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釉性状の改質に関する研究

■九谷焼技術センター ○橋 宏 若林数夫

1.目 的
 九谷焼において上絵加飾を問題なく行うためには,釉の特性は非常に重要である。これまでに釉の特性は,釉泥ショウの粒度分布によって大きく左右されることを明らかにしてきたが,組成が釉を特徴付ける最も重要な点であることにかわりはない。釉の粒度分布や組成どちらについても,生産現場である窯元が独自に調整することは容易ではない。しかしながら上絵剥離対策として釉への珪石添加という実例もある。本研究は,珪石添加の例のように,釉に添加剤を加えることによる効果を調査検討し,市販の釉を生産現場の現状に即した釉へと改良するための知見を得ることを目的としている。更には,新しい釉を開発する場合においても本研究の知見から,物性の予測が容易となり開発期間の短縮が期待できる。

2.内 容
2.1 試験釉の作成
 基礎となる釉は,長石,珪石,石灰及びカオリンをミルで混合粉砕して作成した。20μm以上の粗い粒子の割合が14mass%となるように調整した。次に基礎釉に添加剤をそれぞれ,2.5,5.0,7.5,10mass%の外割で加えて試験釉とした。加える添加剤は,珪石(SiO2),炭酸ストロンチウム(SrCO3)及び亜鉛華(ZnO)とした。なお,亜鉛華については1000℃で1時間仮焼したものを用いた。

2.2 試験片の作成
 試験片は径が約100mmの皿と,鋳込み成形した100mm角の板を8×4×40mmに切り出したものを用いた。皿は上絵剥離試験及び貫入試験用に使用した。板は曲げ強度試験用に使用し,そのサイズは日本セラミックス協会規格(JCRS203-1996)に準拠したものである。また,異なるハイ土への強度に対する効果を比較するため,板の試験片は二種類のハイ土 (通常の鋳込みハイ土,透光性ハイ土)を準備し使用した。

2.3 釉の評価
 添加剤の効果として上絵剥離試験及び貫入試験を行った。上絵剥離試験は耐酸絵具を素地に塗布し,焼成を3回繰り返した後の上絵の状態を観察した。貫入試験は試験片を230℃で1時間以上加熱した後,30℃の水中に投入した際に発生したヒビの状態を観察した。強度試験は3点曲げ試験を行った。試験条件は上記日本セラミックス協会規格に準拠した。また,添加剤による白色度の変化について測色計を用いて評価した。

3.結 果
3.1 上絵剥離及び貫入試験
  各試験釉の上絵剥離及び貫入試験の結果を表1に示す。上絵剥離試験においては3回焼成後の絵具の状態を観察し,絵具の一部分でも剥がれたり欠けたりした場合でも剥離と判定した。貫入については基礎釉の特性として,200℃の温度差では必ず細かなヒビが発生するため,ヒビの状態や増減について観察することとした。
 珪石は生産現場の実施例通り上絵剥離に効果があることが確認できた。ただし貫入については注意が必要である。炭酸ストロンチウムは,炭酸バリウムの代替品として選択した。添加量の増加は上絵剥離発生の可能性を高める。一方で貫入は添加量の増加にともない減少傾向にあり効果が認められた。亜鉛華は添加量7.5mass%において上絵の縁が僅かに欠けた状態となったため剥離と判定したが,概ね問題ない結果であった。貫入はヒビの減少だけでなく,深さ方向に対しヒビが浅くなることが特徴的であった。亜鉛華の添加は上絵剥離に対し問題なく,貫入に対しては防止効果があることが判明した。

(表1 上絵剥離及び貫入試験結果)

3.2 曲げ試験結果
 試験結果を図1に示した。STDと表記したものは,ハイ土(通常の鋳込みハイ土及び透光性ハイ土)に基礎釉を施釉したものである。図中のSiは珪石を添加した釉を施釉したサンプルを示し,ハイフン後の数値は添加量を示している。同様にSrは炭酸ストロンチウム,Znは亜鉛華を添加した釉を施釉したサンプルを示している。どちらのハイ土の場合でも,添加剤の添加量増加にともなう強度の変化はほぼ同様の傾向であった。添加剤各々についてみると,珪石の添加は若干ではあるが通常鋳込みハイ土で強度の向上がみられた。炭酸ストロンチウムについては,約5MPaの強度向上がみられた。これは二種類のハイ土ともほぼ同様の傾向であった。亜鉛華の添加では,添加量5.0mass%において通常鋳込みハイ土で約10MPaの強度向上がみられた。

(図1 3点曲げ試験結果)

3.3 白色度測定結果
 添加剤及び添加量によって白色度に変化がみられた。珪石及び亜鉛華の添加は白色度を向上させ,炭酸ストロンチウムは白色度を低下させる。これは釉中に残留した結晶性粒子と発生した気泡の状態(大きさ,数)に影響していることが断面の観察で推測された。