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 磁器坏土の成形性改善研究
 九谷焼技術センター ○佐々木直哉

1.目 的
九谷焼素地の成形は,ろくろ成形,鋳込み成形,ローラマシン成形等があり,それぞれの成形法によって特性の異なった坏土が使用されている。特に昔から用いられているろくろ成形法は,坏土の成形性が重要となる。そのため,19世紀初め頃に花坂陶石が発見されて以来,現在に至るまで,ろくろ成形用坏土の原料として利用されている。しかし花坂陶石に関して,5μm以下の細かい粒子の化学組成や形態について分析及び観察を行った報告や成形性の要因に関する報告はない。
そこで本研究では,花坂陶石を粒度別に分級し,粒度分布,化学組成,鉱物組成,形態の変化を調べた。特に2μm以下の粒子の鉱物組成や形態については,一般的に陶磁器の粘土質原料として使用されている木節粘土,蛙目粘土,ニュージーランドカオリン(NZカオリン),朝鮮カオリンと比較を行った。また実際に坏土を試作して官能試験を行い,花坂陶石の成形性の要因について考察した。

2.内 容
2.1 花坂陶石の物性
 スタンパーで粉砕した花坂陶石を水簸し,75〜32μm,32〜20μm,20〜10μm,10〜5μm,5〜2μm,2〜1μm,1μm以下に分級した。5μm以上の粒子については,粉体分級装置を用い,5μm以下の粒子については,高速遠心機を用いて分級を行った。そして,それぞれ粒度分布,化学組成,鉱物組成,形態について分析及び観察を行った。特に2μm以下の粒子の鉱物組成や形態については,木節粘土,蛙目粘土,ニュージーランドカオリン(NZカオリン),朝鮮カオリンと比較を行った。
2.2 官能試験
花坂陶石を水簸し,開き目が1.41mmと75μmの篩を用いて1.41mm〜75μmと75μm以下に分級を行った。1.41mm〜75μmの粗粒子は,アルミナポットミルで10時間粉砕し,20μm以上の粒子が約5%になるように粒度調整を行った。そして75μm以下の粒子と粒度調整を行った1.41mm〜75μmの粒子を泥漿の状態で24時間攪拌し混合した。それをフィルタープレスで脱水し,NGK硬度8程度になるように水分を加えながら手で練って坏土を試作した。試作した坏土は,実際にろくろ成形を行い評価した。

3.結果及び考察
3.1 花坂陶石の物性
 花坂陶石は,粒度が細かくなるにつれて石英が減少し,カリ長石は増加する傾向を示した。しかし2μm以下には,石英やカリ長石といった塊状の粒子は含まれておらず,板状のイライトやハロイサイト(10Å, 7Å)といった粘土鉱物が含まれていた(図1)。2μm以下の粒子は,花坂陶石(75μm以下)に35.4%も含まれていることから,これらの粒子が成形性に重要な役割を果たしていると考えられる(表1)。そこで,この2μm以下の粒子について他の粘土質原料と比較すると,花坂陶石の成形性の要因は,粒子が細かく板状であり,層間に水を含んだ粘土鉱物が存在することであると考えられる。

(図1 分級した花坂陶石の走査型電子顕微鏡写真)
(表1 花坂陶石(75μm以下)の粒度分布)

3.2 官能試験
 調合は,粘土鉱物を含んだ75μm以下の粒子と粒度調整を行った石英と長石から成る1.41mm〜75μmの粒子の調合比を変えることで坏土に含まれている粘土鉱物の量を変化させた(表2)。その結果,粘土鉱物の量が少ない坏土ほど,成形性は悪いことが分かった。これは,2μm以下の粘土鉱物が成形性に重要な役割を果たしていることを示している。また80-20調合までは,ろくろ成形,かんな加工とも問題なくできるが,70-30調合になるとかんな加工しにくくなることから,花坂陶石の成形性に必要最小限の粘土鉱物の量は,25〜28%であると考えられる。

(表2 坏土の調合比と官能試験結果)



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