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 環境適応型染色技術の開発
 繊維生活部  ○沢野井康成  森 大介  神谷 淳
 金沢大学  黒堀利夫

1.目 的
 本県の基幹産業である繊維産業では,「高機能化」「多品種小ロット」「短納期」の対応が求められている。染色分野においては,さらに「環境」に優しい製造技術が重要であり,これらをクリアする技術のひとつとして,インクジェットプリンターを用いるインクジェットプリントが注目されている。しかしながら,この手法はプリント後に必要となる布の発色・水洗・熱セットの後処理を,従来のプリント技術と同様,染色加工場で行っており,このため,水や熱エネルギーの大量消費等で大きな課題を抱えている。そこで,本研究では,環境負荷の少ない染色技術の開発を目的に,クリーンな光エネルギーであるレーザー光を用い,ポリエステル繊維への発色方法について検討した。

2.内 容
2.1 レーザー光による発色法
 レーザー光による発色法は,図1に示すように,従来の湿熱あるいは乾熱による熱エネルギーに代えて,レーザー光による光エネルギーを利用して染料を繊維の内部に拡散させる方法である。このように発色工程に光エネルギーを用いることで,環境負荷の低減と省エネルギー化が期待できる。

(図1 レーザー光による発色法)

2.2 実験
 レーザー光を照射する試験用試料として,前処理済みのポリエステル布に分散染料インク(シアン(C),マゼンダ(M),イエロー(Y),ブラック(K),レッド(R),バイオレット(V),オレンジ(O))の7色をストライプ状にインクジェットプリントしたものを用いた。照射試験は,試料をXY微動装置を使用して,たて・よこ方向に移動させながら,連続あるいはパルス発振のレーザー光をプリント面に照射して行った。

2.3 評価
 レーザー光を照射した試料の発色性は,試料を洗浄して前処理剤を除去後,分光光度計により測色し,得られた分光反射率から式(1)より表面染色濃度(K/S値)を算出して評価した。また,レーザー光による繊維への影響は,試料の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して行った。
  (K/S)λ=(1―Rλ)2/2Rλ--------(1)  R:反射率,λ:最大吸収波長

2.4 実験結果および考察
2.4.1 連続発振のレーザー光による発色試験
 連続発振のレーザー光(波長:458,488,514 nm)を試料に照射した結果,7色とも発色することが確認された。488nmのレーザー光を照射した場合の基本4色C,M,Y,K試料の一例を図2に示すが,これより照射部分のポリエステルが発色している様子がわかる。また,照射するレーザー光のパワー密度が高くなるにつれ,試料も濃くなった(図3)。
 基本4色において,レーザー光の波長による表面染色濃度の違いを調べたところ,458nmの光に対しては,4色とも発色は不十分であったが,488nmの光に対しては4色いずれも良好に発色した。また,514nmの光に対してはYを除く3色の発色性は良かった。この実験結果について,今回使用した分散染料インクの分光反射率より検討したところ,染料インクの最大吸収波長の違いによるものと推測された。
 高いパワー密度で照射した濃色部の表面をSEM観察した結果,固形状の残留物が多く,且つ繊維の一部が溶融化していることが確認された。そこで,レーザー光を照射する際に,プリントの反対面より布を予め暖める予備加熱を行った。その結果,40℃という比較的低い温度からでも,試料を損傷させない低いパワー密度で良好に発色できることを確認した(図4)。

(図2 発色した試料の一例)
(図3 レーザー光のパワー密度と発色性)
(図4 予備加熱しながら発色した試料表面の拡大写真)

2.4.2 パルス発振のレーザー光による発色試験
 波長が532nmのパルス発振(パルス幅 5ns,繰り返し周波数 10Hz)のレーザー光をC,M,Y,K試料に照射したところ,各色とも発色は起こるが,連続発振のものに比べ発色の程度は極めて低い結果となった。加えて,全体的には照射部分の染料インクが白色化する現象が見られた。この理由として,パルス発振では,平均パワーよりむしろピークパワー値が発色に効いてくるため,それによる染料インクの分解が生じるものと考えられる。したがって,本発色法には,連続発振のレーザー光の方が適していると思われる。

3.結 果
(1) 最適なレーザー光(連続発振かパルス発振,使用波長,パワー密度)を選択することで, インクジェットプリントしたポリエステル布の発色が十分可能であることがわかった。
(2) 布を予備加熱しながらレーザー光を照射することにより,繊維の損傷を少なくして発色させることが可能であることを確認した。
今後,本発色法の実用性を確認するため,試験装置の試作およびこれを用いた発色実験・評価を行う予定である。


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