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 無鉛和絵具の実用化研究
  九谷焼技術センター ○木村 裕之

1.目 的
陶磁器用上絵具は, フリットと呼ばれるガラスの粉体に金属酸化物等の着色材を混ぜて作られている。従来の上絵具には, フリットの成分として酸化鉛が使用されていた。しかし消費者に対する安全性や環境への配慮のため食品衛生法における「飲食器からの鉛溶出規格基準」の改正が見込まれている。このため, 平成8年度から無鉛和絵具の開発を行い, 実験室規模で九谷焼に適した無鉛和絵具を開発することができた。
これまでに開発を行った無鉛和絵具を製品化していくためには, 量産化技術の確立が必要である。ここでは, 量産化へ向けた実用化研究を行った結果について報告する。

2.内 容
2.1 無鉛フリットの量産
実験室規模での無鉛フリットの試作には原料として特級試薬を使用し, 調合量は1kg程度であった。量産化に向けて, ガラスメーカーにおける無鉛フリットの製造量のスケールアップ及び工業原料への切り替えが必要である。このため製造工程や原料を変更したことによる無鉛フリットの化学組成, 溶融状態について検討を行った。
2.2 無鉛和絵具の湿式調整
実験室規模での無鉛フリットの粉砕は, 全て乾式で行ってきた。しかし, 九谷焼の業界では一般的に湿式でフリットの粉砕, フリットと着色剤の混合を行っている。無鉛和絵具を従来の製造ラインで量産するには, 湿式粉砕を行った場合の無鉛フリットの粒度変化及び特性変化を検討する必要がある。
(1) 無鉛フリットの湿式粉砕
 試料調整は, 容量400mlのアルミナポットに, 無鉛フリット100gと蒸留水100mlを加えてアルミナ玉石大(径20mm)350g, 小(径15mm)250gを使用し粉砕を行った。粉砕時間は5, 10, 15, 20時間の4段階とした。各粉砕時間の試料について, フリットの粒度変化, フリットの化学組成の変化, 絵付けを行う際の運筆性(描き易さ)の粉砕粒度による違いを検討した。

(図1 粉砕時間と粒度の関係)

(2) 無鉛和絵具の調整
容量400mlのアルミナポットに, 無鉛フリット100g, 各色の着色材, 蒸留水100mlを加えてアルミナ玉石で粉砕・混合して無鉛和絵具を調整した。粉砕時間は15時間とした。調整した無鉛和絵具を水とふのりを使用し絵付けを行った。270分間で850℃まで昇温し, 10分間保持の条件で焼成した。
焼成したサンプルについて, 耐酸性の検討を行った。サンプルに4%酢酸溶液50mlを満たし, 22±2℃の室内で24時間放置後, 溶液を全て回収し,酢酸溶液中に溶出したNaとKの濃度を炎光分析装置で測定した。
2.3 無鉛和絵具の試作
従来業界で行っている上絵具の生産ラインで無鉛和絵具を調整し, 無鉛和絵具で上絵付けした製品の試作を行った。

3.結 果
3.1 無鉛フリットの量産
 ガラスメーカーの試験炉(電気炉)で, 10kg規模のフリット製造を行った。当センターで試作した無鉛フリットと組成を比較したところAl2O3とK2Oで大きく差がみられた。この差は, 使用している長石の違いと考えられる。このことからガラスメーカーで使用している長石の化学組成の定量測定と調合組成の再検討を行い, 当センターの試作フリットと同組成にすることができた。使用原料の化学組成を管理することで, 安定した無鉛フリットを量産することが可能となった。
3.2 無鉛和絵具の特性試験
(1) 無鉛フリットの湿式粉砕 図1に無鉛フリットの粉砕時間と20μmふるいの残渣量の関係を示す。5時間(残渣量58%)から10時間(残渣量27%)の間で残渣量が約半分になり, 10時間から15時間(残渣量8%)の間で約4分の1になっている。
各粉砕時間で回収した無鉛フリットの化学組成を測定したが, 未粉砕の無鉛フリット組成と20時間湿式粉砕を行ったフリット組成を比較しても大きな組成変動はみられなかった。 粉砕時間(粒度)と運筆性の関係については,5時間粉砕を行った無鉛フリット(残渣量58%)の絵付けを行ったところ, 粗い粒子が多く存在しており, 水とフリット粒子が分離してしまい絵付けは困難であった。10時間粉砕物(残渣量28%)でも, 5時間粉砕物ほどではないが水とフリット粒子の分離がみられ, 絵付けが困難であった。15時間粉砕物(残渣量8%)では, 水とフリット粒子の分離はなくなり運筆性は良好であった。また20時間粉砕物でも運筆性は良好であった。

(図1 粉砕時間と粒度の関係)

(2) 無鉛和絵具の調整
湿式調整(粉砕時間15時間)を行った無鉛和絵具の20μmふるい残渣量は4.0?6.0%であった。各色ともに運筆性は良好であった。各色の耐酸試験によるNaとK 溶出量の合計は, 何れの色についても0.20 mg/l以下であった。目視では表面状態の変化はみられなかった。
無鉛和絵具の湿式調整によるフリットの化学組成の変動はみられず, 湿式粉砕・混合による絵具調整が可能であることがわかった。
また運筆性の検討から, 残渣量8%以下となる粒度が上絵具として適していることが明らかになった。
3.3 無鉛和絵具の試作
試作した無鉛和絵具を使用し、九谷上絵協同組合が製作した無鉛和絵具作品を第11回九谷焼産地大見本市へ出品した。

(図2 見本市へ出品した無鉛和絵具製品)


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