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X線回折による硬さ測定技術の研究

■機械金属部 ○鷹合滋樹 安井治之 藤井 要

1.目 的
  硬さは引張試験や曲げ試験などと同様に金属材料の機械的性質を調べるための重要な検査手段の一つである。工業試験場では毎年約100件の硬さに関する試験依頼があり,その目的は,金属組織の評価,熱処理製品の管理,ステンレス鋼等の焼鈍効果,表面焼入れ層の管理,引張強さの推定等様々である。
  硬さ試験は,図1に示すように圧子を試料に押しつけて表面に傷つけ,その大きさや押し込み深さによって評価する破壊試験であり,非破壊で製品の評価や全数検査に対応することはできない。
  これに対し,鋼材の硬さを非破壊で評価する手法として超音波,電磁気,X線による方法が知られている。中でもX線回折を用いる手法は,残留応力や残留オーステナイト等といった材料強度を考察するために必要な項目が測定できるため,品質管理に広く利用されている。しかし,X線回折の場合,測定領域が表面から約10μmの深さであるため,表面変質層を電解研磨で除去するなどの前処理を必要としており,完全な非破壊とはいえないのが現状である。したがって加工層を有する実際の材料に対してどこまで適用可能か見極める必要がある。
  本研究では,鏡面仕上げを行った硬さの異なる軸受鋼に対するX線回折データ(半価幅)とロックウェル硬さとの関係を調べ,X線により硬さを推定することの可能性について検討した。

(図1 硬さ試験とX線による半価幅の測定)

2.内 容
2.1 材料および試験片
  材料は市販の軸受鋼2種(JIS SUJ2)を用い,球状化焼なましを行った丸棒(φ25)から厚み3mmの試料を切り出して試験片とした。硬さの異なる試料を作製するため,表1に示す熱処理条件の異なる5種類の処理を行った。表面は鏡面バフ加工仕上げとした。硬さの検量線用試料として市販の硬さ基準片を利用した。材質は試験片と同様,鋼種はSUJ2である。
  図2に各試験片の内部金属組織(腐食液:3%ナイタール液)を示す。焼なまし材は球状セメンタイトおよびフェライト組織であり,焼入れ材は笹の葉状のマルテンサイト,焼戻し材はトルースタイト,ソルバイト組織が混在していることがわかる。焼入れ,焼戻し材では,炭化物は熱処理によって基地組織に溶け込んでいるため,その面積率は減少している。

(表1 試験片)
(図2 金属組織観察結果)

2.2 硬さおよびX線回折データによる評価
  硬さはロックウェルツイン硬度計で測定した。荷重は150kgfとし,ダイヤモンド圧子Cスケールで行った。 また,X線による半価幅および残留応力の測定にはPSPCX線検出器型を搭載した(Rigaku製MSF/微小部応力型)を使用した。図3に各試料のX線回折パターンを示す。焼入れ材の半価幅は他の材料に比べ増加していることがわかる。また,焼入れ材のみが,残留オーステナイト(γFe)のピークが観察された。
  X線半価幅はαFeの回折から計測するため,ミクロ組織として残留オーステナイト量の影響を受ける。残留オーステナイトは炭素濃度,冷却速度等によりその量が決定されるが,本実験の場合,焼入れ材以外ではほとんど確認できず,本試験片範囲では,半価幅に対する影響因子としての寄与は小さいことが確認できた。
  図4に各試験片の表面残留応力を示す。図からいずれの試験片にも加工により-200MPa程度の圧縮残留応力が発生していた。残留応力の存在は押し込み式の硬さおよびX線半価幅に対して影響を与えると考えられるが,それぞれの値は同一加工条件で行った場合,硬さによらずほぼ同程度であることから,その影響は各試料とも等しいものと推察される。

(図3 X線回折パターン)
(図4 各試験片の残留応力)

3.結 果
  各種硬さ基準片(SUJ2)に対してX線半価幅を測定し,硬さと半価幅の相関について検討した。その結果,図5のとおりHRC50付近を境として変曲点を持つという特異な関係を示した。また,焼戻し温度が異なる試験片を作製し,半価幅と硬さを測定した結果,△印のとおり,硬さ基準片で作成した検量線上に位置し,普遍性を示す現象であることがわかった。ただし,熱処理を行わない試料では近似線から外れる結果となったが,加工層を生じていても硬さと半価幅に良い相関性が得られた。
  今後は実製品へ適用させるために,酸化膜や加工変質層の影響を調査し,実製品への応用を検討する。