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ヘルスケア繊維素材の研究開発

■繊維生活部 ○守田啓輔 杉浦由季恵 神谷 淳

1.目 的
  近年,消費者の清潔・快適・エコロジー志向を反映して,繊維業界においても健康維持を目的としたヘルスケア素材の需要が高まっている。例えば,再利用可能な循環型の繊維材料や,抗菌・抗アレルギー効果を有する天然加工剤など,市場規模は年々増加傾向にある。一方,ポリエステル等の合成繊維を主力とする北陸産地においては,安価な定番品を受注量産する旧来の姿勢から,企業独自の高付加価値製品を開発し,地域ブランド商品として積極的にPRする自販体制への転換が急務となっている。本事業では,天然由来の抗菌剤であるリゾチーム酵素を繊維表面に固定化する研究を行い,極細ポリエステル糸を用いた薄地織物と組み合わせたヘルスケア繊維製品を試作したので,その概略を述べる。

2.内 容
2.1 酵素の固定化
 リゾチームはカチオン性を示すタンパク質酵素であり,細菌の細胞壁成分である多糖類を分解し死滅させる。これをポリエステル織物表面に固定化するため,織物にアクリル系高分子剤をパッドキュア加工してアニオン性を付与した後,リゾチーム(新日本薬業(株))の水溶液に浸漬・乾燥し,生地重量比で約1%を固着させた。図1は,リゾチーム固定化後のポリエステル繊維の表面状態である。

(図1 リゾチーム固定化繊維)

2.2 機能性評価
  リゾチーム固定化布について,繊維製品の抗菌性試験方法(JIS L1902 菌液吸収法)に基づく試験を行った結果を表1に示す。全菌種について,抗菌加工繊維製品のSEKマーク認証基準値(静菌活性値2.2以上,殺菌活性値0以上)を上回っており,必要量のリゾチームが繊維表面に固定化されていることを確認した。

(表1 リゾチーム加工布の抗菌試験結果)

2.3 耐久性評価
  リゾチーム固定化後に20℃,65%RHの雰囲気で1年経過した生地について,抗菌試験(黄色ブドウ球菌使用)を行った。その結果,静菌活性値及び殺菌活性値はそれぞれ3.9,1.5でSEK認証基準を超えており,固定化リゾチームの活性が空気中で長期間維持されることが分かった。一方,洗浄による耐久性について検討するため,洗濯試験(JAFET標準洗剤使用,40℃×30分)及びドライクリーニング試験(A:石油系溶剤使用,B:パークロロエチレン使用,共に40℃×30分)を行ったところ,1回目の処理後の静菌活性値及び殺菌活性値はいずれもSEK基準値を下回った(表2)。これは,リゾチーム自体が水や有機溶剤に溶け出しやすい特性を有するため,洗剤液やドライクリーニング液によって繊維上のリゾチームが流出もしくは失活したものと考えられる。なお,リゾチームをバインダー樹脂中に練り込んでのコーティング加工は酵素の失活を伴うので,本研究では試験を行わなかった。このことにより,リゾチーム固定化繊維の用途に関しては,洗濯を前提とする耐久消費製品には不向きであり,基本的に洗濯を要しない繊維製品への利用に特定する必要がある。

(表2 固定化リゾチームの耐久性試験結果)

2.4 応用事例
 リゾチーム固定化繊維の応用例として,ポリエステル薄地織物(天池合繊(株)提供)を用い,図2に示す3枚重ね仕様のショール風製品を試作した。図のAとCはたて・よこ糸が7dモノフィラメントポリエステル糸から成り,Bはたて糸が同7d糸,よこ糸に20d/24fポリエステル糸を用いた織物である。Bにはリゾチームによる後加工を施してあり,静菌活性値及び殺菌活性値(共に黄色ブドウ球菌使用)はそれぞれ4.1,1.5で,抗菌繊維製品として十分な性能を示した。また,Bの付加機能である花粉遮蔽性を測定した結果,3枚重ねの状態でスギ花粉(直径20〜30μm)を99.9%遮断し,かつ通気度も100cc/cm2/secと市販マスクとほぼ同水準の値であった。本製品は,図3のように口元を覆うようにして着用することにより,マスクとしての機能性(抗菌性,花粉カット性)とファッション性を兼ね備えた新感覚のショールとして利用できる。

(図2 試作ショール)
(図3 着用例)

3.結 果
  リゾチーム酵素を固定化したポリエステル布帛を用いたヘルスケア繊維製品を,天池合繊(株)と共同で製作した。今後,同商品の販路開拓に関する支援を継続すると共に,インテリア関連など非衣料製品への応用の可能性についても模索する。