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包接能化合物の固定化技術の開発と繊維製品への応用

■繊維生活部 山本孝 木水貢 ○神谷淳

1.目 的
 近年のスキンケア指向の高まりから,繊維製品に対しても従来の抗菌,防臭,撥水,防汚加工等だけではなく,様々な機能性が要求されている。一方で,優れた機能を持ちながら,熱や光等に対して不安定なため,そのままでは布加工等に使うことができなかった機能性成分を利用すれば,これまでにない新規製品の開発が期待できる。そこで我々は,分子内部の空洞に機能性成分等を取り込み,その成分を安定化できる物質(シクロデキストリン)を利用した,繊維表面への機能加工技術を検討したので報告する。

2.内 容
2.1 機能性成分を保持したシクロデキストリン(包接体)の布への固定化
 ビタミンE(以下VE)は優れた抗酸化能を有しているが,紫外線や熱に対して不安定である。しかし,シクロデキストリンに取り込まれた状態(包接体)では,耐光,耐熱性が大きく向上することが知られており,布加工に利用できると考えられる。そこでこのVE包接体を用いて,ポリエステルとナイロン布への固定化を検討した。固定化には主に,水系のブロックタイプイソシアネート系架橋剤を用いた。風合いや生産性を考慮して検討した結果,イソシアネート系架橋剤に加え,第2成分としてグリオキザール系架橋剤を混合することで,実用に耐える風合いと洗濯耐久性を持った固定処理が可能であることがわかった(図1)。
 また,布のVE含量を測定した結果,本加工布のVE含量は,市販類似品と比べて10倍以上多いことがわかった。また,30〜50回洗濯した後のVE含量についても,本加工布は市販類似品と同等かそれよりも多く,充分な洗濯耐久性を持つことがわかった。

(図1 ビタミンE加工ポリエステル布の洗濯耐久性)

2.2 ビタミンE固定化布の機能性評価
(1) 抗酸化能の評価
 生体内で発生するラジカルのモデル物質であるDPPHラジカルを用いて,VE加工布の抗酸化能を検討した。評価は,加工布のエタノール抽出液を添加した時の溶液内のラジカルの減少量を分光光度計で測定することで行った。その結果,抽出液がラジカルを減少させることがわかり,VEの抗酸化能が布への固定化後にも残存していることが示された。また,市販類似品と比べて4〜35倍高い抗酸化能を示し,充分な機能を有していることがわかった(図2)。
(2) 着用試験による評価
 VE加工布の皮膚への効果について,ポリエステル製サポータを用いて検討した。17人の被験者に対し,右腕前腕部にVE加工サポータ,左腕前腕部に未加工サポータを8週間,睡眠中に着用してもらい,着用前後の皮膚性状の変化(水分量,弾力性,キメの細かさ)を測定した。 その結果,未加工サポータと比べて,VE加工サポータは,皮膚の柔らかさを保ちながら,ハリを改善する効果があることがわかった (図3)。

(図2 ビタミンE加工布と市販類似品の DPPHラジカルの消去活性の比較)
(図3 ビタミンE加工サポータの着用による皮膚弾力性の推移 )

2.3 製品の試作
 あらかじめインクジェットでプリントしたポリエステル布に対して,生産設備を用いてVE固定化試験を行い,加工に問題のない事を確認した。その際に得た加工布を用いて,ドレス,パンツスーツ,ジャケット,ブラウス等の製品を試作した。これら試作品を各種展示会に出品した(図4)。

(図4 ビタミンE加工布による試作品)

3.結 果
(1) VEのシクロデキストリン包接体について加工条件を検討し,実用可能なレベルの洗濯耐久性を持つ固定化技術を確立した。また,生産設備でも加工可能であることを確認した。
(2) VE包接体による加工品は,市販類似品よりも優れた抗酸化能を持つことがわかった。
(3) VE加工サポータの着用試験においてスキンケア効果を検討した結果,皮膚弾力性の改善に効果があることが示された。

謝辞:本研究は(独)科学技術振興機構JSTイノベーションプラザ石川の育成研究に基づき行われた。