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超薄板製品の三次元溶接装置の開発

■機械金属部 ○舟田義則 廣崎憲一 中島明哉

1.目 的
 電気電子産業や精密機械産業には,電子銃や圧力センサ,金属ベルト,ベローズ等の薄板溶接製品や部品が多く見られる。近年,それらに使用される部材の微細化や薄肉化が強く望まれており,微細かつ極薄な素材に対する高速で低コストな溶接技術の開発が望まれている。
 そこで本研究では,半導体レーザを搭載した三次元溶接装置を試作し,超薄板からなる実製品の溶接実験を行い,超薄板製品の三次元溶接技術における半導体レーザの有用性を検証したので以下にその結果を報告する。

2.内 容
2.1 三次元溶接装置の製作
 超薄板製品の表面上の任意の位置に法線方向からレーザ光を照射するためには,溶接製品を三次元的に位置決めできるステージとレーザ光の照射姿勢を制御する装置を必要とする。また,半導体レーザからのレーザ光は楕円形状であるため,レーザ光を回転させるための装置が必要となる。そこで,図1に示すような全6軸の多軸システムを設計した。これを基に,半導体レーザを搭載して実際に製作したのが図2に示す三次元溶接装置である。
 試作した三次元溶接装置は一台のパソコンで多軸同時制御している。さらに,装置に搭載した半導体レーザの電源も同一のパソコンで制御しており,溶接製品の動きに合わせてレーザ光の出力が同時に制御可能である。

(図1 三次元溶接装置概念図)
(図2 三次元溶接装置試作機)

2.2 実製品を用いた溶接試験
 製作した三次元溶接装置の性能を評価するため,図3に示すステンレス製品(SUS304)の合わせ溶接試験を行った。この溶接ワークの先端は丸く閉じており,また,扁平につぶれている特殊な形状を呈しており,織機部品として使用されている。
 溶接試験では,ワークを専用治具で固定した後,図4のストレート部から溶接を開始し,先端部を経由して反対側のストレート部を溶接して終了する。その間,レーザ光が常に溶接部の法線方向から照射されるように溶接ワークを位置決めした。なお,ワークの先端は単一半径の円弧ではなく,楕円の一部である。そこで,半導体レーザ溶接装置に付随する同軸モニタ機能を用いて先端形状を計測し,計測データに基づいて,レーザ光を先端部表面に正確に集光できるようY軸およびq軸を同時に多軸制御した。

(図3 ステンレス製溶接ワーク)
(図4 溶接試験方法)

2.3 溶接試験結果
 レーザ出力100Wおよび溶接速度10mm/secの条件で試験した溶接ワークの溶接部外観を図5に示す。いずれの部分においても溶接ビードが途切れることなく安定して形成されており,十分な溶接が行われたことがわかる。しかしながら,その溶け込みは,図6に示すように場所によって不均一であった。これは,行きストレート部の溶接熱が帰りストレート部に伝導し,これが予熱として作用した結果,帰りストレート部の溶け込みが深くなったと考えられる。
 そこで,図7に示すように,行きストレート部で100Wとするレーザ出力を帰りストレート部で80Wに変化させながら溶接を行った。その結果,図8に示すように,溶接部の溶け込みは行きストレート部および帰りストレート部で同じとなり,均一化が図られた。

(図5 溶接部外観)
(図6 溶接部断面)
(図7 レーザ出力設定)
(図8 レーザ出力補正後溶接部断面)

3.結 果
 半導体レーザを搭載した超薄板製品用の三次元溶接装置を開発した。溶接ワークの動きに合わせてレーザ出力を変化させることで,ステンレス製品の溶け込みが均一になるよう溶接が可能であり,装置の有用性を明らかにした。