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珪藻土を用いた応用製品の指導事例

■化学食品部 ○北川賀津一 豊田丈紫 中村静夫

1.目 的
  珪藻土は珪藻単細胞藻類の珪藻遺骸(珪藻殻)が,海底や湖に沈積してできた堆積岩である。珪藻殻は円形と羽形状に大別され,0.1μmから数μmの無数の微細な気孔が存在し多孔性を示す。全国で工業的に珪藻土を採掘しているのは北海道,秋田,石川,岡山,島根,大分,鹿児島の1道6県である。石川県能登半島の珠洲地区,七尾地区,輪島地区には27億トンと国内最大の珪藻土が埋蔵している。能登珪藻土は他産地の珪藻土と比較して相当量の粘土を含むので,成形しやすい特性を活かして断熱レンガ,七輪,土壌改良材,輪島塗「地の粉」等に使用されている。しかし埋蔵量と比較して利用されている能登珪藻土の量は少ない。
  当場では,平成15年に能登珪藻土製品化研究会(会長 広瀬幸雄氏:金沢学院大学知的戦略本部長兼同大学教授,金沢大学大学院特任教授)を発足して能登珪藻土の新規用途開発を進めてきた。本発表ではこの研究会等で取り上げられた吸放湿壁材への取組み,切出珪藻土の乾燥・焼成亀裂防止技術,珪藻土デザインコンロ開発の3例の取組みについて報告する。

2.内 容
2.1 能登珪藻土製品化研究会について
  能登珪藻土製品化研究会の会員は七尾地区及び珠洲地区の珪藻土製造業,建築関連企業等の合計30機関である。情報提供と技術開発支援,製品化のための勉強会を行っている。図1に研究会活動風景,図2に研究会活動で開発された珪藻土壁材の事例を示す。
( 図1 能登珪藻土製品化研究会の活動風景)
( 図2 珪藻土壁材((株)イスルギ提供) )

2.2 能登珪藻土の吸放湿特性
  吸放湿壁材とは多孔質性材料のもつ水蒸気の吸放湿作用を利用して,室内の相対湿度の変動を緩和し,また,適度な湿度状態になるように自然に調整する内装用の材料である。最近はかびやダニの発生,高断熱・高気密化による過乾燥,VOC(揮発性有機化学物質)のような化学物質による空気汚染によって発生するアレルギー症状が社会問題化している。住まいの健康や安全に関わる様々な問題に対して,天然の素材を用いて化学物質を出さずに室内の湿気を調整できる吸放湿壁材が注目されている。本研究会では,能登珪藻土が高湿度で水分を吸収し,低湿度で水分を放出する性質に着目し,吸放湿壁材の研究を進めてきた。
  吸放湿特性は以下の2通りの方法で測定した。第一の方法は,示差熱分析装置で温度を変化させる方法である。試料10mgをアルミ容器に秤量し室温から50℃まで毎分4℃で昇温した。50℃に到達後15分間保持後,30℃まで毎分4℃で降温させ15分保持した。上記操作を6回繰り返した。
 第二の方法として,飽和塩類水溶液で湿度雰囲気を作成し平衡含水率を測定する方法を用いた。平衡含水率とは,ある相対湿度の空気のもとで材料を長時間放置した後の材料内の水分量と材料の重量比の百分率をいう。平衡含水率の測定は,30℃で4種類の飽和塩類(Na2CO3: RH87%, NaCl: RH75%,K2CO3: RH45%,CaCl2: RH26%)水溶液で恒温槽内に一定湿度雰囲気を作成し,その状況で試料を平衡に達するまで放置した場合の水分吸放湿量を測定した。
 能登珪藻土を用いて,大気中の吸放湿挙動を示差熱分析装置で測定した(図3)。温度が30℃から50℃に上昇すると重量が減少し吸熱ピークが観測された。温度が50℃から30℃に降下すると重量が増加し発熱ピークが観測された。
この吸熱ピークは吸着水の脱離に,発熱ピークは水蒸気の吸着に対応する。示差熱分析装置で測定した試料の重量減少率と重量増加率から算出した平均水分の吸放湿特性(%)を能登珪藻土以外の他のサンプルと比較し次の結果を得た。Ca型モンモリロナイト>シリカゲル>セピオライト>Na型モンモリロナイト>能登珪藻土>クリストバライト>蛙目粘土>木節粘土。平衡含水率についても示差熱分析装置による方法と同様の結果が得られた。

(図3 示差熱分析法による能登珪藻土の吸放湿特性)
(図4(a) 能登珪藻土(2μm以下)の平衡含水率)
(図4(b) 能登珪藻土(2μm以上)の平衡含水率)

 能登珪藻土を粒子径2μmで水簸分級した後のサンプルについて,500〜1100℃で焼成した後,平衡含水率を測定した。平衡含水率による吸放湿特性は2μm以下(図4a)の部分は2μm以上(図4b)よりも約2倍高くなった。これは粒子径2μm以下に粘土鉱物が濃縮されるためである。焼成温度と吸放湿特性の関係は,未焼成の珪藻土が最も吸放湿特性が高く,500℃,800℃,1100℃と焼成温度が上がると能登珪藻土の吸放湿特性は低下した。1100℃焼成の場合には吸放湿をほとんど示さなかった。能登珪藻土は酸化鉄が3%,酸化カリウムが1%,酸化ナトリウムが0.5%以上含まれるので,比較的低温度から焼結が急激に進むためより高温焼成になると吸放湿特性が低下したと考えられる。
 能登珪藻土は適度の吸放湿壁材機能を示し,しかも能登珪藻土を用いた壁材は自然の素材を用いているのでシックハウス症候群対策にも有効である。

2.3 切出珪藻土の乾燥・焼成亀裂防止
 珠洲地区の珪藻土は地下深く広く採掘されている。珪藻土鉱床の坑道から慎重に切出した珪藻土ブロックを七輪やコンロの形状に内側をくり抜き,外側も人の手で削り上げている。これを薪窯で焼成することで製造されている。切出コンロを製造する企業は現在,珠洲地区に3企業ある。比較的大きな珪藻土ブロックを切出すので乾燥や焼成で亀裂や割れが発生しやすい。本研究会では発生原因を調べその防止方法を検討した。 切出コンロ製造企業から切出した珪藻土ブロックの物性を調べた。切出した珪藻土ブロックは1000万年以上かけて固まったもので非常に硬いブロックである。実験台に落とした程度では傷がつかない。水分を測定すると50〜60%であった。このブロックを昇温速度200, 300, 400℃/hと変えて800℃の最高温度に上げた。10分間または30分間保持後焼成した。
 図5は昇温速度300℃/hの焼成品断面である。昇温速度200℃/hでは内部までほぼ均一に焼成が進んだが,昇温速度300℃/hと400℃/hでは内部は未焼成の部分が発生した。また,昇温速度200℃/hでは亀裂が発生しなかったが,昇温速度300℃/hと400℃/hでは試料設置面と平行に外から亀裂が発生した。

(図5 昇温速度300℃/hの焼成品断面 )

 図6に切出珪藻土ブロックについて焼成温度と収縮率の関係を示す。能登珪藻土は多孔質の珪藻殻から構成されるので昇温速度を変えても収縮率やかさ比重の物性は大きくは変化しない。薪窯では外側から乾燥や焼成が進む。切出した珪藻土ブロックは水分を大量に含むので,外側は乾燥状態 でも昇温速度が早い場合は内部にかなり大量の水分を含む。このとき内部には中心方向へ収縮する応力が発生する。しかし外部は固定されているので,水分が多い状態で乾燥が急速に進むと応力が集中してその箇所を起点として亀裂が発生する。この亀裂を防止するには,あらかじめ試料を予備乾燥するか,乾燥時間を長くするのが効果的である。

(図6 昇温速度と焼成品収縮率)

  図7は焼成温度と曲げ強さの関係を示す。焼成温度が高くなるにつれて曲げ強さは高くなる。焼成温度が高くなると珪藻土に含まれる珪藻殻,粘土粒子の結合が強くなり機械的強度が高くなる。切出珪藻土ブロックは珪藻殻や粘土鉱物で主に形成されるが,その他不純物も含まれているので,それが亀裂発生の原因となることも予想される。 しかしこの場合も乾燥時間を長くすることや焼成温度を注意深くコントロールすることで,七輪やコンロの亀裂防止は可能である。

(図7 焼成温度と曲げ強さ)

2.4 珪藻土デザインコンロ
  珪藻土コンロには,1)炭火遠赤外線効果により肉などを内部まで均一に焼き上げる,2)アルカリ性の灰がタンパク質の酸性と中和して旨味を出す,3)火が通りやすくて熱を逃がさないなどの特徴がある。能登珪藻土から作った七輪やコンロは断熱性が高いので,燃焼している部分は高温になっても外壁は手で触れるくらいの機能性を有する。しかしデザイン的には古いイメージがあった。
 そこで自動車に持ち込んで,野外バーベキューを楽しむことも出来るコンロを開発する目的で平成17年度に,デザインコンロを試作した(ISICO新産 業支援産学官ネットワーク形成事業電源地域振興モデル事業)。
  デザインされたコンロを図8に示す。珪藻土の持つ自然のぬくもりを表現できるように,工業試験場では900℃焼成品について熱伝導率を測定した結果,いずれの場合もJIS工業規格を満たす断熱性を示していることがわかった。

(図8 珪藻土デザインコンロ(宮本デザインワークショップデザイン,(株)鍵主工業試作))

3.結 果  
  能登珪藻土製品化研究会の指導事例を通して以下のことがわかった。
1)能登珪藻土の吸放湿特性は粒径が2μm以下の方が2μm以上より高くなった。焼成温度が低いほど比表面積や吸放湿特性が高くなった。
2)切出珪藻土は水分を大量に含むため,乾燥と焼成を長時間行うことで亀裂の発生を抑えることができた。
3)珪藻土コンロを新たな視点で軽量かつ珪藻土の自然のぬくもりを感じさせる野外バーベキュー用コンロを設計できた。 今後,指導事例で発表した珪藻土応用製品に関しては,商品開発を進めている。