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鋳造シミュレーションを用いたモノづくり支援

■機械金属部 ○藤井 要

1.はじめに
 近年,短納期化,低コスト化,高品質・高付加価値化,省エネ等を目的として,設計段階のみならず,製造段階においてもシミュレーション(以下CAE)の利用が注目されている。鍛造,熱処理,溶接等の生産技術分野におけるCAEの中で,現在最も導入効果が大きい分野の一つとして注目されているのが鋳造分野である。鋳造CAEは,1960年代に2次元凝固解析が行われて以来,3次元への拡張,引け巣予測法の開発,計算の高速化,モデルの大規模化等を経て,現在実用化の域にあるといわれている1,2)。しかしながら,本県鋳造業界においては,実用を意識して鋳造CAEを利用した実績はほとんどないのが現状である。そこで,当場では,平成17年度に鋳造CAEシステムを導入し,県内中小企業の生産現場と直接結びついた鋳造方案検討を,依頼試験,指導を通じて繰り返すことで,鋳造CAE技術の普及を支援している。導入から約一年半経過した現在,ようやくモノづくり支援のための有用なツールとしての実績が見え始めたので,以下にその状況を報告する。

2.石川県内における鋳造CAEの現状
2.1 利用状況
 当場における平成17年10月から平成19年4月までの解析実績は,10企業30アイテムに及ぶ。企業別に解析アイテム数をグラフ化したものを図1に示す。IT技術の進歩とともに,CADによる製品設計が普及し,製品の発注や受注のやりとりも電子データを媒体として行われている。受注した製品の図面データが3D/CADによる3Dデータの場合,製品図面に鋳造方案を加えることで,解析用データとしてすぐに用いることが可能である。しかし,県内鋳造関連企業においては,製品図面が3次元化されていない古い製品を取り扱っている場合も多く,仮に3次元化された新しい製品においても,方案設計を含めた型製造を外注の模型業者を介して行うため,鋳造企業が自社で3D/CADシステムを有していなことが多い。そのため,解析のための3Dデータ作成は外注の模型業者に頼らざるを得ない現状にある。鋳造CAEを用いた鋳造方案の検討は,3Dデータに変更を加えながら行うことが必須であるため,利用実績の多い企業は自社で3D/CADを保有している場合が多い。

(図1 鋳造CAEの利用実績 (H17.10.〜H19.4) )

2.2 CAEの利用目的
 図2は,利用実績を解析の利用目的別に整理したグラフを示す。一般的に,CAE活用によって最も期待が寄せられる効果として,試作回数削減によるリードタイム短縮がある(図3)。しかし,県内の利用実績において,新規アイテム立ち上げに取り組む事例は全体の21%と比較的少なく,現行の製造プロセスの見直しによる不良率低下を目的としている場合が多い。これは,試作鋳造と鋳造CAEによる方案検討プロセスを比較した場合,鋳型代等の材料コストがかからないメリットを加味した上でも解析時間が長期に及ぶ点等が問題視されるためと考えられる。事実,CAEにおいて,解析精度を向上させるためには,形状近似精度を上げるため分割数を増やし影響要因をすべて考慮した鋳造条件を設定する必要があるため,解析時間の短縮には限界がある。

(図2 解析結果の利用対象)
(図3 鋳造CAEによる試作回数の低減)

2.3 解析事例
 図4に,鋳造CAE解析の目的別に整理したグラフを示す。湯流れ解析による湯まわり不良,湯境欠陥の予測は,解析結果の見極めが困難であることから利用目的としては少ない。現状では,凝固解析によるひけ巣欠陥位置の同定を目的とした事例が多く,指向性凝固を意図した設計を行う上での押し湯形状や大きさを検討する場合に利用されている。今回発表では図5に示すフレームを題材に,○印で囲まれた押し湯箇所の必要性を検討し,新アイテムの立ち上げに関し成果を得た事例について報告する。

(図4 解析の種類)
(図5 凝固解析の事例 (オカダ合金(株)提供) )

3.まとめ
 県内の鋳造業界の高度化を支援するため,鋳造CAE利用の可能性を検討した。現在までに10企業が利用し,製品アイテム数30と多くの解析実績を得た。解析目的の多くは現行製造品の不良率削減であり,新規製品立ち上げに関する事例は少なかった。しかしながら,試作数低減に結びつき直接的なコストと納期短縮に役立つ事例もあった。

参考文献
1) 大中逸雄:「コンピュータ伝熱凝固解析入門」
2) 大塚幸男:「鋳造CAEの実用化動向と今後の課題」鋳造工学Vol.78 12 (2006)