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伝統発酵食品を利用した食品素材の開発研究 ―石川県の伝統発酵食品がもつ成分と機能性について−

■化学食品部  ○武春美 勝山陽子 山田幸信 道畠俊英 中村静夫
■石川県立大学  榎本俊樹 久田孝 谷口肇

1.目 的
 石川県の能登半島沖は,暖流と寒流が交わる好漁場で海産資源に恵まれ,夏は蒸し暑く冬は雪が多い湿潤な気候条件であることから,食物の腐敗を阻止し保存性を高める発酵食文化が根付いている。県特有の伝統発酵食品には,日本海沿岸地域のイワシやフグなどの「糠漬け」,能登地方の「イシル(魚醤油)」や日本の三大珍味の一つである「このわた」,加賀地方の「カブラ寿し」や「大根寿し」などがある。近年,食品の機能性(抗酸化性,血圧上昇抑制効果など)が注目されるようになり,イシルについてはこれまで成分や機能性などについて明らかにしてきたが,その他の伝統発酵食品についてはほとんど研究がなされていなかった。そこで,本研究はこれらの県産伝統発酵食品の成分ならびに機能性について検討した結果,いくつかの有益な知見が得られたので報告する。

2.内 容
2.1 試料および実験方法
 各生産地のメーカ直営店で平成16年9月〜平成18年2月に販売されていた市販品で,麹漬け類としてカブラ寿しと大根寿し各3点,塩漬け類としてこのわた4点,くちこ2点,干しくちこ2点,糠漬け類としてフグ,フグの卵巣,イワシ,サバ,ニシンの糠漬け各3点の計29点の試料について検討した。
 一般成分の分析は,食品分析法に準じた。塩分はイオンクロマト法,ミネラルは,灰化後の試料を1mol/l硝酸により溶解後,100mlに定量したものをICP発光分析装置により測定した。遊離アミノ酸はアミノ酸分析計,有機酸は有機酸分析計により測定した。また,抗酸化性は,活性酸素のモデル物質であるDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)を用いて,ラジカル消去法によりDPPHラジカルを50%消去する試料添加量(IC50)を,抗酸化性物質である没食子酸相当量に換算し評価した。血圧上昇抑制効果は,基質にHip-His-Leuを用い,アンジオテンシンT変換酵素(ACE)を反応させることにより生成した馬尿酸を高速液体クロマトグラフィにて定量し,ACEの活性を50%阻害する値(IC50)を求め評価した。

2.2 各発酵食品の成分
 一般成分については,カブラ寿しと大根寿しは漬け込みに米麹が用いられていることから他のものよりも炭水化物が多かった(約21%)。脂肪分は,イワシ,サバ,ニシンの糠漬けで高い傾向(約9-13%)がみられた。塩分は,麹漬け類や塩漬け類(約2-4%)に対し,糠漬け類で約9-14%と高い値を示した。これは,糠漬けは腐敗しやすい魚が原料であるため,漬け込みの際に多量の塩分を加え雑菌増殖を防いでいるためである。ミネラルについては,糠漬け類のMg(85-150mg/100g),P(298-477mg/100g)が高い値を示した。これらは漬け込みに用いられる糠の成分が移行したものである。また,くちこのK(1740mg/100g)が非常に高く,このわたおよびイワシとニシンの糠漬けのCa(30-70mg/100g)が高い値を示した。それらは原料に由来する。
 次に各伝統発酵食品の総遊離アミノ酸量を図1に示す。乾物である干しくちこが最も高く,次いでイワシ,サバの糠漬けの順であり,糠漬け類が高く,麹漬け類が低い傾向がみられる。これは,熟成期間の長さに依存しており,熟成期間が長いほど微生物や自己消化酵素などの作用をより多く受けるため,遊離アミノ酸量が増加したものと考えられる。また,これらのアミノ酸組成については,カブラ寿し,大根寿しにはグルタミン,アラニン,γ-アミノ酪酸(GABA)が,このわた,くちこにはグルタミン酸,アラニン,タウリンが,糠漬け類にはグルタミン酸,リジン,ロイシン,アスパラギン酸,タウリンが多く含まれていた。有機酸は,いずれも乳酸が最も多く,次いで酢酸が多く,特にこのわたと糠漬け類の乳酸が多かった。このことから,発酵は主に乳酸菌の作用によるものと考えられる。また,糠漬け類にはピログルタミン酸が多く含まれるという傾向がみられた。

(図1 石川県の伝統発酵食品の総遊離アミノ酸量)

2.3 各発酵食品の機能性評価
 各発酵食品の抗酸化性を評価した結果を図2に示す。すべての試料で抗酸化性が確認され,特にフグの糠漬けが最も高い抗酸化性を示し,次いでサバの糠漬けが高く,全体的に糠漬け類が他よりも高い傾向を示している。これは,漬け込み中に米糠に含まれるα-トコフェノールなどの抗酸化性成分が移行することや微生物の作用で抗酸化性ペプチドが生成されるものと考えられる。
 次に,ACE阻害活性の比較を図3に示す。糠漬け類に非常に高い活性がみられるが,他は大変低い活性を示している。これは,ACE阻害活性は低分子ペプチドの作用によるもので,糠漬け類は発酵過程で微生物などによりACE阻害ペプチドの生成が促進されたためと考えられる。

(図2 石川県の伝統発酵食品の抗酸化性)
(図3 石川県の伝統発酵食品のACE阻害活性)

3.結 果
 石川県の伝統発酵食品について成分,機能性を検討した結果,糠漬け類には血圧上昇抑制効果が高く,塩漬け類にはタウリン,麹漬け類にはGABAが多いなどが明らかとなった。今後は,県産伝統発酵食品を利用した食品素材化やそれらを応用した新規食品の開発を進めて行く。