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酸味に特徴を有する酵母の育種・開発

■化学食品部 ○松田章 山田幸信 中村静夫

1.目 的
 近年,食の多様化や嗜好の変化に伴い,洋食に合うワインなどが増加し,清酒の売り上げが伸び悩んでいる。そこで,県内酒造企業から,清酒の需要拡大を図るために,若年層や女性をターゲットとして,清酒の旨味を残しつつ洋風料理とも相性の良いワインのような酸味を付与した清酒の開発が求められている。
 清酒の酸味のもととなる有機酸はその大半を酵母が生成し,特にリンゴ酸はさわやかな酸として官能的にも評価が高い。
 そこで,本研究ではワインを意識して酸味のある清酒の開発を目的に,リンゴ酸生成能の高い酵母の育種・選抜を行った。

2.内 容
2.1 酵母の選抜
 選抜の対象とした酵母は,A群:清酒用きょうかい酵母を対象に育種したシクロヘキシミド耐性株約30株,B群:石川県内の清酒もろみ約85種類(約1700株),C群:清酒用きょうかい9号酵母泡なし(K-901)とワイン酵母(OC-2)との細胞融合株の約40株である。まず,YM-10培地(酵母エキス0.3%,麦芽エキス0.3%,ポリペプトン0.5%,グルコース10%)30mlで20℃,3日間静置培養し,有機酸の分析を行ってリンゴ酸生成量の多い株を選抜した(1次選抜)。次に,1次選抜した酵母について麹エキス培地(ボーメ7,pH5.1)30mlを用い,15℃,14日間の静置培養によりリンゴ酸生成量が多く,香味ともに良好な株を選抜した(2次選抜)。

2.2 小仕込試験(総米500g)
 選抜した酵母の中から,香味の調和のとれたものについて,表1に示す仕込配合により総米500gの小仕込試験を行った。原料米として掛米には精米歩合70%の五百万石(平成17年度石川県産)を,麹米には乾燥麹(徳島製麹(株)製I-60)を使用した。麹歩合(総米に対する麹米の割合)を23.2%,汲水歩合(総米に対する汲水の割合)を130%とし,3段(工程順に初添、仲添、留添)の酵母仕込で行った。品温管理は初添,踊では15℃,仲添は8℃,留添は6℃で行った。その後,もろみの品温を徐々に上げ最高温度を12℃とし,その後徐々に温度を下げ,日本酒度±0を目標として 圧搾法により上槽(もろみを搾ること)した。

(表1 仕込配合(総米500g))

2.3 試験醸造(総米3kg)
 選抜酵母を用いて総米3kgの試験醸造を県内酒造企業で行った。仕込配合は表1の割合としスケールアップしたが,汲水歩合については130%の他,120%の条件を追加した。仕込操作は500gの場合に準じ,上槽は槽しぼりで行った。発酵液(YM-10培地,麹エキス培地)及び清酒の一般成分は国税庁所定分析法に基づき分析を行い,有機酸の含量は有機酸分析システムShodex OA(昭和電工(株)製)で測定した。また,総米3kgの試醸酒の味,香り及び総合評価について,13酒造企業27名の製造担当者を中心に5段階(1:良,2:やや良,3:普通,4:やや悪,5:悪)で官能評価を行った。

3.結 果
3.1 酵母の選抜
 1次選抜で18株, さらに2次選抜で6株を選抜した。この6株は, きょうかい7号及び9号酵母(K-7及びK-9)とほぼ同等のアルコール発酵能を示したので,この中からさらに酒造企業の製造担当者による官能評価で良好な3株を選抜した。この3株は各群から各々1株(以下各A株,B株,C株)であった。

3.2 小仕込試験(総米500g)
 A,B,C3株を用いて500gの小仕込試験を行い,得られた清酒のリンゴ酸含有量を図1に示す。いずれも対照のK-9と比較して清酒中のリンゴ酸は1.5〜2倍の高い値を示した。また表2に示すように,アルコール度数はいずれも17.5%前後で,対照のK-9とほぼ同等のアルコール発酵能を示した。また,酸度はいずれもK-9より高い値を示し,アミノ酸度はほぼ同等の値を示した。

(図1 各清酒のリンゴ酸濃度)
(表2 各清酒の一般成分)

3.3 試験醸造(総米3kg)
 3kgの試験醸造では,A,B,C3株と対照のK-9を加えた酵母4種類と汲水歩合2種類の計8種類の仕込みを行った。得られた清酒のリンゴ酸含有量は,いずれも500g仕込と同様,K-9と比較して1.5〜2倍程度の高い値を示した。
 官能評価の結果を総合評価の平均値として図2に示す。試醸清酒[2],[5],[7],[8]は普通(3.0)より評価がやや高くなった。また,好みは分かれたが,酸味と甘味を併せ持った[7],[8]に高い評価点が見られた。
 現在,これらの結果を踏まえ,県内酒造メーカーと製品化に向けて取組中である。

(図2 試醸清酒の官能評価)