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ナノ粒子触媒の応用技術に関する研究

■化学食品部 ○中村静夫 勝山陽子 井上智実  
■金沢工業大学 大橋憲太郎
■明和工業(株) 北野 滋

1.目 的
  二酸化チタンの光化学反応は1950年代以前から知られ,1972年発表された本多・藤嶋効果から注目されるようになった。その後,1980年前後からは二酸化チタン光触媒の持つ酸化力を利用した防汚・抗菌について開発が進められた。さらに,1995年頃からは,光誘起親水性反応が見いだされ,防曇機能といった新たな応用展開がなされてきた。これら,光触媒の原理,開発状況等は多くの報告1)〜3)がなされている。この二酸化チタンを各種担持体に担持させることにより,上述の機能を様々な形態のものに付与することができる。また,それ自体は安定かつ安全で,太陽光や室内蛍光灯の光エネルギー,雨水を利用することにより安価に機能を発揮させることが可能で化学薬品を使うことないので環境に優しい材料である。これを環境浄化に応用することは,二次公害を起こさない優れた浄化法の一つであると言える。
  しかし,二酸化チタンを用いる反応は,光を励起源としているため表面反応であるため,短時間で多量の対象物を処理できない課題があり,その対応としてシステム的な工夫が報告4)されている。しかし,光を励起源としている為,提案される処理方法においても飛躍的な効率向上が望めないのが現状である。そこで,本研究では大量処理を可能とするために励起源を紫外光から超音波とキャビテーションのエネルギーへの転換の可能性について検討した。

2.内 容
2.1 二酸化チタン粒子
 二酸化チタンの主な結晶構造には,高温型のルチル型,低温型のアナターゼ型及びブルッカイト型の三種の結晶形態があると報告1)されている。一般に,光触媒としてはアナターゼ型結晶の方が,ルチル型結晶より高活性であるとされている。両者のバンドギャップエネルギーは,アナターゼ型は3.2eVで,ルチル型は3.0eVであり,両者の価電子帯の位置はほとんど同じである。しかし,超音波を励起源とする場合には,ルチル型が有効であるとの報告5)があり,本試験でもルチル型の二酸化チタン粒子(富山セラミック(株)製)を用いた。粒子の大きさは直径2mmで,TiO2粉末に所定量のSiO2粉末を添加してプレス成型後,約1200℃で焼成したものである。なお,この粒子の圧縮強度は,28kgf/mm2である。

2.2 超音波による分解試験
2.2.1 試験方法
  本試験での試験溶液として,農薬の主成分であるトリフルミゾール(ジーエルサイエンス(株)製:99.9%)溶液を用いた。トリフルミゾール溶液の溶媒にはアセトニトリル(キシダ化学(株)製:99.8%)の70wt%水溶液を用い,全溶液量を10ppmに調整して試験試料とした。また,反応開始剤として過酸化水素水(和光製薬(株)製:31.0wt%)を用いた。
  超音波洗浄器(シャープ(株)製UT-105型)に固定された試験容器にトリフルミゾール水溶液100ml,所定量の二酸化チタン粒子を充填して分解試験を行った。ただし,二酸化チタン粒子は試験開始前に試験溶液に浸漬したものを用いた。その後,所定濃度の過酸化水素を所定量添加すると同時に超音波振動子を発振させた。この発振開始時を実験開始時間とし,3時間反応させた。この時の,超音波の出力は130Wで,その周波数は35kHzであった。また,溶液を60分毎に1ml採取し,トリフルミゾールの濃度測定を行った。濃度測定は,吸光光度検出器を有する高速液体クロマトグラフ(日立製作所製:LaChrom)を用いた。移動層には,アセトニトリル78wt%水溶液に炭酸アンモニウム(和光純薬(株)製特級試薬)を10wt%添加して用いた。流速は毎分5mlとし,カラムにはGH-C18を用い,測定時のカラム温度を40℃に設定した。測定は238nmの吸光度を計測して定量を行った。

2.2.2 試験結果と考察            
  図1には,過酸化水素水の添加量を変化させ  
た時の分解率の経時変化を示した。この試験では,二酸化チタン粒子300gを使用した。図から過酸化水素量は1mlと3mlでは分解率に違いがあったが,3mlと10mlでは分解率に大きな相違は認められなかった。このことから,開始剤として過酸化水素水の添加の必要性が明らかとなった。                
  図2は,開始剤3ml添加し充填する二酸化チタン粒子を変化させた時の分解率の経時変化を示したものである。図から,二酸化チタン粒子量が0〜200gの時は,大きな相違はなかった。しかし,原因は不明であるが粒子量300gの時に分解率の大きな向上が認められた。
  図3は,開始剤3ml添加し充填する粒子を変化させた時の分解率の経時変化を示したものである。比較粒子には,粒子径2mmのアルミナ粒子(ニッカトー製)を用いた。この時の粒子充填量は,300gであった。図から,粒子を添加しない場合,またアルミナ粒子の場合は明らかに二酸化チタン粒子の場合と比較して分解率が低くなった。このことから,超音波を励起源とする二酸化チタン粒子の触媒効果が確認でき,トリフルミゾールを分解できることが判った。

(図1 開始剤添加量による分解率の変化)
(図2 粒子量の変化による分解)
(図3 粒子種の相違による分解率の変化)

2.3 高圧水流による分解実験
2.3.1 実験内容
  試験溶液としては,濃度10ppmのメチレンブルー水溶液とトリフミン水和剤の水溶液を使用した。トリフミン水和剤は,トリフルミゾール30%,鉱物質微量分と界面活性剤等が70%からなる総合殺菌剤として,種籾等の種子消毒に使用される農薬である。また,本実験でも開始剤として,所定濃度の過酸化水素水を用いた。
  高圧水流を用いる実験装置の概略図を図4に,装置本体を図5示す。実験は,所定量の濃度の試験試料を溶液タンクAに充填し,循環ポンプBにより加熱タンクCに800L/Hで送り込み所定の温度まで加温した。その後,高圧ポンプDによりリアクターFに送り込んだ。リアクター内に流入する直前に開始剤を所定量注入した。リアクターの大きさは,長さ550mm×直径200mmのステンレス製で,内容積1.7279×104cm3(17.28L)である。リアクター内に設けた二酸化チタン粒子層Hの大きさは,幅8cm×円直径18.5cm(2.15L)とした。リアクター内では,吐出しノズルにより試験溶液の流速を早め,吐出圧力約14.7MPa(150kgf/cm2)で二酸化チタン粒子充填層に垂直に当たるようにした。
  メチレンブルー水溶液の濃度分析は分光光度計で,トリフミン水和剤水溶液についてはトリフルミゾールの分析法に準じて行った。

(図4 実験装置概略図)
(図5 実験装置)

2.3.2 実験結果
  図6は,試作した装置によるメチレンブルー水溶液濃度の経時変化を示したものである。この時の二酸化チタン粒子量は1500g,開始剤は31%濃度の過酸化水素水を14ml/min.で供給した。また,実験開始時の溶液の温度は60℃とした。開始直後の溶液を100mL採取し,その後20分置きに採取した。図は,開始直後のメチレンブルー水溶液の透過率を0%とし,無色透明になった場合を100%として時間変化を示したものである。図から,2時間後には完全に溶液は無色透明となり,メチレンブルーの分解が確認できた。
  図7は,試作した装置によるトリフミン水和剤の溶液を分解した時の結果を示したものである。この時の溶液の初期濃度C0は30ppmで,二酸化チタン粒子量3000g,注入する開始剤の濃度を変化させて実験を行ったものである。図は,初期濃度に対する濃度比の経時変化を示したものである。開始剤濃度によるトリフミン水和剤の分解に大きな変化は認められないが,濃度31%の場合で15ppmまで分解することが確認できた。
  図8は,開始剤濃度31%の時の粒子量による分解の経時変化を示したものである。他の条件は,図7の場合と同じである。図から粒子量による相違は認めることが出来なかった。
  図9は,種類の異なる粒子を用いた時の分解の経時変化を示したものである。図から,粒子の有無による分解の相違はあるが,粒子の組成による2時間後の分解量には大きな相違が認められなかった。

(図6 試作装置によるメチレンブルーの分解)
(図7 開始濃度による分解の経時変化)
(図8 粒子量による分解の経時変化)
(図9 粒子種の相違による分解の経時変化)

3.結 果                      
  本研究では,超音波による二酸化チタンの触媒効果,トリフルミゾールの分解は確認することができた。しかし,試作した装置によるトリフミン水和剤の分解は確認できたが,高圧水流を用いた二酸化チタンの触媒効果に起因する分解効果とは特定することはできなかった。高圧水流の実験でトリフミン水和剤が分解したのは,高圧水流の効果によるものと推定された。

参考文献
1) Fujishima et.al. TiO2 POTOCATALYSYS. BKC, Inc, 1999.
2) 藤島明. 会報光触媒. Vol.12, 2003, p.18-19.
3) 早瀬修二. 会報光触媒, Vol.16, 2005, p.8-12.
4) 中島哲夫ら. 会報光触媒, Vol.15, 2004, p.140-141.
5) 野坂芳雄,野坂篤子. 入門光触媒. 東京図書, 2004.