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モニター評価に基づく人に優しい設計・開発

■石川県リハビリテーションセンター(兼 電子情報部) ○北野義明  寺田佳世
■電子情報部 前川満良
■繊維生活部 松山治彰

1.目 的
  平成8年4月,リハビリテーションセンターに設置されたバリアフリー推進工房(以下,推進工房)は,図1のようにリハビリテーションセンター,工業試験場,土木部建築住宅課が連携し,障がい者個々の自立生活支援のための福祉用具や住環境の適合(以下,テクニカルエイド)を行っている。さらにその経験を基礎とした,福祉用具,住環境,ユニバーサルデザインの研究開発を行っており,テクニカルエイドを含めて年間約1000件の相談に応じている。その中から,引き戸,試着室,情報端末,トイレ,エレベータなどのユニバーサルデザイン化を企業と共同取り組み製品として反映されている。
  推進工房の基礎となるテクニカルエイドでは,まず利用者の身体特性・能力や生活環境などを評価し,必要な用具や住環境を選定している。しかし,選定した用具や住環境であっても,そのままでは使えない場合や調整が必要な場合が多く,利用者による試用評価をしながら調整・改造を繰り返す適合作業を行っている。
  このような利用者が参加しながら進めるアプローチは福祉用具の開発においても同様である。推進工房では,図2のように日々のテクニカルエイドの経験を基礎に,設計・開発のアプローチはモニター評価を軸に進めている。
  本報告では,シャワーキャリーのテクニカルエイドから生まれたリクライニング式シャワーキャリー(図3)と自走式シャワーキャリー(図4)の開発を例に,モニター評価に基づく設計・開発のアプローチを紹介する。

(図1 バリアフリー推進工房の技術連携)
(図2 福祉用具開発のプロセス)
(図3 リクライニング式シャワーキャリー)
(図4 自走式シャワーキャリー)

2.内 容
(1)テクニカルエイドの実践
  浴室で利用するシャワーキャリーは耐水性が重視され,姿勢保持機能が低い。そこで,姿勢を保持し,洗体しやすくするためのシートやフレームの改造,ブレーキの操作性の改善,介助者が洗体しやすい座面高の調整など利用者個々の必要性に応じた改造・調整を行っている。
(2)技術的課題の検討と整理
  既製品の改造・調整のノウハウを整理・蓄積しながら、既製品の改造では対応できない課題の検討も行っている。シャワーキャリーの開発では,リハビリテーション専門職60名のアンケート調査を行い,課題の整理を行った。
(3)開発課題の抽出
  テクニカルエイドの経験とアンケート結果から,姿勢,移乗,移動などの個人の能力と各能力で必要なシャワーキャリーの機能を整理すると,重度四肢麻痺者に適したリクライニング式シャワーキャリーと自走できてある程度自分で洗体できる人に適した自走式シャワーキャリーが既製品にはないことが分かった。
(4)要求仕様案の検討・作成
  シャワーキャリーの二つの開発課題に対して,それぞれの対象者の身体特性・能力と使用環境から要求仕様を検討した。また,要求仕様の細部寸法まで決定するために,仕様確認モデル機を作成した。
(5)モニターによる仕様の確認
  能力別対象者をさらに細分化し,各タイプを過不足なく検証できるモニターを選出し,仕様を確認した。
(6)開発仕様の作成と試作
  要求仕様を具現化するため,構造的な整合性や機械的性能について検討し,開発仕様案を作成し,試作を進めた。
(7)モニターによる検証
  試作機についてモニター検証を行い,問題を改善しながら完成度の向上を図った。ここでは同時に,製品化のための安全性,耐久性の向上,コスト低減についても検討している。

3.結 果
  推進工房では,日々のテクニカルエイドの経験を基礎に,課題の抽出・整理から設計・開発までをモニター評価を軸に進めている。
  このテクニカルエイドで蓄積・整理された障がい者個々に対する適合技術は,福祉機器の開発だけではなく,できるだけ多くの人に配慮して設計するユニバーサルデザインにとっても不可欠な技術であり,推進工房では福祉機器に限らず多くの製品開発の助言を行っている。
  今後も,テクニカルエイドを通してさらに技術を蓄積・整理しながら,企業の製品開発も支援していくつもりである。