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 マグネシウム板材のボス出し成形技術の開発
 機械金属部 ○多加充彦 藤井 要 高野昌宏
 コマツ産機(株) 三吉宏治

1.目 的
 マグネシウム(以下,Mg)合金は,実用金属の中でも比重が小さく,比剛性(剛性/比重)や比強度(引張強さ/比重)が高いため,プラスチックに代わる軽量化材料として携帯機器筐体(カバー)等への利用が進められている。現在,Mg合金を用いた筐体の製造はダイカスト鋳造やチクソモールド法が主流となっているが,これらの製造法では成形後の表面品質や歩留まり等の問題があり,板材を利用した成形の期待が高まっている。しかし,板材成形では,筐体の剛性確保や組み付けに必要なボス・リブ等の厚肉部を一体成形することが困難である。そこで本研究では,プレス鍛造によって板材に高さのあるボス出し成形を行うことを目的に,ボス背面(筐体表面)にヒケを生じない成形条件や金型形状の検討を行った。

2.内 容
2.1 ボス出し成形法
 本研究では,(図1)に示すような筐体内部に付与されるボス形状を成形することに的を絞り,冷間(温間)鍛造などで良く使われている後方押出し加工について検討した。(図2)は後方押出しによるボス出し成形を評価するための基本金型を示したもので,ダイに設置した直径20mmの素材を加圧すると,パンチ中央部に設けられた直径5mmの円筒内に,パンチの進行方向とは逆向きに材料が流動し,ボスが成形される。

(図1 携帯機器筐体のボス形状)
(図2 後方押出し加工用の金型)

2.2 鍛造シミュレーション解析
 素材の板厚,パンチ金型のコーナRおよび据え込み量の影響による後方押出し加工の成形特性を調べるため,鍛造シミュレーションによる解析を実施した。解析は2次元剛塑性FEM鍛造シミュレータ(Virtual Forging:コマツ産機(株))を用いた。
 解析モデルは,(図3)のように素材の板厚が1.5,3.5,5.5mmの3水準とパンチのコーナRが0.5,1.0,2.0mmの3水準を組み合わせた軸対称モデルを要素分割した。解析条件として,素材の変形抵抗を117.6MPa,素材と金型との摩擦係数を0.1とし,工具速度30mm/sをパンチ境界部に与え,0.5mmの据え込み量までの成形挙動を求めた。解析の結果,板厚が厚い場合は,背面にヒケを発生することなく,据え込み量にほぼ比例した高さのボスが成形された。また,パンチのコーナRの値が小さいほど同じ据え込み量でもボスの高さは高くなった。しかし,コーナRが小さく板厚が薄いと,据え込み量の増加に伴い,ボスの中心軸まわりにヒケが発生した。

(図3 FEM解析モデル)

2.3 成形実験
 解析と同一形状の金型およびMg合金板材(AZ31)の試験片を実際に作製し,成形実験を行った。加圧には,(図4)に示す石川メイド生産機械であるCNC油圧プレス(HAF100:コマツ産機(株))を用いた。実験は,Mg合金が結晶構造上常温での成形が困難なため,まず試験片に潤滑剤を塗布し,それをダイにセットした状態で電気炉で350℃まで加熱した後,加圧速度30mm/sで加圧し,下死点で5秒間保持して行った。
 (図5)にボス出し成形した試験片の外観を示す。実験結果では,パンチのコーナRの影響はあまりみられなかったが,ボス高さは据え込み量にほぼ比例して高く成形できた。また,厚さ5.5mmの素材は背面にヒケを発生することなくボス出し成形ができたが,板厚が1.5mmの薄い素材は,いずれのコーナRのパンチを用いても,(図6)に示すような背面ヒケが生じる結果となった。この原因は,Mg合金の変形抵抗が加工により低下し,材料流動しやすくなったことが考えられる。そこで,板厚が薄い素材の背面ヒケの発生を防止するため,パンチの円筒内にピンを挿入し,ボス上面に背圧荷重を与える検討を行った。(図7)は背圧荷重を与えたときのボス断面であり,背圧荷重なしの場合に比べて背面ヒケが軽減された。

(図4 実験手順)
(図5 成形した試験片の外観)
(図6 背面ヒケ)
(図7 ボス断面形状)

3.結 果
 携帯機器筐体の利用を目的として,後方押出し鍛造加工によるMg合金板材のボス出し成形法について検討し,解析や実験により素材の板厚,据え込み量,金型形状によるボス出し成形特性を評価した。さらに,板厚の薄い素材に生じるボス背面のヒケ対策のため,背圧負荷を与える工法改善を試み,その効果を確認した。今後は,金型温度などの成形条件についても評価し,より効果的にヒケ解消できる成形法を求めていきたいと考えている。



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