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無鉛和絵具の改善研究

■九谷焼技術センター ○木村裕之

1.目 的
  九谷焼に限らず陶磁器の上絵具には, 800℃前後での溶融とガラスの透明感を生み出すためにフリット(白玉:ガラスの粉砕物)の一成分として酸化鉛が使用されている。しかし,鉛は人体に悪影響を及ぼすため,食品衛生法により飲食器からの鉛溶出量に対し規制値が定められている(鉛の他にカドミウムも規制値がある)。1999年に国際標準化機構(ISO)の鉛溶出規制値が改正された。これに対応し食品衛生法における「陶磁器の鉛及びカドミウムの溶出規格」の改正が予定されている(表1及び2参照)。約1年間の周知・移行期間が設けられており,現在のところ2009年5月ごろの実施が見込まれている。この規制値強化に対応するため工業試験場では, これまでに九谷焼で基本色として使用されている五色(青, 黄, 紺青, 紫, 赤)の無鉛化,透明感を持つ無鉛赤絵具の開発等を行ってきた。
 規制強化の実施期日が決まり,今後,無鉛和絵具の使用増加が見込まれる。これまでに,試験場が開発した無鉛和絵具に対して「濁りが強い(不透明である)」や「かき難い」といった意見を多数受けた。無鉛和絵具の本格使用を前に,絵具の性質改善に関する検討を行った。

(表1 陶磁器の鉛の溶出規格)
(表2 陶磁器のカドミウムの溶出規格)

2.内 容
2.1 濁りの発生要因について
 ここでは絵付けで添加するのり剤及び凝集剤が,絵具に与える影響について検討を行った。濁りが強い紫絵具について,ふのり及びCMC(カルボキシメチルセルロース)を添加したものと,ふのりと凝集剤及びCMCと凝集剤を添加したもので検討を行った。紫絵具,ふのり(液体ふのり),凝集剤(垂止め)は市販のものを使用した。CMCについては3.5%溶液濃度に調整したものを使用した。絵具3.8gに水とのり剤を加えよく混合した後,垂止めを加え更に混合し,白素地皿に塗布した。自然乾燥を十分に行い, 電気炉で850℃まで270分で昇温し, 15分間保持し焼成した。焼成後の試料表面を目視及び光学顕微鏡で観察した。

2.2 濁りの低減条件の検討
(1) 添加剤の検討
 濁りの傾向の強い紫と黄絵具に添加剤を加え,ふのりで絵付けを行った際の濁りの低減効果について検討を行った。添加剤は硫酸ストロンチウム,酸化スズ,カリ氷晶石,塩基性炭酸亜鉛,銀化合物を使用し, 混合は自動乳鉢で行った。ここでは垂止めを添加しないで,2.1の条件で絵付け及び焼成を行った。濁り状態は試料表面を目視で観察した。
(2) 凝集剤の検討
 垂止めは,ふのりと同時に使用した場合に強い濁りを発生してしまう。このためふのりと同時に使用しても濁りの少ない凝集剤についての検討を行った。無機材料として塩化アルミニウム,無機高分子,有機材料として高分子凝集剤を検討した。2.1の条件で絵付け及び焼成を行った。

3.結 果
3.1 濁りの発生要因について
  ふのりを使用した試料では,絵具の下に線描したゴス線は全く確認できず強く濁りが発生した。ふのりに垂止めを加えた試料では更なる濁り(特に白濁傾向)の増加が観察された。CMCを使用した試料では,絵具の下に線描したゴス線を確認でき,ふのり程の濁りは確認されなかった。しかし,CMCに垂止めを加えることで白濁傾向が観察された。
 各試料を光学顕微鏡により20倍の倍率で観察した。ふのりを使用した試料では,絵具中に無数の均一な大きさの気泡が観察された。ふのりに垂止めを加えた試料では,微細な気泡や気泡が幾つか結合し大きくなった気泡やそれらが弾けた状態が観察された。CMCを使用した試料では,気泡は確認されなかった。CMCに垂止めを加えた試料では,微な気泡の発生が確認された。
 以上の結果より,のり剤としてふのり及びふのりに垂止めを使用した場合に強い濁りが確認された。そして濁って見えるのは,絵具中の無数の気泡であることが確認された。絵具中の気泡を除去できれば,濁りを低減することが可能であると考えられる。

3.2 濁りの低減条件の検討
(1) 添加剤の検討
  試験の結果,硫酸ストロンチウム,酸化スズ,カリ氷晶石では若干の改善は見られたが十分な濁りの低減効果(気泡の除去効果)は得られなかった。塩基性炭酸亜鉛では黄絵具に2.0%添加した場合に低減効果が得られた。しかし,紫絵具に塩基性炭酸亜鉛を2.0%添加しても十分な効果は得られなかった。銀化合物では紫と黄絵具何れに対しても低減効果が得られた。
(2) 凝集剤の検討
 塩化アルミニウムは2.0%溶液濃度のものを使用した。十分な凝集能を得たが添加量を増していくと垂止めと同じく白濁傾向が観察された。高分子凝集剤は0.5%溶液濃度のものを添加したが,十分な凝集能は得られなかった。無機高分子は粉体であるため絵具に対し0.5%添加調整した絵具について検討したところ,凝集能を得ることができ垂止めの様な白濁傾向は確認されなかった。
  (1)と(2)の結果より,銀化合物と無機高分子を添加した紫及び黄絵具を2.0kg試作し,無添加の絵具と同様な絵付け・焼成条件で試料を作製し,濁り低減効果について良好な結果を得た。