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 3次元イオン注入法で成膜したハイブリッドDLC膜
 機械金属部 ○安井治之 粟津 薫

1.目 的
各種産業界で使用されている工具,金型,機械部品などは,ますます高精度化,高機能化,長寿命化が要求されるようになっており,それに応えるため,材料の硬度や耐摩擦・摩耗特性を改善したDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜の実用化が進んでいる。
 我々はこれまで,2次元形状だけでなく3次元複雑形状部材の表面に均一に成膜が可能であるPBII(プラズマイオン注入)法を用い,複雑形状物の外面および内面へのコーティング技術を開発してきた。この研究成果を利用し,新たに産学官(産:(株)オンワード技研、学:金沢工業大学、官:科学技術振興事業団、石川県工業試験場)の共同研究を行っている。
本発表では,その成果の一部であるRFプラズマによるDLC膜とマイクロ波プラズマによるDLC膜を交互に積層したハイブリッドDLC膜の特性について発表する。

2.内 容
2.1 実験装置
実験に用いた装置は,真空容器(φ500mm×L800mm),パルス・プラズマ発生用の高周波発生装置(RF:13.56MHz)とマイクロ波発生装置(MW:2.45GHz),高電圧パルス電源部(-10kV,1A)から構成されている。原料ガスは,ボンバード用のArガスと成膜用のCH4又はC2H2ガスを用い,Siウェーハ基板と超硬合金(WC)基板上にDLC膜を成膜した。ハイブリッドDLC膜最初の一層目はRF-DLC膜,二層目はMW-DLC膜,この順で交互にDLC膜を積層してハイブリッドDLC膜を形成した。各種DLC膜の成膜条件を(表1)に示す。

(表1 DLC膜の成膜条件)

2.2 試験方法
DLC成膜後の表面観察は,非破壊で測定が可能な走査型レーザ顕微鏡(レーザーテック(株)製1LM21)と原子間力顕微鏡(SII製 Nanopics1000)を使用した。
膜の内部構造評価には,Arレーザ(波長:514.5nm)を備えたJOBIN YVON製のラマン分光装置(LABRAM)を用い,900cm-1〜1900cm-1の範囲のスペクトルを測定した。
また,機械的特性は,硬さと摩擦試験により評価を行った。DLC膜は硬く,薄いので,従来からの微小硬さ試験法(マイクロビッカース硬さ,ヌープ硬さ)では,荷重が大きいために圧子が膜を貫通してしまい,膜自身の硬さ評価ができないという問題があった。そこで,本研究では,荷重を小さくしても顕微鏡で圧痕の大きさを読み取る必要がなく,圧子の押し込み深さから硬さを求めることが可能な超微小硬度計(島津製作所(株)製 DUH-W201S)を用いて押込みによる硬さ試験を行った。摩擦試験は,CSEM社製トライボメータを用いた。試験は,回転するディスクに固定されたWC基板上のDLC膜表面にアルミニウム合金(A5052)のボールを押し付けて行った。

3.結 果
(図1)は膜厚測定器(CSEM社製 カロテスト)により,WC基板上のハイブリッドDLC膜(E)の表面を鋼球ボールにより削った痕をレーザ顕微鏡により観察した結果である。中心の白丸部分がWCの基板面であり,その外周が膜部分であり,内側からArによるイオンミキシング層,RF-DLC膜,MW-DLC膜,RF-DLC膜,MW-DLC膜の各層が観察される。
(図2)はRF-DLC膜とMW-DLC膜のラマンスペクトルを示す。両者を比べると波形が多少異なっているが,ピーク位置を1500cm-1としたブロードなピークを示していて,これまで得られているDLC膜のスペクトルと同様な波形を示している。
摩擦試験の結果を(図3)に示す。単層DLC膜の摩擦係数は,0.1から0.2であったが,ハイブリッドDLC膜の摩擦係数は,0.1で安定している。しかし,硬さは1000DH以下と軟らかい膜であった。

(図1 レーザ顕微鏡によるハイブリッドDLC膜(E)の内部構造)
(図2 ラマンスペクトルの測定結果(上)と4成分による波形分離例(下))
(図3 摩擦試験結果)

4.まとめ
DLC膜をRFプラズマおよびマイクロ波プラズマによりそれぞれ単独で成膜したものと,それぞれを交互に積層したハイブリッドDLC膜を形成し,機械的特性および膜構造を評価した結果,ハイブリッドDLC膜は,単層DLC膜より摩擦係数が低く,トライボロジー特性に効果があることがわかった。
しかし,硬度が不足している。今後,この改善策として,NDを埋め込むことにより硬度を高めたHND膜を完成させる予定である。
 本研究は,科学技術振興事業団の重点地域研究開発促進事業の育成研究に採択されたテーマ「ハイブリッドナノダイヤモンド(HND)膜の開発とその成膜プロセスの確立」であり,研究成果活用プラザ石川にて産学官の共同研究で行っている。



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