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 機能性陶板の研究開発
 九谷焼技術センター ○高橋 宏

1.目 的
 本研究は,九谷焼陶板に施された上絵の屋外環境下での経年劣化を防止するため,酸化チタン皮膜を陶板表面に形成する技術の確立を目的としている。酸化チタン皮膜の形成技術が確立できれば,九谷焼陶板の屋外への応用が可能となり,新しい製品の開発が期待できる。本研究を進めるにあたり,九谷焼の美観を維持する皮膜を形成することを主眼において実施した。
今回は,平成13年度までに実施した基礎検討を基に,実用化に向けた検討を行ったので報告する。

2.内 容
 実用化を検討するため,大面積の試験片として300mm角及び120mm×150mmの白磁陶板を用意した。また,評価用として上記の陶板表面に上絵を施した試験片も用意した。上絵装飾は上絵面積が同一になるように転写紙を用いて行った。酸化チタンのコーティング溶液は,ペルオキソチタンタイプの溶液(溶媒:水,濃度1.7wt%)を用いた。この溶液にシリカゾル,界面活性剤及の各種添加剤を加え,大面積試験片に最適な皮膜形成条件を検討した。皮膜の形成は大面積試験片用の装置を作成して行った。製膜方法は浸漬引上げ法である。モータの能力として最大500mm/minの速度で引き上げることが可能である。また,試験片の重量としては最大30kgを引き上げることが可能である。
2.1 製膜条件の検討
 皮膜の形成条件の最適化のため,酸化チタン濃度,各種添加剤量,引上げ速度及び焼成温度の各条件について検討を行った。添加剤のシリカゾルは酸化チタン皮膜特有の着色の軽減と,上絵の劣化防止に効果がある。基礎実験で作成した酸化チタン皮膜の測色計による着色の評価結果より,シリカゾルの添加量を30.0〜50.0mol%とした。皮膜の均一性向上に効果がある界面活性剤の添加量は,5〜15wt%の範囲で検討した。酸化チタン濃度は,基礎実験の結果より高濃度(1.7wt%)の場合,沈殿を生じやすいことが判明したため,純水で1.0〜1.3wt%に希釈し調整した。引上げ速度は,基礎検討時の条件に合わせ引上げ速度を160mm/minで検討を開始したが,最終的には生産性を考慮し320mm/minの速度で皮膜形成条件を検討することとした。焼成温度は,皮膜の密着性や上絵と酸化チタンとの反応の有無を考慮に入れながら設定し,最高800℃まで検討した。
2.2 皮膜の評価
 形成した皮膜の評価として,耐酸試験(食品衛生法)及び耐薬品性試験(陶磁器質タイルJIS-A-5209)に準じて行った。耐酸試験は,120mm×150mmの試験片に上絵を施しそれに皮膜形成したものを用いた。22±2℃の環境下で,4%酢酸溶液に24時間浸漬した後,その溶液を回収し溶出した鉛を定量した。耐薬品性試験は,300mm角の試験片に上絵を施しそれに皮膜形成したもの用いた。3wt%塩酸及び3wt%水酸化ナトリウム溶液に各々室温で8時間浸漬後,試験片表面を観察した。

3.結 果
(表1 製膜条件の検討結果)
3.1 製膜条件
(表1)に今回評価した各条件一覧と判定について示す。酸化チタン濃度1.0wt%,シリカ添加量40.0〜42.5mol%,界面活性剤添加量 15wt%の液調合が今回得られた最適調合であるという結果であった。大面積試験片の皮膜形成条件として最も重要な条件は,焼成温度の設定であった。焼成温度が600℃以下であると十分な皮膜の密着性が得られない。一方で,800℃付近では皮膜着色を軽減するシリカの効果が減少し,皮膜の着色が再び強くなるという現象が見られた。このため焼成温度は,650〜700℃付近が最適であると判断した。酸化チタン濃度1.3wt%の調合では,均一で透明な皮膜形成はできなかった。引上げ速度を50mm/minとし皮膜形成を試みたが改善はしなかった。
3.2 皮膜の評価結果
(図1 耐酸試験結果)
(図1)は酸化チタン濃度1.0wt%,シリカゾル添加量42.5mol%,引上げ速度320mm/minで形成し各温度で焼成した皮膜の耐酸試験の結果である。鉛の溶出は焼成温度700℃までは温度の上昇に伴い減少するが,700℃越えて温度を上げると増加傾向にあることがわかる。この傾向はシリカゾル添加量40mol%の場合も同様であり,鉛の溶出量についてもほぼ同一の値であった。酸化チタン濃度を増加させた1.3wt%の溶液から形成した皮膜では,酸化チタン濃度1.0wt%の皮膜に対する優位性は確認できず,反対に溶出量が増加する傾向にあった。以上のことから,上絵保護機能を有する皮膜を形成するための条件は,酸化チタン濃度1.0wt%,シリカ添加量40.0〜42.5mol%,界面活性剤添加量15wt%の液調合で焼成温度700℃が最適であるといえる。耐薬品性試験の結果は酸化チタン濃度1.0wt%でシリカ添加量40.0mol%の液調合で,焼成温度が700℃で形成した皮膜が耐薬品性に最も優れていた。この結果は,耐酸試験で鉛溶出量が最も少ない皮膜の形成条件と一致した。



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