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 走査型電子顕微鏡による破壊事故解析事例の紹介
 機械金属部 素形材担当 ○藤井 要 鷹合滋樹

1.目 的
 石川県工業試験場が行う試験業務の項目の一つに走査型電子顕微鏡を用いた観察及び成分分析がある。これらの多くは,機械部品,搬送部品や構造部品等の異常や破壊事故に対するクレーム処理を目的とするものである。
その依頼件数は年間120件(平成14年度実績)を越え,比較的利用の多い試験項目の一つである。さらに,「クレーム処理に関わる技術相談」として,電子顕微鏡等の試験機器の利用には至らない事例(例えば肉眼による観察,写真や図面解釈のみによる技術相談)を加えると,多いときに一日に数件の対応が求められるニーズの高い業務である。しかしながら,このような相談によって蓄積された「破壊事故解析の事例」は技術的には価値のあるものが多いにもかかわらず,内容が企業秘密に触れるものが多く,非公開にせざるを得ないのが実情で,工業試験場の解析技術は一部の企業でしか知られていないのが現状である。
本発表では,工業試験場で行われる破壊事故解析の手順,手法について,依頼者の承諾を得た事例を参考にして紹介する。
(図1 破壊事故の原因)

2.内 容
2.1 破壊事故の原因分類と解析の目的
 稼働中の部材の破壊は,多くの場合,その部材の降伏強度以上の力が静的,あるいは動的に作用したことにより生じる。そのような破壊事故の原因として,(図1)の3つの要因に分類されるが,それぞれが主要因で生じる場合や相互に,関係し合って生じる場合がある。破壊事故解析は,これらの原因を推測し,その再発を防止する方法を探ることが目的である(図2参照)。

(図2 破壊事故解析の目的)

2.2 破壊解析の流れ
 (図3)は、A,B,C部で破損したシャフトの外観を示すが、発表ではこの事例を参考にして破壊事故解析の手法等を説明する。
(1)破損品の観察
  複雑な構造物で破損箇所が複数に及ぶ場合,破損が最初に生じた個所を同定し,その個所が,使用環境下で最大応力が生じる個所であることを確認する。次に、破面の状態から破壊の起点,き裂伸展方向を判断し,破壊形態が静的破壊,延性,脆性もしくは疲労破壊であるかを判断する。これらの破面から得られる情報は破壊事故の原因を探る上で大きな手がかりとなる。
 (2)事故現場での状況把握
 事故現場の使用環境や類似破壊事例の有無に関する情報は破壊原因を推察する上で,非常に重要である。これらの情報から,より信頼性の高い破面解析が可能となる。しかしながら,事故発生時の状況の詳細は,発生後ではわかりづらいのが現状である。
(3)走査電子顕微鏡観察
 破面を観察するとき,高倍率になるほどその視野が狭くなる。そのため,通常,破面全体の状況を肉眼もしくはルーペによって総合的に捉えて判断した後,電子顕微鏡観察を行っている。高倍率で焦点深度が深い像からは,破壊応力の推察に必要な情報が得られる。発表では疲労破壊でみられるストライエーションから破壊応力の定量解析を行った例を紹介する。
(図3 破損したシャフトの外観)

3.まとめ
(図4 S/N曲線による高寿命化の見積もり)
 製品の低コスト化や複雑化等から,設計思想は「安全裕度のある設計」から「限界設計」更には「損傷を許容するがメンテナンスによって安全性を確保する損傷許容設計」に移行している。すなわち,部品の寿命を有限と見なし,交換により機能を保証するという考え方である。その際,事故発生時の負荷応力を破面解析により推察し,設計に取り入れることは有効と考えられる(図4参照)。
破壊事故解析を通じ,材料強度を含めた様々な見地から検討を加え,再発を防止し,かつ高寿命化を試みることが理想である。



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