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微生物を用いたガソリン汚染土壌の修復支援

■化学食品部 ○井上智実 中村静夫

1.目 的
 工業試験場では,企業の技術的諸問題や製品開発における技術的課題を解決するため,研究員等派遣指導制度を設けている。ここでは,(株)ゲイト(金沢市)より依頼のあった,微生物を用いたガソリン汚染土壌の修復について技術指導を行ったので,その成果を報告する。本指導では,微生物学的な知見から,ガソリン汚染土壌中に含まれるベンゼン(環境規制物質)の除去を目的に,土木施行方法,微生物や栄養塩の注入量,修復モニタリングなどについて技術支援を行った。

2.内 容
2.1 ガソリンスタンド土壌の事前調査
  調査は,図1中の点線で示したように,敷地を9つのエリアに分けて実施された。ボーリングはA1〜4,B1〜4地点において,深さ10mまで行われ,油臭が認められた箇所は,ベンゼンの含有量が測定された。なお,サンプリングは土壌対策法の調査手法に従い,深さ1mごとに行われた。

(図1 ガソリン汚染土壌の調査)

2.2 土木施行
  ガソリンスタンドの地表はコンクリートで覆われているため,直径17cmでコア抜きをして,土壌表面を出した。次に,任意の深さまで掘削し,塩ビパイプ(直径5cm,薬液を30cm間隔で注入可能な構造)を1.4m間隔で埋め込んだ。土木施行は11月下旬より開始し,微生物および栄養塩の注入は12月初旬に行った。

2.3 微生物および栄養塩の注入
  微生物はアシネトバクター属2種類とロドコッカス属1種類の合計3種類を培養し,土壌1gに対し約1×108個となるように注入した。また,栄養塩は,硫酸アンモニウム,硝酸ナトリウム,リン酸水素二カリウムを主成分とした塩類を土壌1m3に対し300gとなるように注入した。さらに,3ヶ月後,ベンゼンが残存している地点には,微生物および栄養塩を追加注入した。

2.4 分析方法
  土壌中に含まれるベンゼンは,計量証明事業所にて,溶出試験後,JIS K 0125 5(1998) ヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析法により測定された。

2.5 モニタリング
  修復状況のモニタリングは,C1〜7地点において,2ヶ月後と3ヶ月後にガス吸引法でベンゼンおよびTPHs(全石油系炭化水素)の簡易測定を行った。また,4ヶ月後には土壌を採取して,土壌に含まれるベンゼンの量を測定した。

3.結 果
3.1 土壌の事前調査結果
  調査結果は,地下タンクの西側および南側に位置するA3,B2〜4地点の深さ3〜5mにおいて,ベンゼンが環境基準値(0.01mg/L以下)を超えて検出された(表1)。そこで,ベンゼンが検出されたエリアを,5m×5mで7区画(図1中C1〜7)に分けて修復エリアとした。また,深さ方向は汚染のあった1m先までを修復エリアとした。これにより,各区画における土壌修復の深さは,C1,2,4,6では5m,C3では2m,C5,7では4mとなり,修復土壌の容積は約600m3となった。

3.2 土壌修復のモニタリング結果
  微生物注入2ヶ月後および3ヶ月後のベンゼンの簡易測定結果を表2に示す。C2,5,7地点では,2ヶ月経過後にはベンゼンが検出されなかった。また,C1,3,6地点では2ヶ月経過後から3ヶ月後にかけて検出量が減少した。一方,C4地点では検出量が13ppm増加した。C7地点の簡易分析結果からベンゼンが検出されなかったため,事前調査でベンゼンが検出された同一区画内のB4地点の土壌を採取し,ベンゼンの測定を行った。その結果,検出値は0.001 mg/L未満となり,ベンゼンはほとんど検出されなかった。従って,C2,5地点においてもベンゼンが除去されたものと考えられた。
  微生物注入2ヶ月後および3ヶ月後のTPHsの簡易分析結果を表3に示す。C2,5,7地点では,2ヶ月後,TPHsが検出されなかった。また,C1,3,5,6地点では2ヶ月経過後から3ヶ月後にかけて検出量が減少した。なお,C5地点では3ヶ月後にはTPHsが検出されなかった。一方,C4地点では検出量が3.2ppm増加した。
  以上の結果より,ベンゼンとTPHsの検出量には相関関係が認められ,また,微生物による分解が進んでいることが確認された。
  微生物注入4ヶ月後における土壌中のベンゼンの測定結果を表4に示す。C1,2,3,5,6,7地点では,環境基準値を超える量のベンゼンが検出されず,微生物により土壌修復されたことが確認された。一方,C4地点では深さ3m,4mに基準値を超えるベンゼンが残存していた。これは,表2の測定結果より,2ヶ月後から3ヶ月後にかけベンゼンの検出量が増加していたことから,ベンゼンの再汚染の可能性も考えられた。
  今後もベンゼンの残存状況を把握しながら,適宜支援を行っていく。

(表1 土壌修復前のベンゼン測定結果(mg/L))
(表2 ベンゼンの簡易測定結果(ppm))
(表3 TPHsの簡易測定結果(ppm))
(表4 修復土壌中のベンゼン測定結果(mg/L))