋宏 木村裕之
■金沢工業大学 大橋憲太郎

1.目 的
 九谷焼は,縁を薄く加工するなど,長年の間に築き上げた繊細な形状が特徴である。しかしながら,繊細な形状が原因で縁は欠けやすい傾向がある。このため,九谷焼は他産地の磁器製品と比較して,割れや欠けが発生しやすいというイメージが持たれている。衝撃試験の結果からは,九谷焼の素地強度が他産地の製品と比較して特別低いという事実はないが,素地の強度を向上させることは,九谷焼のイメージアップに有効であり,将来の新製品開発に対して必要な条件であると考えている。本研究は,磁器素地の品質向上として,既存の材料(透光性ハイ土)の強度の底上げを目標とした。九谷焼には既に強化磁器が市販されているが,本研究は強度の向上と上絵の加飾が可能な,九谷焼らしい製品開発に向けた材料の創出を主眼としている。本研究では,新規の材料を開発するのではなく,既に実績があり入手しやすい材料をベースにして,これに添加材を加えることとした。これにより品質を向上させ,様々な応用の可能性を提案することができるものと考えている。

2.内 容
2.1 試験ハイ土の作製
 基礎となるハイ土は,既に市販されている透光性ハイ土を用いた。解膠剤0.4%(水ガラス0.2%,プライマル0.2%)とし,添加材を加えて水分量が30%の泥しょうになるように調整した。添加材は,緻密化を想定した3種(シリカゾル,アルミナ粉,無機バインダ)と軽量化を想定した2種(発泡性材料,軽石系)を使用した。添加量は,緻密化を想定した材料はハイ土の乾粉に対し,5mass%及び10mass%加えた。軽量化を想定した材料は,嵩が大きいためアルミナの5mass%の容量を測定しその容量に合わせた。

2.2 試験片の作成
 試験片は,圧力鋳込み成形した100mm角の板を8×4×40mmに切り出したものを用いた。サイズは日本セラミックス協会規格(食器用強化磁器の曲げ強さ試験方法;JCRS203-1996)に準拠した。ハイ土の曲げ強さを比較するため,比較対象として無添加の透光性ハイ土を用いた試験片を準備した。

2.3 ハイ土の評価
 添加材を加えたハイ土の評価は,三点曲げ強さ試験で行った。試験条件は上記日本セラミックス協会規格に準拠した。曲げ強さの試験では,試験片のバラツキを考慮するため試験数を15個以上とし,平均値と標準偏差を算出した。添加材の効果を確認するため,試験片の断面を走査電子顕微鏡で観察した。曲げ強さに効果が見られた試験ハイ土については,施釉した試験片を作製し曲げ強さを評価した。釉薬は,平成17-18年度に実施した研究「釉性状の改質に関する研究」において,上絵剥離防止,貫入の緩和及び曲げ強さ向上に効果が見られた,酸化亜鉛を10mass%点化した九谷焼技術センター開発釉を用いた。

3.結 果
3.1 曲げ強さ試験
 各試験ハイ土の曲げ強さ試験の結果を図1に示す。
 図中の四角のマーカは,強さの平均値を示し,実線は曲げ強さのばらつき(標準偏差)を示す。アルミナと,無機バインダ(図中:Binder)の添加が素地の曲げ強さ向上に効果が認められた。特にアルミナ10%mass添加はベースの無添加ハイ土に対し,約50MPaの向上を示した。ただしアルミナの添加は,曲げ強さのばらつきが大きくなる傾向が見られる。試験片作製のばらつきが,曲げ強さのばらつき上昇の要因として考えられたが他の試験片と比較しても特に大きいため,添加剤が主要因であると推測される。曲げ強さ向上に,同様の効果が認められた無機バインダは,ばらつきは小さく良好な結果が得られた。施釉した試験片の曲げ試験の結果では,アルミナ添加ハイ土が曲げ強度の落ち込みもなく,上絵加飾可能な素地として期待が持てる結果となった。

(図1 曲げ強さ試験結果)

3.2 断面観察
 添加剤による曲げ強さ向上の要因と,発泡系材料による曲げ強さ低下の要因を探るため試験片の断面観察を走査電子顕微鏡により行った。紙面の関係上,観察結果を示すことが出来ないが,それぞれ特徴ある状態であった。アルミナは,素地に存在する空隙を埋めていた。参考として測定したヤング率では,アルミナ添加試験片のヤング率はベースの素地よりも高い値を示した。これよりアルミナの添加により,素地が緻密化し固くなり曲げ強さが向上したものと推測できた。同様に曲げ強さが向上した無機バインダの場合,素地の空隙は焼成時にガラス化した無機バインダにより埋まる。しかしながら,無機バインダ自体から発生した気泡が確認された。この気泡が,アルミナ添加よりも,曲げ強度が低くなった原因であると考えられた。発泡系および軽石系材料の添加は,泥ショウ調整時の分散性に影響を受けていることが考えられた。これらの添加剤は,分散性が悪いため凝集し,素地中で繋がった状態で観察された。つまり,添加剤により亀裂状の隙間が形成されて曲げ強さが低下したと推測できた。