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騒音に配慮した音声案内システムの開発

■電子情報部 ○前川満良

1.目 的
  近年,交通バリアフリー法などの施行を受けて,エレベータやエスカレータ,券売機,触知案内板などに音声案内システムを組み込んだ機器の設置が進められている。視覚障がい者にとっては環境が整備され,外出しやすくなってきた。しかし音情報が氾濫し,「うるさい」といった弊害も問題視されるようになってきた(図1)。
  そこで本研究では,騒音の原因を分析し,状況に応じて騒音を減少させる音声案内システムの開発を行った。

(図1 音声案内の長短)

2.内 容
2.1 騒音の原因
 従来の音声案内システムは,焦電型赤外線センサ(以下,PIR)で人を検知し,案内を行っている。しかし,PIRの特性上,静止している人を検知し続けることが難しく,人の動きを検知する度に音声案内を行う制御方法が採用されている。そのため,図2のように案内板の前で点字や触知図を読み取る間に何度も同じ案内が行われる「過剰反応」となり,視覚障がい者にとっても騒音となっている。
  さらに,静かな時でも大音量で案内が行われる「過剰音量」も騒音の原因の一つとなり,電源が切られている設置例もあった。
  そこで,本研究では過剰反応を減少させるために,人体検知から音声案内を行う判断までのアルゴリズムを高度化させた「知的人感センサの開発」と周囲音量にあわせて案内音量を調整する「音量調整機能の開発」を行った。

(図2 従来の音声案内)

2.2 知的人感センサの開発
 過剰反応を減少させるために,検知エリアの異なる2つのPIRを使用し,検知状態の組合せパターンとその履歴から人の行動を推測しやすくした。このようなセンサの検知機能の高度化により,音声案内システムを組込む装置の目的と設置場所に応じた制御方法を検討し,高度な制御が可能となった。
 例えば触知案内板の場合は,案内板の手前で触知図を読み取る間は停留している。そこで広角エリアと狭角エリアのPIRを組合せると,表1のように案内板の前に「停留している状態」,エリア外から「近づいてきた状態」,「遠ざかる状態」などを概ね判断することができ,図3のように近づいてきた場合だけ音声案内を行う設定が可能になる。
  このような音声案内付き触知案内板を試作し,従来型音声案内システムとの比較実験を行った。実験は,図4に示すような「触知案内板に近づき→触知図を読み取り→トイレ内に入る」の基本行動パターンを10回繰り返した。触知図の読み取り時間は日本点字図書館の調査結果から2分35秒とした。この実験より,過剰な案内が68回から1回に減少(98.5%減)し,開発した知的人感センサが有効であることを示すことができた。

(表1 PIRの組合せによる状況判断)
(図3 本研究の音声案内)
(図4 基本行動パターン)

2.3 音量調整機能の開発
  静かなときには音量を小さく,うるさいときには音量を大きくするためには,周囲の音量を計測する必要がある。そこで,全指向性コンデンサーマイク(ホシデン製KUC3523)を使用した増幅・A/D変換回路を製作し,マイコンで周囲の音量に応じたA/D変換値を得ることができるようにした。このA/D変換値から周囲の音量を推測するために,騒音計の値とA/D変換値の相関を50〜80dBまでの音量で調べた。その結果を図5に示す。この結果から,簡易なコンデンサーマイクで必要十分な騒音計測値が得られることが確認できた。
  次に,周囲の音量に応じて必要な音量を出力させるために,音量指令変数と音声音量の関係を調べた。その結果を図6に示す。
  この二つの結果に加えて,「この周囲音量(x)の時は,この音声音量(y)を出力すると過剰でなく,聞き取りもできる」といった関係(y=f(x))を導き出すことで,環境に調和した音量を制御することが可能になる。この関係を導き出すために,駅のホームの録音音圧レベルを50〜80dBまでの5dB間隔で変化させ,文章の聞き取り実験を行った。被験者は30〜50歳代の5人で,一番聞こえにくかった人の音量を解とした関係式f(x)を導き出した。

(図5 騒音と計測値の相関)
(図6 音量指令変数と音量の相関)

3.結 果
  音声案内システムを組み込んだ設備機器が増加する中で,騒音という問題が露呈しはじめており,その対策として過剰反応を減少させる知的人感センサの開発と音量調整機能の開発を行った。知的人感センサの開発によって,トイレ前触知案内板の基本行動パターンでは過剰反応が98.5%削減され,効果があることを確認した。音量調整機能の開発では,環境に応じて案内分の聞き取りが可能な範囲で音量を調整することが可能となった。
 今後は,音声案内を組み込む機器の目的と設置場所に応じた判断アルゴリズムを開発し,技術移転を進めていく予定である。