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生活支援ロボット用ハンドの研究

■機械金属部 ○中島明哉 舟田義則 廣崎憲一

1.目 的
  わが国の少子高齢化は世界でも類を見ないスピードで進んでおり,昨年(2005年)には予想よりも早く人口純減が始まった。このことは,労働力不足や介護・福祉の問題だけでなく,国際競争の低下といった不安も深刻になってきている。そのような中,これらの問題を解決する一つの手段として,ロボットの活用が期待されており,サービスロボットなど非産業用ロボットの開発が進み,人の生活空間内で活躍するロボットが増えてきた。しかしながら,これらのロボットは,人とのコミュニケーションなどの情報処理は得意だが,実際に物を持って動かしたり,操作したりといったことはほとんど行なえていない。このことは,小型・軽量かつ安全性の高いハンドが無いことが一つの原因と考えられる。
  そこで本研究では,生活支援分野におけるロボットの活用をさらに一歩進めることを目的に,小型・軽量化が可能であり,かつ,柔軟性を有した安全性の高い指機構の開発を行ない,試作機を作製した。

2.内 容
2.1 ハンドの指機構〜2関節指〜
  小型軽量化のためには,関節数よりもアクチュエータ数を少なくすることが重要である。そして,人や物が衝突した際には,万一のことを考えて制御ではなく,機構で逃げることが必要であると考えた。そこで,今回は図1に示すような,リンクとばねからなる指機構を提案する。
この機構は4節リンク機構の一部にばねを取り付けた簡単な機構である。初期状態(負荷がかかっていない状態)では,ばねがリンクABとADの関係を一定間隔に拘束するため,他のリンクBD,CDの関係も決まり,図1に示すような形状を保つことができる。
  次に,駆動リンクADを,回転軸Aを中心に回転させると,他に外力が加わらない限りこの4節リンクABCDは初期状態の形状を保ったまま,回転軸Aを中心に回転する(図2左)。そして,リンクABが対象物に接触するとその動きが拘束されるため,回転軸がBに移り,そこから曲がりだす(図2中)。その後,リンクBCが対象物に接触し,対象物になじむように変形する(図2右)。
  また,リンクABとリンクBCが一直線とならないように初期状態を設定しておけば,図3のような柔軟性を有し,高い安全性を示す。

(図1 指機構)
(図2 指機構の動き)
(図3 指機構の柔軟性)

2.2 ハンドの指機構〜3関節指〜
  図1に示した2関節指を二つ結合し,3関節指とすることが可能である(図4)。これにより2関節指では不可能だった握り込む動作が可能となった。また,AD,BFという二つの駆動リンクがあるため,人の人差し指のような動きが可能となる。

(図4 3関節指)

2.3 ハンドの試作
  2関節指と3関節指を1本ずつ対向するように配したハンドの試作を行なった(図5)。このハンドでは図6に示すように様々な形状物の把持が可能である。
  また,図7に示すように柔軟性も確認することができた。

(図5 ハンド試作機)
(図6 試作ハンドによる把持)
(図7 試作指の柔軟性)

3.結 果
  小型軽量化が可能な,シンプルで柔軟性のある指機構を提案し,ハンドの試作を行なった。そして,試作機を用いた把持実験により,この指機構が様々な形状に対応できることを確認した。また,この機構が外からの力に対して逃げるように働く安全性を有することも確認した。
  今後は,指の本数を増やしたり,センサを取り付けて把持力の制御を行なったりすることによるハンド高度化や,シンプルな機構の特性を生かした小型化を検討していきたい。