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多孔性材料の応用に関する研究−未利用珪藻土の改良による地の粉の性能向上−

■化学食品部 ○北川賀津一
■繊維生活部 江頭俊郎

1.目 的
  江戸時代の寛文年間(1661〜1673年)に,輪島で発見された珪藻土を焼成し粉末にして地の粉がつくられた。地の粉を漆に混入し塗り研ぎを何度も繰り返す下地塗りは輪島塗の重要な一工程である。この地の粉の原料となる珪藻土(多孔性材料)は輪島市の通称小峰山を中心とした丘陵地で産出され,粘土や珪藻の遺骸からなるが,近年枯渇化が心配されている。本研究では,地の粉に利用されずに廃棄されている成形性の悪い珪藻土(以下未利用珪藻土と略す)に粘土を添加して地の粉の性能を改良した。

2.内 容
2.1 物性測定
  珪藻土粉末は粒度分布,比表面積,示差熱,化学組成,X線回折パターンを調べた。耐火度は,電気炉で所定の温度に保持してゼーゲルコーンの溶倒状態から決定した。焼成品の強度は,材料試験機を用いて3点曲げ強度試験方法で測定した。微構造は走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。試作した地の粉,漆と米糊を混ぜて行う下地塗り試験は,輪島漆器商工業協同組合の協力を得て実施した。

2.2 地の粉の試作手順
  地の粉の試作手順を図1に示す。珪藻土原土(以下珪藻土と略す)は地の粉工場でロールクラシャーを用いて粗く粉砕するB工程,砕した試料は工業試験場で粘土と水を加え団子状に成形するC工程,約10〜14日間自然乾燥後成形物におが屑を加えて容器に詰め焼成炉で約750℃,5〜6時間燻焼を行うE工程,燻焼した生成物を乳鉢で粗粉砕するF工程,次にボールミルで粉砕するG工程,さらに篩振とう機で44μm以下に篩うH,I工程を経て地の粉が得られる。

(図1 地の粉の試作手順)

2.3 珪藻土原土の物性
  B工程で得られた珪藻土の物性を調べた。図2は成形性の良い珪藻土と未利用珪藻土を100μmで篩い,それより細かい粒子の粒度分布を調べた結果を示す。日本工業規格に従い5μm以上2mm以下を砂,5μm以下を粘土と定義した場合,未利用珪藻土は砂分が多く粘土分が少ない。逆に,成形性の良い珪藻土は砂分が少なく粘土分が多いことがわかる。珪藻土を水簸分級で珪藻殻と粘土に分離した粒子のSEM写真を図3に示す。珪藻殻は10〜40μmと大形のものから2,3μmの小形のものまで分布し,形状は円形,多角形,ボート状,円錐状と多種多様であるが,円形のコシノディスクスが多い。図3左の珪藻殻表面は約2μmの細孔が規則的に放射状または碁盤目状に並び特異な構造を示している。図3右は左と比較して非常に細かく,1μm以下の1次粒子が凝集して2μm以上の2次粒子を形成している。粘土は珪藻殻と比較して非常に微細なことがわかる。
  図4は珪藻土の焼成温度とその後の比表面積の測定結果を示す。比表面積は30m2/gで800℃まではほぼ一定の値を示し,焼成温度1000℃で比表面積は3m2/gに大きく減少する。珪藻土は約800℃まで熱的に安定であることがわかる。

(図2 珪藻土の粒度分布)
(図3 珪藻殻と粘土のSEM写真)
(図4 珪藻土の焼成温度と比表面積)

2.4 未利用珪藻土への粘土の添加効果
  未利用珪藻土,成形性の良い珪藻土,Na-モンモリロナイト,Ca-モンモリロナイトの焼成(E工程)の物性を調べた。各々の耐火度は,ゼーゲルコーンの番号(SKで表示)と対応する温度で表すと順にSK12(1350℃),SK14(1410℃),SK6(1200℃),SK14(1410℃)である。この結果より,高い耐火度を必要とする場合にはCa-モンモリロナイトが適している。これはモンモリロナイトがSiの4配位正四面体層2つにAlの6配位正八面体層のはさまれる3層(2:1)構造であり,層格子の外側に水の分子を多く挟むため成形性が向上するものと思われる。
  焼成(E工程)を経た地の粉は経験的に焼き締まったものが良いと言われている。そこで3点曲げ試験によりCa-モンモリロナイトの添加量を変えた試作品の強度試験を行った。その結果,Ca-モンモリロナイトの添加量が15%では2kgf/mm2(20MPa)が得られ,添加量が増してもほぼ一定の値となった。
  下地塗り(地の粉I工程)試験の結果,Ca-モンモリロナイトを加えた地の粉はNa-モンモリロナイトよりも伸びやすいという評価が得られ,下地漆は地の粉粒子が細かいほど塗りやすく,表面粗さも小さくなることがわかった。

3.結 果
  珪藻土は主に珪藻殻と粘土から構成される。未利用珪藻土の物性を調べ地の粉を試作した結果,以下のことがわかった。1)未利用珪藻土は成形性の良い珪藻土と比較して粘土が少ない。
2)高い耐火度を必要とする場合にはCa-モンモリロナイトが適している。3)下地塗り試験の結果, Ca-モンモリロナイト添加で良い下地塗りが得られるとの評価を得た。