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HIPを用いた新規セラミックス材料合成技術の開発

■化学食品部 ○豊田丈紫 北川賀津一 中村静夫

1.目 的
  快削性マイカガラスセラミックスは機械加工性の他,電気絶縁性,断熱性に優れているため,半導体分野における各種部材としての需要が増えている。近年,電子部品の小型化に伴い周辺部品に対して高い加工精度が求められるようになってきた。快削性マイカガラスセラミックスの加工性能は,複合組織を形成するマイカ(雲母)結晶の大きさに依存するため,高い加工精度を達成するには結晶組織の微細化技術が必要となる。当場で開発したジルコン添加マイカガラスセラミックスは溶融結晶化法により得られ,焼結法に比べて気密性が高く板状のマイカ結晶がランダムに生成するため異方性を持たない快削性材料が容易に得られるという利点がある。一方で,溶融・再結晶化に要する製造コストが高く,マイカ結晶の長軸長を10μm未満に制御することが難しいという問題があった。
  再結晶化処理は高い内部応力を持つガラス状態を緩和する工程であり,圧力の要因を調べることは核生成機構を調べる上で大変有用である。そこで本研究では,加圧処理技術を再結晶化処理に利用することで結晶成長時における組織制御を試みるとともに,再結晶化処理の短縮とマイカ結晶の微細化を目的とした新たなHIP処理の利用方法の検討を行った。

2.内 容
2.1 HIP焼結装置
  HIP(熱間等方圧プレス)焼結装置は,アルゴンガスなどの圧力媒体を用いて最高196MPaの圧力と2000℃の温度の相乗効果を利用して加圧処理し,材料を理論密度(99%以上)まで高密度化が可能である。しかし,従来のHIPの用途は粉末焼結されたセラミックス製品の気孔(欠陥)を潰す目的で利用され,現在でも磁性体などの機能性セラミックス材料の結晶粒界に生成した気孔の除去による特性向上に用いられるのが一般的である。

(図1 HIP焼結装置)

2.2 実験条件
  本実験で利用した試料は,陶石をベースとしてSiO2,MgF2,MgO,K2CO3,H3BO3にて組成を調整し5wt%のZrSiO4を添加した原料粉末を用いた。原料粉末を電気炉にて溶融後,るつぼに流し込みガラス転移点以下に急冷することでHIP処理用のガラス体を作成した。HIPを用いた結晶化処理には圧力媒体としてアルゴンガスを用いた。HIP処理は室温にて45MPaまで加圧し780℃に2時間保持した後,結晶成長温度の1045℃で10時間の保持を行った。また,保持時間による結晶径への影響を調べるために,同様の条件にて結晶成長の保持時間を5時間にした場合についても行った。上記HIP処理材に対して,SEM/EPMAによる組織観察,X線回折による相の同定を行うことで結晶性の評価を行い,3点曲げ強度試験,熱膨張測定を行うことで機械的特性の評価を行った。

2.3 評価と考察
  図2にHIP処理によって得られた試料のSEM像を示す。基本的な結晶組織は板状のマイカ結晶と粒子状のジルコニア結晶がガラス中に分散しており大気中処理と同様の構成であるが,マイカ結晶の大きさは長軸長で約5μmの微細結晶が得られた。EPMA測定によるZr組成の面分析を行った結果,HIP処理材が未処理材に比べて高分散のジルコニア粒子が得られることが分かった。X線回折測定の結果から,マイカおよびジルコニア以外の結晶ピークは確認されず,圧力による他の結晶相の生成は認められなかった。また,機械的強度は未処理と同等以上であるが,熱膨張係数はHIP処理品ではガラス転移点以上で大きくなり,HIP後に大気圧中で900℃の焼きなましを行うことで大気中処理品と同等となった。
  ガラス体はガラス化処理により高い内部応力が導入されており,核生成の機構は物理的にはエネルギー的に高く不安定なガラス状態から結晶を析出・分散させることで内部応力を緩和させ安定な状態へ変態する現象で表せる。よって,HIPによりガラスの内部応力と外部圧力との相対圧力が小さくなり,ジルコニア粒子の核の生成頻度が高まり,結果として高い分散状態が得られたと考える。また,マイカ結晶の析出も同様の効果で説明されるとともに,ジルコニア粒子のピンニング効果により結晶成長が抑制されるという相乗効果で微細化されたと考えられる。一方で,核形成と結晶成長の保持時間を変更しても複合組織の変化は観察されなかった。これは,マイカ結晶の微細化により結晶成長に要する時間が短縮されたことで説明される。


(図2 快削性ガラスセラミックスの電子顕微鏡写真(a)大気中処理(b)HIP処理)
(表1 処理条件による機械的特性(3点曲げ))
(図3 熱膨張係数の温度依存性)

3.結 果
HIPを用いた新しいセラミックス材料合成技術の開発を目的に快削性材料の再結晶化工程にHIP処理を利用し,結晶組織の微細化が可能であることがわかった。また,処理時間の短縮においてもHIP処理法の有効性が示された。
本研究を遂行するにあたりガラス体試料を提供いただいた住金セラミックス・アンド・クオーツ(株)に感謝します。