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 微生物の新規固定化技術の開発
 化学食品部 ○井上智実

1.目 的
 近年,微生物は厨房排水中の油脂分解や油流出現場の浄化などに利用されるようになってきた。また,ガソリンスタンドやクリーニング場跡地など汚染された土壌の浄化手段としても用いられつつある。一般的に微生物は,保存性を高めるために製剤化されているが,芽胞を作らない微生物は長期保存が困難である。また,微生物の製剤化方法は,大量培養後,遠心分離で集菌し,乾燥保護剤(10%スキムミルク)に懸濁させて凍結乾燥する手法が確立されているが,さらに保存性を高める技術が望まれている。
  工業試験場では,平成12年度より3年間,微生物を用いた廃油処理技術の開発に取り組み,その過程でオリーブ油を90%以上分解する新規微生物(アシネトバクター属)の単離に成功した。しかしながら,本微生物は芽胞を作らないため,長期的な保存が難しく,実用化するためには長期保存技術を開発する必要があった。 本研究は,当微生物(以下,GKN-4とする)の固定化方法を検討し,先に述べた10%スキムミルクを用いた方法に比べ,長期保存を可能とする固定化技術を開発することを目的とした。

2.内 容
2.1実験方法
 微生物は、工試で単離したGKN-4を用いた。まず,栄養培地10mLとGKN-4をL字管に加え,30℃で一晩振とうし,前培養を行った。前培養後,バッフル付き三角フラスコに栄養培地を200mL,前培養液を5mL加え30℃,120rpmで48時間,大量培養を行った。大量培養後,培養液を遠沈管に取り高速冷却遠心機にて4℃,7.5×103rpmで5分間遠心分離し集菌した。集菌した微生物は滅菌した固定化担体の溶液に分散させ,等量ずつサンプルびんに注入して−60℃で凍結させた。一晩凍結させた後,凍結乾燥を行い,固定化物を作成した。なお,これらの操作はすべて無菌的に行った。

2.2 固定化担体の検討
 固定化担体にはゼラチンおよび天然多糖類として,アルギン酸ナトリウム,κ-カラギーナン,スターチ,デキストリンを用いた。また,添加物として、スキムミルク,グルタミン酸ナトリウム等を用いた。

2.3 評価方法
 固定化物は,40℃の恒温槽内にサンプルビンの蓋をゆるめた状態で静置し,加速試験(40℃,2ヶ月で1年相当)を行い,固定化直後,5日後,15日後,30日後,60日後に生菌数測定して評価した。なお,生菌数測定は,スパイラルプレーティング法を用い,数段階に10倍希釈した試料を標準寒天培地に50μL塗布し,30℃,24時間培養後のコロニー数を生菌数とした。

3.結 果
3.1 スキムミルクが生菌数に与える効果
  従来のスキムミルク法が生菌数に与える効果を図1に示す。スキムミルクは,1%(図中S1),5%(図中S5),10%(図中S10)となるように調製し,GKN-4の懸濁液に添加し凍結乾燥を行った。また,比較としてスキムミルクを添加せずに試料を作成した(図中S0)。
  2ヶ月間加速試験を行った結果,スキムミルクを添加しなかった固定化物は固定化直後の生菌数が2×1012個であったのに対し,加速試験2ヶ月後は6×104個となり,生菌数が約3/108に減少した。一方,スキムミルクを添加した固定化物は,固定化直後の生菌数は約9×1011個であったのに対し,加速試験2ヶ月後は3×105個となり,生菌数が約3/107に減少した。したがって,スキムミルクを添加することにより生菌数は10倍残存した。なお,GKN-4はスキムミルクの添加量が1〜10%の間では生菌数にほとんど差が認められず、スキムミルクを添加しなかった場合も3×105個の菌体が生存していたため,自ら乾燥保護作用のある物質を生産している可能性が示唆された。

( 図1 スキムミルクが生菌数に与える効果 )

3.2 新規固定化担体が生菌数に与える効果
 新規固定化担体が生菌数に与える効果を図2に示す。アルギン酸ナトリウム(図中AGS),κ-カラギーナン(図中KGS),スターチ(図中SGS),ゼラチン(図中ZGS),デキストリン(図中DGS)をそれぞれ0.1gとり,1%スキムミルク溶液に調製したGKN-4の懸濁液をそれぞれに添加し凍結乾燥を行った。なお,図中GSはグルタミン酸ナトリウムにスキムミルクを添加したもの,図中Gはグルタミン酸ナトリウムのみを添加したものを示す。また,比較として,1%および10%スキムミルクによる固定化物を作成した(図中S1およびS10)。
  2ヶ月間加速試験を行った結果,グルタミン酸ナトリウムのみを添加した場合に最も菌体の死滅が少なく,生菌数の減少は1.8/10に抑えられた。一方,比較用の10%スキムミルク固定化物の生菌数は5/105に減少した。すなわち、グルタミン酸ナトリウムを固定化担体に使用した場合,10%スキムミルクに比べ生菌が約3600倍残存した。

( 図2 新規固定化担体が生菌数に与える効果 )


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