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 電磁波遮蔽用新素材の開発
  化学食品部 ○北川賀津一 豊田丈紫
  製品科学部  吉村慶之
  県産業政策課 山名一男

1.目 的
情報通信技術の複雑化とともに,誤動作や通信手段の電磁環境悪化が懸念されている。この問題に対応するために,文部科学省地域先導研究プロジェクトが平成11年度に発足した。このプロジェクトには石川県の織物技術を活かして,炭素繊維織物を製作し,電磁波遮蔽(シールド)材を開発するというテーマである。炭素繊維は構造材料として使用する試みは多いが,電気的機能材料としての試みは少ない。工業試験場では平成11年度の技術ふれあい研究発表会で,炭素繊維織物が電磁波遮蔽材として優れた特性を示すことを報告した。今回,電磁波関連産業の創出をも考慮して,新たに炭素繊維織物と薄膜電磁波シールドフィルム大型試料の電磁波遮蔽特性評価を行った結果,および上記素材を活用して施工された電磁波シールドオフィスモデルルームについて報告する。

2.内 容
2.1 電磁波遮蔽材料の概要
 電磁波遮蔽は透過する電磁波を小さくすることであるので,電磁波を反射させるか,吸収して熱に変換することである。反射材料としては元来金属の板が用いられてきた。筐体の軽量化と換気・内部の監視の点からは金網が検討されている。また最近は,導電性プラスチックや導電性ゴムなどが遮蔽材料に用いられている。その他としてはプラスチックの表面処理を施したものや,導電性塗料なども使用されている。
2.2実用レベルでのシールド性能評価
 本研究ではポリアクリロニトリル系炭素繊維織物と薄膜フィルムを作製した。両者は実験室レベルの測定装置を用いると優れた電磁波シールド性能を示した。上記シールド性能測定は寸法の小さい試料で測定したものである。実用化を考慮すると,大型試料で測定する必要が生じた。そこで,90cm×90cmの試料で挿入損失法によりシールド性能を測定した。この方法は送信アンテナを一定の信号源で発信しつつ,送受アンテナ間にシールド壁が存在するときとしないときの受信電圧の比から,減衰量(シールド効果,挿入損失と呼ぶ)を求める方法である。この方法によると炭素繊維織物では,偏波は40dB以上のシールド性能を有することが観測され,周波数によっては60dB以上となった。薄膜フィルムでは水平・垂直偏波ともに60dB以上,平均すると70dB程度のシールド性能を有し,オフィスルームに炭素繊維織物または薄膜フィルムを使用する場合は,シールド材料同士をつなぐ必要がある。つなぎ部分を形成した試料についてシールド性能を測定した。その結果,試料が大型化した場合には,下地材との固定を十分に行わないとシールド性能が低下することが判った。
2.3 電磁波シールドオフィスモデルルームの施工
 デジタル機器の利用増加に伴い,オフィスルーム内で発生する電磁波障害や無線通信システムの情報漏洩といった電磁環境に対する懸念が大きな問題となっている。電磁波対策の一つとして,建物全体を電磁波シールドするという発想がある。地域先導研究事業の一環として電磁波シールドオフィスモデルルームを設置した。本工事の設計・施工は清水建設株式会社北陸支店が担当した。シールド工事に用いる資材で,天井シールド材料(薄膜電磁波シールドフィルム 42m2)については地元企業の小松精練株式会社が,壁シールド材料(炭素繊維製電磁波遮蔽シート 68m2)については株式会社一ノ宮織物が,そしてシールド扉(両開き窓枠あり,片開き窓枠無し 2枚)については株式会社富士精工本社が担当した。平成13年9月1日から10月16日の期間石川県工業試験場5階事務室の改装工事を行った。シールド扉と窓を設置した後に,天井,壁,床と窓のシールド工事を行い上記工事が完成した時点で,シールド性能の中間性能試験を行い問題のないことを確認した。そして,仕上げ工事に入り天井,壁,床,扉の内装仕上げを行った。さらに,電気設備と空調設備を取り付け完成した後に,最終シールド性能試験を行った結果,このオフィスルームは違法無線等の外来電磁波による障害を回避するために到達波の約97%を反射する電磁環境(30dB=デシベル)を確保できた。

(図1 電磁波シールドオフィスモデルルーム(左写真:工事中,右写真:完成後外景))

3.結 果
 以上より以下の結果が得られた。
(1) ポリアクリルニトリル系の炭素繊維を用いた織物と銀ペースト薄膜フィルムは優れた電磁波シールド性能を示した。
(2) 上記,2つの素材を電磁波シールドオフィスモデルルームのシールド壁材とシールド天井材に用いた結果,30dBのシールド性能を確保できた。

 本研究は,文部科学省地域先導研究事業のもと金沢大学,活黹m宮織物,小松精練梶C清水建設梶C兜x士精工本社,三谷産業梶C金沢工業大学,(財)科学技術振興会と共同で行った。


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