全文(PDFファイル:169KB、4ページ)


 有機フィルムを用いたセンサの高機能化研究
 電子情報部  ○筒口善央 米澤保人 橘 泰至

1.目 的
 ガスセンサは,製造プロセスにおける雰囲気等のガス濃度管理,排出ガスにおけるNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)等の環境影響ガス検知等の工業用途だけでなく,においの識別,ガス漏れ警報器,電子レンジやエアコン等の家庭電化製品まで広く使用されている。ガスセンサには電気化学式,水晶振動子式等の各種方式があるが,低価格で長寿命かつ安定な半導体式が広く普及している。しかし,図1に示すようにNH3(アンモニア)ガス用センサであっても他のガス種に反応するという問題がある。そのため,大気中の一般環境計測では誤検知・誤動作しやすい。本研究では,構造が簡便で選択性の高いセンサを開発するため,半導体ガスセンサの感応膜表面にガスのフィルターとして有機膜の塗布を試みた。検知ガス種としては,フロン代替冷媒やダイオキシン等の中和処理用触媒として需要が高まりつつあるNH3ガスに着目し,ガスセンサ素子とこれを搭載したNH3ガス計測器を試作した。

(図1 NH3(アンモニア)ガス用センサの各種ガスに対する応答特性例)

2.内 容
2.1 半導体薄膜ガスセンサ
 基本となるセンサは,一般にNH3系ガスに対し感度が高いと言われていることから,ZnO(酸化亜鉛)をターゲット母材としたスパッタリング法による半導体薄膜ガスセンサを作製した。

2.1.1 動作原理
 大気中では,ガスセンサ表面の粒子に大気中のO2(酸素)が吸着しており,導電率は小さくなっている。しかし,還元性ガスが存在すると,還元性ガスはすでに吸着しているO2と反応して,吸着O2を離脱させる。そして,半導体内を移動できる電子の数を増加させるため,センサの導電率は増加する。また,導電率の増加は吸着分子数に依存するので,センサの導電率変化からガス濃度を計測することができる。

2.1.2 ガスセンサ素子の作製
 ガスセンサ素子の作製は図2の手順で行った。基板に電極(金または銀)を作製し,基板上の電極間にRF(反応性)スパッタリング法により,表1に示す成膜条件でガス反応膜(ZnO/In2O3)を堆積した。

(図2 ガスセンサ素子と作製手順 )
(表1 成膜条件)

2.1.3 ガスセンサ応答特性の計測
 半導体ガスセンサ素子の各種ガスに対する応答特性は,図3に示すガス応答計測装置を使用して評価した。ガスセンサ素子の動作温度までヒータで加熱し,初期抵抗が安定した状態で,チャンバ容積の1000ppm相当の測定ガスを注射器で注入する。抵抗計測にはデジタルマルチメータ(Hewlett Packard社製 型式34970A)を用い,ガス注入後10分間の計測を行った。

(図3 ガス応答計測装置)

2.1.4 センサ材料および動作条件の最適化
 センサ感度を向上させるため,センサ材料の組成および動作温度条件を最適化した。キャリアの増加による感度向上のため,In2O3(酸化インジウム)をドナーとして添加し,ターゲット材料のZnOへの添加量(0.1〜15mol%)を変化させた。また,センサの動作温度を300℃,350℃,400℃に変化させた。図4に1000ppmのNH3ガスに対する抵抗比のIn2O3添加量および動作温度による変化を示す。縦軸はガス注入時の初期抵抗値Ra[Ω]に対するガス注入後の最大抵抗値Rg[Ω]の比を表す。横軸はZnOターゲット中のIn2O3の添加量を示す。図4の結果より,半導体ガスセンサとして400℃,In2O32mol%で最大感度を示すことが分かった。

(図4 1000ppmのNH3ガスに対する抵抗比のIn2O3添加量および動作温度による変化)

2.2 有機膜フィルター付半導体薄膜センサの作製
2.2.1 有機膜フィルター材料
  表2に主な有機樹脂のガラス転移点,融点を示す。ポリイミド樹脂は,ガラス転移点が400℃で唯一ガスセンサの動作温度に耐えることができる。このため,ポリイミドワニス((株)I .S.T製Pyer-ML RC5057 ポリイミド濃度14〜18Wt%)をフィルター材料として使用した。

表2 主な有機樹脂のガラス転移点,融点

2.2.2 有機膜の塗布
 ポリイミドワニスを希釈溶剤1−メチル2−ピロリドン液で希釈後、約50mgをガス反応膜上に滴下し,スピンコーター(MIKASA製IH-D2)を用いて,1次回転数300rpmで10秒,2次回転数を2000〜6000rpmで40秒と変化させ,膜厚を変えて塗布した。その後,大気中で乾燥(120℃60分,200℃10分)と焼き付け(250℃60分,400℃30分のイミド化処理)を行った。図5に有機膜を塗布して作製した素子と断面構造を示す。

(図5 作製したセンサ素子と断面構造)

2.2.3 有機膜の成膜条件の最適化
 有機膜のフィルター効果を最適化するため,ポリイミド樹脂の希釈条件(50〜100wt%)とスピナーの回転数(2000〜8000rpm)を変えた。図6に回転数に対する膜厚および膜重量(密度)の変化を示す。これにより,膜厚が3〜15mmの範囲で変化し,重量も変化したことがわかる。図7に各種ガス1000ppmに対する抵抗変化量[Ω]の時間応答特性例を示す。図中の横軸の0分はガスを注入した時間を示す。NH3ガスと同系のTMAガスの抵抗量は1/2程度で,他の種類のガスにも感度があり,分離ができなかった。特に,希釈80%未満では,有機膜がない場合と同様に,全てのガスが透過してしまいフィルター効果が得られなかった。希釈90%以上では,全てのガスに応答を示さなくなった。最適条件を検討した結果,図8に示すように,希釈80%希釈、2次回転数4000rpm40秒条件で製膜した膜厚6mmのときのみ,NH3ガスと感度に対して同系のTMAガスを1/10以下の感度に低下することができ,有機膜フィルターとして機能することが分かった。

(図6 回転数に対する膜厚および膜重量の変化)
(図7 種々のガス1000ppmに対する時間応答特性例)
(図8 希釈80%時の種々のガス1000ppmに対する時間応答特性例)

3.結 果
 ZnOガスセンサの表面に有機膜フィルターを塗布し,裏面にヒータ一を持つセンサ素子を作製し,次の結果が得られた。
(1) 感度
 1000ppmのNH3ガスに対し,約400[Ω]の抵抗変化量が得られたことから,最小検出感度が数ppm(市販センサ並)まで計測できるセンサ素子が作製できた。
(2) 選択性
  有機膜の塗布により,他種ガスの影響を抑えるとともに,特にアミン系の同種ガスであるTMAに対するガス感度を約1/10に抑えることができた。
(3) 試作器の作製
  開発したセンサ素子を搭載したNH3ガス計測器(図9)を試作した。
今後、開発した試作器の実用化テストを重ねるとともに,県内企業で活用を図りたい。

(図9 試作した計測器)

謝辞: 本研究を遂行するにあたりにご指導とご協力を戴きました金沢工業大学 高度材料開発 センター 南戸秀仁教授ならびに南戸研究室学生諸氏に感謝いたします。


* トップページ
* 平成17年成果発表会もくじ

概要のページに戻る