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 絵具調色システムの研究
 九谷焼技術センター ○高 寛明

1.目 的
現在,九谷焼で使用されている和絵具は,花器等に使用されている有鉛和絵具と,食器等に多く使用されている耐酸性が高く鉛溶出量が少ない耐酸和絵具及び当場で開発をした無鉛和絵具の3種類である。
 和絵具で目的とする色合いに発色させるには,絵具を調合した焼成前の色と焼成した色が違うため,複数回の調合と焼成を必要とするのが現状である。
和絵具焼成色のデジタル化ができれば,商品開発時の絵柄色に合致した絵具の調色や近似色選択が迅速にでき,コンピュータ上で行う商品開発のデザイン作業に,和絵具の焼成近似色を利用することが可能になる。
今後の九谷焼における商品開発サイクルの短縮化を図ることを目的に,最も多く使用されている耐酸和絵具と,業界へ技術普及を進めている無鉛和絵具の2種類のデータベース(以後DB)化を行った。

2.内 容
2.1 耐酸及び無鉛和絵具の色見本試料の作成
(1) 九谷焼の和絵具は焼成後の透明性が高く,絵具厚による明度や色合いの変化を確認するために,3段階の絵具厚で作製した。
(2) 耐酸和絵具の標準焼成温度は790℃であり,焼成温度による焼成色の変化と鉛溶出量の影響を把握するため上下に30℃変化させた760,790,820℃の3段階の条件で焼成した。無鉛和絵具の焼成も,標準焼成温度と上下に30℃変化させた820,850,880℃の3段階で焼成した。
(3) 和絵具の調合は,青(緑色),紺青,黄,紫の基本の和絵具を混色調合して絵付けした。青-紺青,青-黄,青-紫,紺青-黄,紺青-紫,黄-紫の6系統である。各混色系統で混色割合を5段階とした。
上記条件により,3絵具厚×3焼成温度×6混色系統×混色5段階で,270点の色見本を作製した。基本和絵具の4色は,3絵具厚と3焼成温度の条件で36点作製し,合計306点とした。
2.2 測色
 色見本試料の測色は,工業製品分野の色彩管理で多く使用されているL*a*b*表色系(JIS Z 8729)と,色相還による分類を行い理解しやすいと思われるマンセル表色系(JIS Z 8721)の2種類とした。
2.3 色見本試料の混色調合
(図1)は基本の和絵具と,6混色系統で各5段階に混色した色見本試料のa*値とb*値のプロットである。
(図1 基本色と混色のa*b*値)
(図2 選択画面)
(1) 混色した基本色間の5段階の測定値は,2基本色間に均等に位置するのではなく,暗い色である紺青や青の割合が多い調合は色の変化が少なく間隔が狭い。また明るい色である黄に他の基本色を調合した場合は色の変化が大きく間隔が広い。
(2) 絵具厚が薄い色見本試料の測色値は,和絵具の透明度が高いために白素地が透けて,測定値は小さめで且つばらつきやすい。絵具厚が厚いと,L*値,a*値,b*値とも数値差が大きくなり,色差が大きいといえる。
2.4 焼成温度と絵具色
無鉛及び耐酸和絵具共に絵具表面の焼成温度による違いは特に無かったが,和絵具表面状態の変化がなくても,焼成温度が低いと耐酸性が劣ることが判明している。和絵具は,標準とする焼成温度もしくはその温度以上にしっかりと焼成することが重要である。
2.5 DB構造
画面構造は,スタート画面,単票画面,一覧表画面,選択画面の4つである。
起動時に表示されるスタート画面には,DBの簡易的な使用法を表示した。単票画面には,単一色の全データ項目を表示する。一覧表画面では,入力された和絵具色データの一覧ができる。選択画面では,和絵具色データを焼成温度3段階と混色6系統の18種類に分け,1クリックで選択可能なボタンを作成した。DBの選択画面の一部を,(図2)に示す。

3.結 果
(1) 和絵具の青(緑色),紺青,黄,紫の4基本色を6混色系統に混色調合し,各混色系統の混色割合を5段階,絵具厚3段階,焼成温度3段階で色見本を作成した。
(2) 和絵具のDB情報は,色に関する項目としてマンセル値, L*a*b*値,デジタルサンプル色,色見本の写真画像など,データ情報項目として絵具名,焼成温度,絵具種類,加飾方法などの調色DBを構築した。
(3) 現在,九谷焼業界で食器等に多く使用され耐酸性が高く鉛溶出量が少ない耐酸和絵具及び工業試験場で開発を行った無鉛和絵具のDBの利用により,調合と絵付及び焼成を複数回行っている従来の調色方法から,和絵具の調色や近似色選択が短時間に可能となった。今後の九谷焼における商品開発サイクルの短縮が期待できる。



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