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光エネルギーを利用した環境適応型染色システムの開発

■繊維生活部 ○沢野井康成 森 大介 守田啓輔 神谷 淳
■金沢大学 黒堀利夫

1.目 的
  下請受注型の企業から企画提案型企業への転換が急務となっている繊維製造業では,小ロット・短納期生産に優れ,且つデジタルデータが利用できるインクジェットプリントは不可欠な染色技術の一つとなっている。この染色技術は,プリント後の発色加工・水洗・熱セットの後処理を,従来のプリント技術と同様の装置を用いているため,蒸気や熱エネルギーの大量消費等の課題がある。
  そこで本研究では,レーザとスキャニング(レーザ光を走査しながら照射)装置の組み合わせにより,環境負荷の少ない発色試験装置を試作し,連続発色の検証を行った。

2.内 容
2.1 試験装置試作のための条件設定
 染色加工場で行われている従来の発色法は,インクジェットプリントした布を専用の湿熱あるいは乾熱装置を用い高温で熱処理する方法である。これに対して,レーザ光による発色法は,布表面上の染料インクにレーザ光を直接照射する方法であり,環境負荷の低減と省エネルギー化が期待できる。そこで,これを検証するための試験装置の条件設定を以下の様に行った。

(図1 レーザ光による発色法)

 試験装置の条件を求めるため,連続発振とパルス発振のレーザを用い,(1)前処理済みのポリエステル布に分散染料インクでインクジェットプリント,(2)たて・よこ方向に移動させながら照射,(3)発色させた布を洗浄して前処理剤を除去した布の表面染色濃度(K/S)の算出及び繊維状態の観察,を行った。
これに加えて,レーザ光照射の際に布を予め温める予備加熱の効果を確認する実験を行った。
  その結果,試験装置に必要な条件として,(1)照射光源は連続発振のレーザ,(2)使用波長は458 〜514nmの範囲,(3)スキャナー装置を使用,(4)スキャニング速度は一定,(5)レーザ出力は100〜200mW,(6)レーザ光のスポット径は100μm程度,(7)布の送り出しは速度調整が可能で且つ一定速度を保つ,(8)布の予備加熱可能,があげられた。

2.2 簡易型発色試験装置の試作
  上記の設定条件を基に試作した簡易型発色試験装置の概略とその主な仕様を図2及び表1にそれぞれ示す。レーザには,装置の小型化が可能な半導体励起固体レーザ(DPSSL)を用い,さらにレーザ光をより小さなスポットに集光することが可能となる光学素子を使用した。スキャナー装置には,鏡を回転させてレーザ光を走査するガルバノミラーと,スキャニング速度が一定になるよう補正するfθレンズを用いた。布送り部には,X-Y微動装置を使用して布を一定速度で送り出した。試料の布はX-Y微動装置に設置した予備加熱用のヒータを内蔵したアルミ板上に貼り付けた。なおこの試験装置の初期設定は,fθレンズの焦点距離を150mm,スキャニング幅を80mmとした。光学素子の変更により,ビーム径を保ったまま焦点距離を稼ぐことでスキャニング幅の拡大も可能となる。

(表1 簡易型発色試験装置の主な仕様)
(図2 簡易型発色試験装置の概略)

2.3 簡易型発色試験装置によるポリエステル布の連続発色実験及び結果
  簡易型発色試験装置による実験には,インクジェットプリントしたポリエステル布を用い,発色した布の表面染色濃度(K/S)より発色性を評価した。以下に,発色に影響を与える因子と発色結果を示す。
(1)スキャニング速度:スキャニング速度は遅いほど発色性は良い結果となった。この理由について,詳細な発色メカニズムは解明されていないが,光エネルギーは染料分子に吸収されることで,熱に変換されていると考えられる。すなわち,単位面積当たりのレーザ光の照射時間が長いほど熱エネルギーが蓄積するので,染料分子の昇華は起きやすくなり発色性も向上するものと思われる。
(2)レーザパワー密度:パワー密度は高いほど発色性は良くなった。これは(1)の結果とも関連し,パワー密度が大きいほど発生する熱エネルギー量も大きくなり,これにともない昇華する染料も多くなるためと考えられる。
(3)布送り(発色)速度:発色速度が20〜30mm/min以上になる場合,発色度合いは低くなった。これに関して,同一のパワー密度でスポット径を大きくすれば,布送り速度をさらに上げて発色することは可能と考える。
(4)予備加熱:予備加熱は連続発色においても有効であり,50℃程度の加熱でも十分な発色効果があることを確認した。

3.結 果
  半導体固体レーザ(DPSSL)とガルバノミラー・fθレンズからなるスキャニング装置を組み合わせたシステムでレーザ光照射することにより,ポリエステル布を連続的に発色できることが分かった。今後,発色度合いや発色速度を向上させる工夫を行うことにより,実用化を目指したい。