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ICタグを用いた排便検知システムの開発

■電子情報部 ○米澤保人 筒口善央
■(株)インテック 斉藤 亮
■金沢大学   紺家千津子
■千木病院   田端恵子

1.目 的
 寝たきり認知症老人の失禁ケアには,簡便に使用できるおむつが多用されている。しかし,認知症老人は,排泄を伝えることが困難であるため,失禁直後におむつ交換を受け難い。尿は吸収剤の進歩によって,失禁後すぐにおむつに吸収されるが,排便,特に下痢便では吸収されず,漏れることがある。さらに,下痢便は,認知症老人にとって不快であり皮膚かぶれにつながり,介護者にとってもケア負担増となる。そこで,適宜なおむつ交換を可能にするため,排便を検知するシステムを試作開発することを目的とした。

2.内 容
2.1 排便検知システムの概要
  排便検知は,図1に示すように,おむつに設置した温度センサの値をPCに取り込み,温度の時間変化パターンから判断して行う。一方,排便検知システムには以下の要件がある。
(1) センサ部が被介護者にとって不快でない
(2) 介護者に装着等による負担を増やさない
  以上から,次の特徴を持っているICタグ技術を応用することにした。
(1) センサ機能を搭載可能である
(2) 無線でデータを送信する 被介護者に配線が絡む恐れがない。
(3) 個体識別する
 1つのICタグリーダで複数の被介護者のデータが収集でき,コストを抑制できる。
 さらに,ICタグは,今後,小型化・低コスト化の進展が期待でき,実用化に向いていると考えられる。 本開発では,(1)温度変化パターンから排便を検知するアルゴリズム,(2)温度センサ付きICタグ,の試作開発を行った。

(図1 排便検知センサ部の概念図)
(図2 排便時の典型的な温度変化例)
(図3 排尿時の典型的な温度変化例)

2.2 排便検知アルゴリズム
  寝たきり認知症患者の排泄に係る温度変化のデータ収集を,療養型病床群1施設の延べ約70名に対して行った。患者の家族からは,研究参加の同意を得た。得られたデータから温度変化の特徴を調べ,排便検知アルゴリズムの開発を行った。なお,温度データ収集では,比較やアルゴリズム開発期間の短縮のためT熱電対による温度データ収集も行った。
  排便を検知するためには,排尿と区別できなければならない。図2及び3にそれぞれ,排便及び排尿時の典型的な温度変化例を示した。いずれの場合にも,排泄があると温度が上昇するが,排便の場合には排尿の場合に比べてピークを過ぎてからの温度下降が遅いという特徴がある。しかし,排便に時間がかかる場合など,上記の典型的な例に当てはまらない場合もある。アルゴリズムでは2通りの検知方法を用い,それぞれのパラメータを調整した。試作したアルゴリズムを,52例のパターンで検証した結果,約7割の割合で排便を検知できた。

2.3 温度センサ付きICタグ
  アクティブ型の温度センサ付きICタグは東京特殊電線(株)に加工委託した(図4)。諸元を表1に示す。温度センサはおむつ内の肛門に近い箇所に設置する。また,ICタグは圧迫されない腹部に設置したため,温度センサとはケーブルで接続した。温度センサの電圧値はICタグ内に組み込んだAD変換器でディジタルデータに変換し,タグ情報に組込んで送信する。リーダで読み取られたタグ情報をPCに取り込み,温度データを抽出し蓄積する。
  リーダは数m離れた場所でも複数のICタグからのデータを受信可能で,実際に4人部屋で複数の患者からのデータを収集できた。また,隣接する部屋のICタグからのデータも条件によっては取得可能であり,コスト抑制が可能である。
 装着性に関しては,試作開発したICタグの厚さが約1cmで装着箇所が腹部周辺に制限された。しかし,小型化・薄型化の余地があり,今後解決可能である。介護者の負担軽減のためセンサ部分はおむつと伴に使い捨てを想定している。

(図4 温度センサ付きICタグ外観)
(表1 温度センサ付きICタグ諸元)

3.結 果
 寝たきり認知症老人のための,排便を検知するシステムを試作開発した。試作した検知システムは,温度センサ付きICタグをおむつに設置し,おむつ内温度の時間変化をPCで処理することで排便を検知することができた。臨床試験で収集した温度変化データを用いて,アルゴリズムを検証した結果,約7割の割合で排便を検知することができた。
 本開発は,(財)テクノエイド協会よりH17〜H18の助成金を得て行われた。