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電子ビーム蒸着法による多元金属化合物成膜プロセスの開発

■株式会社オンワード技研 研究開発室  大村 佳史

■技術開発の背景
  金型や切削工具の耐久性を向上させるため,Ti/Al/Crを組み合わせた多元金属膜を表面にコーティングする既存技術は,最適な組成比に調整した多元金属原料をアーク放電で蒸発させてワークに堆積させるものであるが,プロセスの欠点により膜の平滑稠密性や組成制御性が極端に悪く,仕上精度の厳格な金型やマイクロ工具には適応出来ない課題がある。

■技術開発の内容
  平滑稠密性に優れた電子ビーム蒸着法を基盤として,複数の金属を同時に蒸発が可能なシステムを考案した(図1)。電子ビーム銃と蒸発ルツボを複式用意し,高速(〜50μsec)でビームをルツボスキャンさせて原料を加熱蒸発させ,蒸発金属はイオン化されて負バイアスされたワーク表面に誘引衝突し成膜される。一方,金属イオンを質量分析器に取り込んで定量し,各金属の蒸発量を逐次モニタしてビームスキャンのduty比にフィードバックを行い,自在に蒸発量を制御することが可能となった。

(図1 開発システム図)

■製品の特徴
1. 膜表面の平滑稠密性向上:従来のアーク法(図2a)に比べて,本開発法(図2b)では表面粗さが約1/5〜1/10に低減し,液滴状の欠陥等が無く,組織の面配向性からも稠密性に優れている。この結果,多元金属組成膜の特徴に加えて,さらに低摩擦や耐クラック性の高付加価値を有している。
2. 組成比の自在制御性:アーク法では組成比が決まった合金原料を使用するため膜組成比を自由に制御出来ないが,本開発法では組成傾斜層/均一層/変調層を膜内部で多様に設定可能(図3)。この結果,膜内部応力の連続変化や表面なじみ層の形成が可能となり,密着力強化や初期摩耗の低下を実現。

(図2a 従来アーク法 図2b 本開発法)
(図3 膜深さ方向組成分布)

■今後の展開
 耐酸化性に優れたTi/AlおよびCr/Al系多元金属膜を,従来アーク法では適応が不可能で市場が空白となっているマイクロ切削工具や成形面精度を要求する光学レンズ金型等に展開を図る。この成膜技術を「SE-TiAlN」と銘打って,ユーザ実機調査を試行中である。