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熱変形に強い工作機械制御法の開発 ―熱負荷イミュニティを有する次世代型超精密NC制御法の開発―

■管理部 ○中薮俊博 機械金属部 中野幸一 廣崎憲一 舟田義則 中島明哉 電子情報部 田村陽一
■金沢大学工学部,津田駒工業(株),シグマ光機(株),(株)松浦機械製作所

1.目 的
 工作機械はその動作基準が機械の案内面精度を基準にしているため,局部的な温度差により生じる熱変形により加工物の精度低下を引き起こす(図1)。そのため,高精度を要する機械加工は室温が20℃に制御された恒温室で実施するのが一般的である。そこで,本開発は機械から独立した変形しない直交座標系をマシニングセンタ(以下MC)に設置し,この座標系を基準にして機械を動作させることによって熱変形の影響を受けない加工を実現しようとするものである。また,本システムでは,MCに発生する18個の全幾何学的偏差(位置決め偏差,直進偏差,ピッチ,ヨー,ロール)をMCに設置したレーザ干渉計により測定し,それらから求められる実工具位置が本来の指令位置となるようにインプロセスで制御する(図2)。この研究成果は県内の工作機械や光学機器関連業界へ技術移転することを目指している。

(図1 MCに発生する加工点誤差)
(図2 工具実位置のインプロセス制御)

2.内 容
 研究開発は市販のMCを利用し,以下の項目ごとに分担して実施した。
2.1 MC本体の改造
 MC本体は,市販のテーブル移動立形MCの鋳物 フレームをそのまま利用し,図3のようにレーザ発 振器や各種偏差測定器を搭載するための支持台を設 計製作し,本体に取り付けた。また,レーザ光路に は保護カバーを設けて切削加工も可能にした。なお, 本制御法は,モータ送りへフィードバックするデー タを演算するものであるから,母体となるMCに付属 のNC装置は改造の必要がなく,NC機能はそのまま利用している。

(図3 測定器を設置したMC)

2.2 ロール測定用干渉計とミラーの設計製作
 MCに発生する18個の全幾何学的偏差の中で,実用的にロールを測定するためのレーザ干渉計がこれまでに開発されていない。そこで, MCに組み込みを可能とし,分解能を向上させたロール測定用干渉計およびミラーの設計・製作を行った(図4)。

(図4 開発した干渉計(左)と反射鏡(右))

2.3 直進偏差と直角度の同時測定用干渉計とミラーの設計製作
  本開発では機械から独立した変形しない仮想の直交座標系をMCに設置することが重要である。本システムは,変形しない直交座標系として,ペンタミラーを用いて直角な2方向に分光するレーザ光を3組使用し,これらで三次元直交座標系を形成しMC上に固定した。MCのテーブルやサドルの直進偏差および直角度は,この直交座標系を基に真直度干渉計によって検出される。

2.4 演算装置の設計製作
  演算装置は,MCの幾何学的偏差から理論的に求められる実工具位置をNC装置へフィードバックデータとして転送する回路であり,全測定偏差を取り込むレーザ測定VMEボード,工具実位置を演算するパルス出力VMEボード,NC転送用フィードバック信号を作成するパルス変換VMEボードから構成される。また,フィードバック信号は,温度,湿度,気圧の各測定器から得られるデータによって波長補正を実施した。

3.結 果
 試験運転を行った結果,計測データのバラツキが大きいことなどの原因により,制御の効果は十分に確認できなかった。しかし,これまで全く測定が不可能であったロール測定用干渉計などの要素技術の開発に成功した。
 開発したロール測定干渉計の仕様は以下のとおりである。
(1)被測定物の運動方向と平行にレーザを照射して測定が可能
(2)測定感度推定値は,1.6704×10-5(mm/″)
(3)MCの各移動軸(最大移動長800mm)に発生するロール測定が可能(図5)

(図5 テーブルのロール測定結果)

 本研究開発は,機械の変形防止のための室温制御が不要になる効果が期待されるため,経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業の「省エネ枠」に採択されたものである。なお,本報告は経済産業省との事業委託契約書第30条ただし書きにある[1]工業所有権出願済みの範囲と,[2]提案前に公表された技術内容に限って公表したことを付記する。