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全文（PDFファイル：73KB、2ページ） |
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シールド衣料による電磁波遮蔽の数値的な評価
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| ■電子情報部 ○吉村慶之 ■金沢大学 長野 勇 八木谷 聡 |
１．目 的
電子情報通信技術の発展により，不要電磁波による機械の停止や携帯電話による心臓ペースメーカの誤動作などが問題となっている。特に携帯電話の爆発的な普及により，ペースメーカの使用者にとっては命に関わる重要な問題である。日本国内では，ペースメーカ使用者から22cm以上の距離をとって携帯電話を使用するよう勧告されている。しかし，混雑した電車やデパート内では22cm以上離れて使用される保証はなく十分な安全を保つためには，電磁遮蔽（シールド）材を用いて電磁波の侵入を抑制しなければならない。従来，これらのシールド効果は材料単体（平板）での評価であり，3次元的な機器の筐体や衣料での性能評価は困難である。また，3次元形状物体に開口がある場合は電磁波が回り込んで侵入すると考えられるため，材料単体のシールド効果とは性能が異なる。したがって，効率よく電磁波をシールドするためには，数値解析により3次元形状物体を伴う電磁波伝搬を考察し，シールド効果を数値的に評価する必要がある。ここでは，ファントム（擬似人体モデル）にシールド衣料を装着した時のシールド効果をFDTD（時間領域差分）解析によって求めることとし，測定実験を行うことにより，本数値解析手法の有用性を検討する。
２．内 容
2.1 数値的な評価法
電磁波伝搬の数値解析には有限要素法，モーメント法，FDTD法などの手法があり，FDTD法以外は周波数領域での解析となる。電磁波伝搬機構が時間領域で表現されるFDTD法は，解析結果が非常に理解しやすいためよく用いられており，ここでも本手法によって解析を行うこととした。一般に数値解析は空間，あるいは立体モデルをセル分割し，計算を解き進めていくものである。FDTD解析も同様であり，空間，あるいは解析モデルを波長の1/10程度にセル分割する必要がある。シールド材等の高導電性材料では，周波数にもよるが，空間よりも4〜5ケタ程度波長が短くなる。そのため，電磁波が薄板シールド材を透過するような問題ではセル数が増大し解析が困難である。
そこで，シールド材を無限に薄い材料と仮定し，セル上の点でのみ表現することによって，材料内部でのセル分割が不要とする手法を提案した。具体的には，シールド材を抵抗皮膜と仮定して伝送線路論より求まる透過係数とシールド材本来の電磁場論より求まる透過係数を，FDTD法のセル境界に導入することにより，薄板シールド材の透過問題が計算できる。シールド効果は，ファントムにシールド衣料を被せた場合とそうでない場合とでの衣料を透過した電磁波強度の差として定義される。
2.2 実験結果との比較
ファントムモデルとして生理食塩水が満たされている直方体モデル（胴体部）を仮定し，首部と腰下部においてシールド衣料には開口がある形状とした（図1参照）。送信アンテナは，半波長ダイポールアンテナを仮定し，周波数は900MHzの正弦波とした。FDTD解析値と実験値とを比較した結果を（図2）に示す。比較のため，ファントム内部の生理食塩水を空気とした場合の結果も同図に示す。これより，FDTD解析結果は，実験結果と3dB以内で一致しており，解析手法の妥当性が確認できる。
また，同図よりファントム表面と送信アンテナとの距離dを大きくすることによってシールド効果が低下していくことが観察できる。これは，ファントム上部，あるいは下部のシールド衣料の開口から入り込む回折波が，dの増大とともに大きくなるため，結果としてシールド効果が低下していくと考えられる。次に，ファントムの内部媒質を空気にした場合，回折波の減衰が小さくなり観測点における電界強度が強くなるため，ファントム内部が生理食塩水の場合に比べシールド効果は低下することが確認できる。また，観測点(2)（首下部）よりも(1)（肩下部）の方がシールド効果は向上していることが観察できる。これは，ファントム肩部にシールド材があるため，観測点が肩部である(1)の方が，この遮蔽の影響が及んだものと推察できる。
（図1 ファントムモデルと座標系）
（図2 FDTD解析とファントムによる
実測との比較
）
３．結 果
任意形状の3次元物体に対する電磁シールド効果の評価は，実測による測定は各種パラメータの設定など柔軟性に欠けるため，FDTD法による数値解析を行った。そして，ファントムにシールド衣料の装着を想定し，そのシールド効果を解析した結果，実験結果とよく一致しておりその有用性が確認できた。また，シールド衣料の開口の影響を調べたところ，衣料を透過して内部へ入る電磁波よりも開口から回り込んで侵入する電磁波が多いことがわかった。そのため，開口がシールド効果の低下に結びつく主原因となることが確認できた。
なお，本研究の一部は，文部科学省の地域先導研究「地域産業の発展に寄与する電磁波技術に関する研究（シールド効果測定法の開発と評価）」の補助金によるものである。
