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全文 （PDFファイル：57KB、2ページ） |
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機能性陶板の研究開発
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| ■ 九谷焼技術センター ○高橋 宏 |
１．目 的
石川県の伝統産業である九谷焼は上絵加飾に特徴があり，食器や花器，置物の他に陶板も生産されている。陶板は公共施設のホールなど主に屋内の装飾に用いられている。九谷焼陶板の屋外での使用状況を見てみると，九谷焼の特徴である華麗な五彩を施したものは少なく，ほとんどが釉下に絵付けをした染付けの陶板が用いられている。その理由としては，上絵具が屋外環境下で長時間曝されると，絵具の成分が溶脱し九谷焼の美観が損なわれてしまうためである。上絵の屋外環境下での劣化が防止できれば，九谷焼陶板の屋外への応用が可能となり，新しい製品の開発が期待できる。そこで本研究では屋外での上絵の劣化防止を目的として，陶板表面への酸化チタン皮膜形成技術の検討を行った。
２．内 容
はじめに，酸化チタン皮膜を形成するコーティング液の選定から開始した。結果，過酸化チタンタイプのコーティング液から形成した皮膜が，密着性が良好であることや上絵具と反応しないことから有効であることが判明した。一方で，過酸化チタンタイプのコーティング液を用いた場合，皮膜形成時に陶板表面で液がはじきやすく形成した皮膜が不均一になることや，形成した皮膜にグレー系の着色が発生するなどの問題があることも明らかになった。皮膜の均一性向上と皮膜着色軽減の対策を検討した結果，皮膜の均一性向上には皮膜形成前の界面活性剤処理が有効であった。皮膜の着色軽減には，酸化ケイ素の添加が有効であることがわかった。今回は，酸化ケイ素の添加量による皮膜着色軽減の効果と，酸化ケイ素を添加して形成した皮膜の上絵保護の効果について検討した結果を報告する。
2.1 酸化ケイ素添加による皮膜着色軽減の検討
酸化チタンコーティング液に加える酸化ケイ素は，粒径10〜20nmの粒子を溶媒に分散させたコロイド溶液(以後シリカゾルと表記する。)である。このシリカゾルを下記の(1)〜(3)のモル比となるように酸化チタンコーティング溶液に添加した。
(1)SiO2:TiO2=1:4
(2)SiO2:TiO2=1:2
(3)SiO2:TiO2=1:1
24時間以上放置して沈殿発生などの変化がないことを確認した後，皮膜形成を行った。皮膜形成はディップ法で行い，毎分100mmと毎分10mmの速度で引き上げた。焼成は最高温度400℃で2時間保持して行った。皮膜形成前後の試験片表面を測色計で測定し，色差(ΔE*ab)からシリカゾル添加の着色軽減効果について評価した。
2.2 シリカゾルを添加した酸化チタン皮膜の耐酸性の評価
2.1の項で形成した皮膜の上絵保護の効果を評価するため，酸による上絵具に含まれる鉛成分の溶出量を測定した。面積5cm2の上絵具を施した試験片を準備し，2.1項(1)〜(3)の条件で皮膜形成したものと，皮膜を形成しないものをそれぞれ，4%酢酸溶液に24時間22±2℃の環境下で浸漬し浸漬液の鉛成分を原子吸光分光分析装置で分析した。溶出した鉛成分の比較と浸漬後の試験片の表面観察により皮膜の上絵保護効果について検討した。
３．結 果
3.1 シリカゾル添加による皮膜着色軽減の効果
皮膜形成前後の試験片表面の測色の結果を図1に示した。シリカのモル比の増加に伴い，皮膜の着色は軽減される傾向であることが判明した。シリカを全く加えない番号1の試験片と比較して，シリカを加えた番号2〜4の試験片では，皮膜形成前後の色差が大幅に減少した。引き上げ速度毎分10mmで皮膜形成した場合，皮膜の厚みが薄くなるため色差は小さくなる傾向であるが，この場合でもシリカ添加により色差は減少した。以上より，シリカの添加量の増加に伴い，
酸化チタン皮膜の着色が軽減されることが判明した。また，最適添加量はモル％で30〜50％の範囲であるといえる。
（図１ 皮膜形成前後の色差）
3.2 シリカゾルを添加した酸化チタン皮膜の耐酸性の結果
皮膜を形成することによって上絵具からの鉛溶出量が抑制されることがわかった。シリカを加えない酸化チタンのみの皮膜では，鉛の溶出量が有鉛絵具の場合では半減し，耐酸絵具の場合では4分の1以下にまで低減した。シリカを加えた皮膜では，シリカの添加量の増加に伴い鉛溶出量は減少するという結果が得られた。シリカ添加が50モル％で，有鉛絵具で約4分の1，耐酸絵具で約10分の1にまで鉛の溶出を抑制することが可能であることがわかった。図2に耐酸試験の結果を示した。耐酸試験後の絵具表面を観察すると，酸で侵された貫入(ひび)に沿った線がシリカの添加量増加に伴い細くなっていることから，シリカの微粒子が絵具の貫入によって生じた隙間を塞ぐ働きをしたため，鉛の溶出が低減されたと考えている。以上から，シリカを添加した酸化チタン皮膜により，九谷焼の上絵具を保護することが可能であることを見出した。
（図２ 耐酸試験結果 耐酸絵具）
