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メソポーラスシリカの合成と鉛吸着特性

■化学食品部 ○笹木哲也 嶋田一裕 田畑裕之

1.目 的
 近年,環境保全の問題から簡易型分析装置のニーズが高まり,鉛など有害元素の高感度検出を実現する前処理用濃縮材料の開発が求められている。
 これまで,鉛担持材料として合成繊維や樹脂などを用いた鉛濃縮能材料の開発が行われている。しかし,これらの材料では鉛の吸着サイトが少ないこと,吸脱着の速度が遅いことなどの問題がある。これらの問題を解決するため,我々はメソポーラスシリカを鉛担持材料として利用することに着目した。メソポーラスシリカは,数nmの規則正しい細孔構造を持ち,表面積が大きく,さらに細孔内に有機基を導入することで吸脱着特性を制御することも可能であることから,鉛担持材料として有望と考えられる。
 本研究では,基本骨格のメソポーラスシリカに加え,鉛吸着能を有する有機基を導入した数種類のメソポーラスシリカの合成を試みた。そして,これら合成材料の構造上の特徴と鉛吸着能の関係を評価,考察し,メソポーラスシリカの鉛吸着材料への利用の可能性と今後の課題を検討した。

2.内 容
2.1 合成
  界面活性剤がミセル形成した溶液中にシラン原料液を入れ,界面活性剤を鋳型としてメソポーラスシリカを合成した(図1)。メソポーラスシリカの細孔内に残っている界面活性剤は塩酸-エタノール溶液で除去した。
 有機基を導入していない基本骨格タイプ,有機基を側鎖に持つ側鎖タイプ,有機基を直鎖に組み込んだ骨格組込タイプの3タイプ4種類のメソポーラスシリカを合成した(表1,図2)。
  側鎖タイプは二種類のメソポーラスシリカを合成した。特に,チオール基は鉛の高効率吸着能を付与するために導入した。骨格組込タイプは細孔径を大きくするため,長鎖の界面活性剤を用いて合成した。

(図1 合成のイメージ図)
(表1 導入した有機基)
(図2 細孔壁のイメージ図)

2.2 構造評価
(1) 電子顕微鏡観察
  (独)産業技術総合研究所中部センターの協力を得て,透過型電子顕微鏡(TEM)により合成試料の細孔を観察した。基本骨格タイプと側鎖タイプの電子顕微鏡写真を図3に示す。細孔が数nmの周期で並んでいることを確認した。

(図3 透過型電子顕微鏡像 (×80,000))

(2) X線回折および細孔分布測定
 合成試料について,「細孔径+細孔壁」の大きさに相当するX線回折ピークのd値と細孔分布測定による細孔径を表2に示す。細孔分布測定は福井県工業技術センターの協力を得て測定した。
  求めたd値および細孔径はTEMの観察結果とよく一致した。また,有機基を導入した側鎖タイプは,基本骨格タイプよりも細孔壁が厚くなり,細孔径が小さくなっていることが確認できる。骨格組込タイプは使用した界面活性剤が大きいため,他の三試料よりもd値,細孔径共に大きくなっている。

(表2 X線回折測定のd値と細孔分布測定結果)

2.3 吸着能評価
  合成材料0.1gと1ppmの鉛水溶液10mlを混合し,10秒間の超音波処理後にろ過し,ろ液の鉛濃度を原子吸光で定量した。本操作による水溶液の鉛濃度の減少率を,合成材料の吸着率とした。
 実験結果を表3に示す。有機基導入により鉛の吸着率が向上した。しかし,鉛の高効率吸着が期待された側鎖タイプのチオール基は鉛の吸着特性が低いと思われるニトリル基と同等の吸着率であった。また,エチレン基についても鉛の吸着特性が低いと思われるが,骨格組込タイプが最も高い吸着率を示した。これらの結果から,毛細管現象により水が数ナノの細孔にトラップされることを考え併せると,この数ナノの領域では細孔径が大きいほど鉛の吸着に有利に働くものと推察される。そのため,細孔径が小さい側鎖タイプは細孔径が小さすぎて有機基の効果が発揮されていない可能性もある。鉛吸着率向上を目指すにあたり,細孔径制御が重要であるという課題を得た。

(表3 鉛吸着能評価結果)

3.結 果
  4種類のメソポーラスシリカを合成し,構造を評価した。合成材料の鉛吸着能を評価し,構造との関係を考察した。本研究により,メソポーラスシリカに有機基を導入することにより鉛吸着能の向上を認めたが,同時に細孔径の制御が重要であるという課題を得た。
 本研究の一部は(独)科学技術振興機構 研究成果活用プラザ石川の委託研究(可能性試験)として実施した。