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伝統工芸デザイン支援システムを活用した照明器具の開発

■繊維生活部 ○梶井紀孝 高橋哲郎 松山治彰 餘久保優子

1.目 的
 近年のライフスタイルの変化や消費者ニーズの多様化に伴い,伝統工芸産地では,商品の企画力やデザイン力を向上し,新たな市場を開拓することが課題となっている。しかし,提案型の商品開発は,試作費用や在庫のリスクが生じるため,中小零細企業の伝統工芸産地では,その取り組みが困難となっている。
 そこで工業試験場では,平成17年度から,高品位な三次元CG(コンピュータグラフィックス)画像によって伝統工芸素材による仮想試作を行い,作り手・売り手・買い手の意思疎通を図りながら商品の開発,商談ができる伝統工芸デザイン支援システム(以下,システム)の開発を行った。
 システムの研究開発にあたり,産地企業,工業製品やインテリアのメーカ,大学等で研究会を組織し,産地で有効活用できるシステムを検討しながら開発を進め,具体的な新商品開発の場面で試用してきた。その中で,九谷焼の産地企業と松下電工株式会社(以下,メーカ)との共同により,陶磁器や漆,金箔の工芸素材を用いた照明器具や手洗い器等の試作開発を行った(図1)。本報では,平成20年4月に発売された九谷焼照明器具の開発プロセスを中心に紹介する(図2)。

(図1 伝統工芸素材を用いた試作品)
(図2 4月に発売された九谷焼照明器具)

2.内 容
2.1 開発体制
 九谷焼照明器具は,メーカ,石川県九谷窯元工業協同組合が共同で商品開発し,当場のデザイン開発室がシステムを用いたデザイン開発支援を行い,さらに,九谷焼技術センターや九谷焼技術研修所とも連携を図りながら,試作検討,釉薬・絵具の選定に係る分析評価,生産技術等の支援を行った。
 また,九谷焼磁器セード(笠部品)の製造は,九谷焼窯元の八弘窯(木田製陶所)で行い,製品の生産管理は,メーカ傘下が担当した。

2.2 開発工程
 図3に九谷焼セードの開発工程を示す。開発当初に,メーカのデザイン担当が九谷焼産地の製造現場を訪問し,九谷焼の特徴を活かした商品展開について産地企業とディスカッションを行った。
 その後,メーカが九谷焼素地の中から透光性磁器を選び,その特徴を活かしたセードのデザインをスケッチで提案し,産地窯元と製作方法について検討を重ねた。絞り込んだ形状4種類に対し,CGによる上絵柄の提案および製品の仮想試作を行った。
 次に,メーカの販売事業部と共にデザイン案の絞り込みを行い,具体的な製造方法の検討と現物の試作を行った。また,九谷焼の特徴である上絵は,技法や色数等によってコストが大幅に変わるため,再度CGによって上絵柄を検討,選定し(図4)製造コストの最終確認を行った。
 最終案の九谷焼セード製造にあたり,工業試験場では,メーカ側の品質基準(有害物質規制)を満たすため,素地や釉薬,上絵具等の試験や,釉薬と絵具の剥離試験を行い,産地企業の技術サポートを行った。

(図3 開発工程)
(図4 システムによるデザイン検討)

3.結 果
 産地企業が新市場開拓に活用するための伝統工芸デザイン支援システムを開発し,さらにそのシステムを活用して九谷焼照明器具の開発を行った。ここで得られた評価結果ならびに蓄積された技術データ等を以下にまとめる。
・今回開発したシステムは,意思疎通の難しい異業種間(産地企業とメーカ)で,デザインおよび製造方法等の検討を行う際に,大変有効であった。
・システムを用いた仮想試作により,現物試作の回数を大幅に削減し,短期間で開発することができた。