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プリント基板設計における電磁波ノイズの低減化 ―マイクロストリップラインのシミュレーション解析―

■電子情報部 ○橘泰至 吉村慶之

1.目 的
 電子機器から放射される電磁波ノイズの低減化は,他の電子機器への悪影響を防止する観点から,電子機器業界で大きな課題になっている。その対策として,回路・基板設計(開発初期)段階において,シミュレーション解析によりノイズの低減化を図ることは,非常に有効であり,工業試験場ではプリント基板設計CADと連携したシミュレーション解析ツール(メンターグラフィックス社製HyperLynx LineSim)を導入した。県内企業におけるノイズ低減化の取組みをより効果的に支援するためには,解析ツールの持つ特性を理解した上で,解析結果を回路・基板設計に役立てる必要がある。そこで本研究では,構成が単純なマイクロストリップライン(配線1本の単純回路,以下MSLという。図1参照)を用いて,シミュレーション解析と3m法電波無響室における実測を行い,これを比較してノイズを低減化する基板の設計条件(配線の長さ,電子部品,基板の厚み,基板絶縁体の比誘電率など)を見出すことを目的とする。

(図1 マイクロストリップライン(MSL))

2.内 容
2.1 高調波成分のシミュレーション解析
 MSLを伝搬する信号波形に含まれる高調波成分は,強い電磁波ノイズを放射する例が多く,これを抑制する設計条件を見出すことが重要とされている。一例として,プリント基板の厚みを変化させた場合のシミュレーション結果を図2に示す。0.3mmの場合は,3.2mmの場合と比較して,基本波(33MHz),第3高調波(99MHz),第5高調波(165MHz)では成分が小さくなっていることが分かる。この違いは,配線−グラウンド間の距離が短くなることで,配線の浮遊容量が大きくなり,信号波形の立上り立下りが急峻ではなくなるためと考えられる。一方,第7高調波(231MHz)成分は3.2mmの基板の方が小さくなった。これは,信号がMSLを伝搬する際に波打ったような歪み(リンギング)が生じ,その周期が,0.3mm基板では第7高調波とほぼ同周期であったからと考えられる。なお,3.2mm基板では第5高調波とほぼ同周期のリンギングが発生した。
 以上のように,伝送路における信号波形の高調波成分が基板設計条件によって変化することが分かった。次に,MSL全体から放射されるノイズの電界強度について解析と実測を行った。

(図2 信号波形の解析結果)

2.2 シミュレーション解析と実測の比較
 一般にMSLの設計条件を変えると,放射電界強度は表1のような傾向を示すことが経験的に分かっており,シミュレーション解析ツールを用いても同様の結果が得られた。一例として,プリント基板の厚みを変化させたシミュレーション結果では,図3に示すとおり,プリント基板は薄い方が,電磁波ノイズを放射し難いことが分かる。これは,配線−グラウンド間の距離が短くなることで,配線周辺に広がる電磁界が抑制され,電磁波ノイズの放射が低減されるためと考えられる。
  解析時と設計条件を一致させたMSLを実際に作製し,電波無響室にて放射される電磁波ノイズを測定した。解析結果との比較のため,プリント基板の厚みを変化させた場合の測定結果を図4に示す。その結果,解析とほぼ同様の傾向が得られた。また,次の相違があることが分かる。
1)板厚に限らず一般に設計条件を変化させたとき,実測よりも解析の方が,差が顕著に現れた。その一因として,解析では全方位における電界強度の最大値を算出しているのに対し,実測では一方向からの電界強度測定であるため,差が生じ難かったことが考えられる。
2)絶縁体の比誘電率を変化させた場合(データは割愛),解析では比誘電率が高くなるに従って放射電界強度も強くなったが,実測では比誘電率と放射電界強度の相関は確認できなかった。その一因として,高誘電率のアルミナ基板が,低誘電率のガラスエポキシ基板と比較して,表面粗さが小さいため表皮効果の影響を受け難く,ノイズが強く放射されることを相殺したためと考えられる。
 上記2点の相違はあるものの,解析結果と実測結果は概ね傾向が一致することを確認できた。

(表1 MSLにおける解析結果の傾向)
(図3 厚みを変化させた場合の解析結果)
(図4 厚みを変化させた場合の実測結果)

3.結 果
 シミュレーション解析ツールを用いてMSLにおけるノイズの低減化を考察し,効果をもたらす設計条件を見出すことができた。また,解析と実測の比較結果から,解析ツールの特性を理解することができた。今後は,実製品の回路において,これらのノイズ低減効果を確認し,ノウハウを蓄積すると共に,県内企業におけるノイズ低減化を支援する予定である。