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純米酒用酒米の少量発酵試験法の開発

■化学食品部 ○山田幸信 松田章
■農業総合研究センター 三輪章志

1.目 的
 酒米(酒造好適米)の育種選抜などの試験研究においては,小規模な発酵試験(小仕込)を行って得られた清酒を分析・官能評価した結果を基に品質評価が行われている。小仕込試験を行う際,実験室レベルで500g以上,工場レベルでは4kg以上の白米が必要となる。しかし,酒米の育種選抜試験では500gの白米サンプルが確保できるようになるまでに交配から約8年以上の年月を要し,その間は栽培中の生育特性や米粒の理化学性のみを指標として選抜しているのが現状である。
 現行よりも少量の米で小仕込試験を行えれば育種選抜の効率化を図ることができる。しかし,一般的に総米量500g未満の小仕込試験は操作上の誤差や個体差の影響から繰り返し試験間のばらつきが生じやすく,しかも酒質が実用規模の酒と異なると言われている。そのため,小仕込試験は事例が少なく課題は多い。
 本研究では,農業総合研究センターと工業試験場が連携し,交配から5〜6年目の収量で実施可能な総米100g規模の純米酒用酒米の少量発酵試験法の開発を試み,再現性がよく,スケールアップに対し相関性が得られる試験方法を検討した。

2.内 容
2.1 供試材料および仕込条件
 掛米は精米歩合70%の山田錦(兵庫県産),麹米は市販の乾燥麹(徳島製麹(株)製I-60),酵母は純米酒や吟醸酒の醸造に一般的に用いられている清酒用きょうかい901号酵母,仕込水は県内酒造業者の井戸水を使用した。
 仕込み方法は前日水麹・1段の酵母仕込とし,麹歩合は20%,汲水歩合130%とした。発酵中は恒温水槽でもろみの温度を15℃に保った。ただし,発酵開始時の温度管理については後述2.3のとおり検討した。発酵中はもろみ重量の減少量(CO2重量減少量)で発酵経過を観察し,一定量減少した時点で遠心分離機で上槽(もろみを清酒と酒粕に分離する操作)して得られた清酒を分析試料とし,国税庁所定分析法に基づき一般成分を分析した。

2.2 上槽の目安となるCO2重量減少量の検討
 15℃一定でもろみを管理した場合,総米200g以上の少量発酵試験での上槽の目安とされているCO2重量減少量30g/総米100gで上槽すると,清酒のアルコール度数はおおむねやや低く,日本酒度もかなり甘口の値となっており,まだ発酵途中であると推察した。アルコール度数18%となるのはおおむねCO2重量減少量33.5g/総米100gを越えた時点であったことから,以降の実験ではCO2重量減少量が33.5g/総米100gに到達した時点を上槽の目安とした(表1)。

(表1 総米100gの少量発酵試験の上槽の目安となるCO2重量減少量の検討)

2.3 少量発酵法で得られる清酒の品質のばらつき抑制のための発酵管理条件の検討
 上槽時のCO2重量減少量をおおむね一定とすると清酒のアルコール度数はほぼ一定となったが,日本酒度にばらつきが見られた。その発生原因を検討するため1日当たりのCO2重量減少量を観察したところ,発酵開始から3〜6日目で減少量のばらつきが特に大きかった(図1)。この初期の発酵経過のばらつきが清酒の日本酒度のばらつきに影響しているものと考え,10℃で発酵を開始し15℃になるまで1日1℃ずつ昇温する温度管理を行ったもろみと,発酵開始から終了まで15℃で管理したもろみの比較を行った。その結果,前者で日本酒度のばらつきが小さくなった(表2)。なお,発酵開始時の温度が6℃,8℃ではかえってばらつきが大きくなった。これらのことから,少量発酵法で清酒の日本酒度のばらつきを抑えるには発酵開始時の温度を10℃にして1日1℃ずつ15℃まで昇温させる方法が有効といえる。

(図1 総米100gのもろみを15℃一定で管理した場合の1日あたりCO2重量減少量の推移)
(表2 総米100gにおける発酵温度15℃一定と10℃→15℃のもろみの清酒品質)

2.4 総米量の違いによる清酒品質の変化
 総米量の違いによる清酒品質について検討したところ,発酵温度が15℃一定の場合,総米100gでは総米500gのもろみよりも日本酒度が小さい甘口の酒となった。日本酒度は発酵開始温度を10℃とし1日1℃ずつ15℃まで昇温する温度管理では,総米100gと総米500gのもろみの清酒の日本酒度の差が小さくなった(表3)。

(表3 総米量の違いによる清酒品質の違い)

3.結 果
 以上の結果から,総米100g規模の少量発酵試験法でも,発酵開始時の温度を制御し,一定のCO2重量減少量を目安として上槽することにより,得られる清酒のアルコール度数や日本酒度のばらつきを抑えることができ,総米量の違いによる清酒品質の変化も小さくできた。
 今回開発した少量発酵試験法により,酒米育種選抜のより早い段階での発酵試験の導入が可能となった。
 今後はさらに大吟醸酒についての管理条件を検討するとともに,少量発酵法を大吟醸酒用酒米品種の育種選抜に応用するための評価指標についても検討を進めていく。