全文(PDFファイル:302KB、2ページ)


 色覚障害擬似体験モニターの開発とその有効性
 電子情報部  ○前川満良 高橋哲郎

1.目 的
 たくさんの色を使うホームページや印刷物が簡単に作成できる昨今では,色だけに頼った情報が増え,色覚障害者にとって見えにくいものが増えてきている。色覚障害者は日本人男性の約5%と少なくなく,小学校のクラスに1人いる計算になる。したがって,この色覚障害者への配慮は重要であり,公的機関が発信する緊急・災害情報などは必須条件といえる。
 しかし,色覚障害者の見え方が理解されていない現状では,「何が見えにくいのか?」を認識することさえ難しい。そこで本研究では,誰もが色覚障害者の立場になって色覚バリアの対応策を検討できることを目標に,色覚障害者の見え方を体験できる色覚障害擬似体験モニターを開発した。本報告では,開発したモニターとその有効性を示す。

2.内 容
2.1 色覚障害擬似体験ソフトウェアの開発
 英国ケンブリッジ大学モロン教授が1997年に発表した論文1)では,図1のように「色覚障害者は,点Qの色が欠損した錐体の軸に沿ってLMS空間内のある平面に投影された点Q’の色に見える」としている。この理論に基づき,まず色覚障害者の見え方に色変換するソフトウェアを開発した(図2)。色変換の手順は以下の通りである。

(1) 画像の1画素のRGB値を取得し,γ補正する。
(2) 人間の視細胞のRGBにあたるLMS色空間に変換する。
(3) このLMS色空間でモロンの理論の平面投影処理を行う。
(4) 色空間変換行列式の逆演算により色覚変換後のRGB値を出力する。
(5) これを画像上の全ての点で繰返し色変換を行い,変換後の画像を作成する。

 ここで投影平面によって色が微妙に変化することから,色覚障害者に投影平面を特定の軸を中心に変化させる色合わせ実験を行い,もっとも近い色になる投影平面を決定した。

(図1 モロンの色覚障害の色変換理論)
(図2 色覚障害擬似体験ソフトウェア)

2.2 色覚障害擬似体験モニターの開発
 しかし,ソフトウェアでの色変換では静止画しか処理できず,色変換作業も煩雑なことから,図3に示すモニター内部で色変換を行い,リアルタイムに色覚障害者の見え方が体験をできるモニターを開発した。開発したモニターは(株)ナナオ製液晶モニターFlex Scan L985EXをベースにASIC内部で色変換演算処理を行っている。

(図3 開発した色覚障害擬似体験モニター)

2.3 色覚バリアチェック作業の有効性
  色覚障害擬似体験モニターの有効性の1つに,色覚バリアのチェック作業の効率化が考えられる。ここでは,Webのチェック作業の有効性を検証した。
  色覚バリアのチェック作業は,ソフトウェアによる色変換でも可能であり,最も普及している米国製ソフトウェアVisCheckと本開発モニターでの比較を行った。
 各々の色覚バリアのチェック作業手順は以下の通りである。
T.VisCheckによる手順
 @ チェックする画面をAltキー+Print Screenキーでクリップボードに取り込む。
 A クリップボードから事前に起動しておいたPhotoshopにペーストする。
 B フィルター機能でVisCheckフィルターを選択し,色変換処理を行う。
 C 画像の中で配色や文字の見えにくい箇所を探す。
U.モニターによる手順
 @ 通常のWeb閲覧作業をしながら配色や文字の見えにくい箇所を探す。
  この手順に従い,色覚バリアのチェック作業を行った。本検証では工業試験場のWeb版技術ニュース1号分を題材とした。使用したWeb閲覧ソフトウェアはInternet Explorerで,Windowsサイズは約1000×1000Pixelとした。1号分のページ数は11ページであったが,スクロールを必要とするページもあり,ソフトウェアでのチェック画像は17ページとなった。
  検証実験により,2つの方法のチェック作業時間はVisCheckが581秒,モニターが44秒と1/13以下になった。さらに他のWebをチェックした結果,モニターでは簡単な作業ではあるがVisCheck ではNewなどの点滅する文字や図に対するクリップボードへの取り込みタイミングの難しさ,マウス位置により色変化する文字や図に対するチェック画面の増加,Flashなどの動画内の文字がチェックできないなどの課題が明確になった。

3.結 果
 色覚バリアフリーを推進する道具として,色覚障害者の見え方を体験できるソフトウェアを開発し,さらにモニターでその機能を実現した。これにより以下の結果を得た。
(1) このモニターによって,Webの色覚バリアチェック作業が1/13以下に短縮した。
(2) 点滅やFlashのほか,テレビなどの動画も容易にチェック可能となった。
 今後は,このモニターを利用した色覚バリアのチェックを進めながら,その対処方法をまとめていく予定である。

謝 辞
 本開発にあたり,実験に協力いただいたNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構および県内被験者の皆様に感謝いたします。

参考文献
1)J.D.Mollon, ”Computerized simulation of color appearance for dichromats”,Opt, Soc.Am.,Vol.14, No.10,2647-2655(1997).



* トップページ
* 平成17年成果発表会もくじ

概要のページに戻る