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小型積層超音波アクチュエータの開発

■機械金属部 ○高野昌宏 新谷隆二 中野幸一
■ニッコー(株)  安藤浩二 滝本幹夫

1.目 的
 近年,電子・情報産業の技術進歩に伴い,精密部品の更なる微細化,高集積化が求められており,ナノオーダの検査や加工を行う超精密位置決め装置の必要性が増加している。従来の電磁モータによる位置決め装置ではボールねじのバックラッシュ等の構造的な問題点のため,ナノレベルの精度を得ることは困難であった。また,機器の小型化に伴い,位置決め装置にも小型化・軽量化が求められている。このような背景から次世代の位置決め装置として超音波アクチュエータが期待されている。この超音波アクチュエータは,小型軽量,応答性が高い,作動音がしない,停止時の保持力が大きいなどの優れた特性を有している。また,原理上電磁ノイズを発生しないことから,非電磁性環境への応用も期待できる。しかし,摩擦駆動特有の制御性の複雑さから,ほとんど実用化されていないのが現状である。本研究では,超音波アクチュエータにおける摩擦駆動時の接触圧と送り量を個別に制御できる独立励振駆動方式を提案し,従来非線形であった極微動領域の駆動特性を線形化した制御性の良好な超音波アクチュエータの開発を目的とする。

(図1 超音波アクチュエータの駆動原理)

2.内 容
2.1 超音波アクチュエータの駆動原理
 超音波アクチュエータは,一般に振動子と移動子で構成されており,その駆動原理を図1に示す。振動子左面に設けられた突起部分では,あたかもムチがしなるようにだ円運動を生成し,この突起の先端を移動子に接触させると,移動子は下方に送り出されながら間欠的に接触する。また,だ円運動の回転方向を反転させると移動子は上方向に移動する。振動子のだ円運動は,互いの振幅が直交し,固有振動数がほぼ一致した二つの固有振動モードを用いることにより生成する。これらの条件を満たした振動子は,同時に二つの固有振動モードが励振され,だ円運動が生じる。以上の原理により,移動子の位置決めを行っている。

2.2  超音波アクチュエータの構造
 本研究では,小型化,量産性を考慮して,振動子形状を矩形とし,縦1次,曲げ2次の固有振動モードを用いた。図2に本振動子の縦1次固有振動モード,曲げ2次固有振動モードを示す。図中のA点で二つの振動モードの振幅が互いに直交するため,A点にだ円運動を生成させることが可能である。また,振動子の形状寸法は二つの固有振動数が一致するように決定し,材質は圧電セラミック材料(PZT)を用いることにした。PZTは電圧を印加すると伸縮する特性(圧電効果)があるため,広く超音波振動子に使用されている。本振動子においても,固有振動モードを励振させるために圧電効果を利用した。振動子の電極は,二つの振動モードが独立して励振できるように,図3に示す構造とした。また,積層構造とし,低電圧駆動を可能とした。図3の電極αに電圧を印加すると縦1次固有振動モードが励振し,電極βに電圧を印加すると曲げ2次の固有振動モードが励振する。本振動子はこのように二つの固有振動モードを独立して励振することで,A点におけるだ円軌道(横方向振幅と縦方向振幅)を自由に調整することが可能である(図4参照)。ここで,縦方向の振幅は摩擦駆動時の接触圧に影響し,横方向振幅は送り量に影響する。ゆえに,独立励振駆動方式では,接触圧を一定のまま送り量のみを変化させることができるため,より高分解能な位置決めを行える。図5に超音波アクチュエータの駆動特性を示す。従来の超音波アクチュエータでは,極微動領域で非線形性が生じているが,独立励振駆動方式では,微動領域の非線形性が無くなり,より高分解能な位置決めが可能となった。

(図2 固有振動モード)
(図3 振動子の電極構造)
(図4 超音波振動子の接触部)
(図5 超音波アクチュエータの駆動特性)
(図6 試作した超音波アクチュエータ)

3.今後の予定
 小型・高精度の位置決め機構を開発することを目的として,独立励振方式の小型・積層超音波アクチュエータを試作した。試作した超音波アクチュエータの外観を図6に示す。アクチュエータ駆動時のだ円振動の振幅は,レーザドップラを用いて計測したところ,解析とほぼ一致し,設計通りの良好な性能が得られていることを確認した。今後は,実用化に向けて,制御ドライバの構築,位置決め装置の製作を行っていく予定である。

謝辞:本研究は,財団法人北陸産業活性化センターのR&D推進・研究助成事業に基づき行われた。