全文(PDFファイル:102KB、4ページ)


 微生物を活用した油処理技術の開発
  化学食品部 ○井上智実 中村静夫
  (株)ゲイト  坪内直樹

1.目 的
近年,工場や飲食店から排出される油分が,土壌や水質を汚染し社会的な問題となっている。また,一部の工場やガソリンスタンドから漏洩した油が地下へ浸透し,その土地が再利用できないといった問題が発生している。さらに,タンカーの座礁事故のように,一度に大量の油が自然界へ放出されると,その処理が困難となる。このような中,環境に優しい油処理技術が求められており,生物的,化学的,物理的な見知から数多くの検討がなされている。
本研究では,処理容量が350L,160Lのバイオリアクターを試作し,微生物を用いた油処理技術を開発することを目的とした。

2.内 容
2.1 市販油の分解実験
2.1.1 分解対象油と微生物製剤
 本実験の分解対象油は,植物油としてオリーブオイル(BOSCO 100% Pure Olive Oil),動物油としてラード,鉱物油としてエンジンオイル(MOBILE OIL)を使用した。なお,微生物製剤は市販品を使用した。
2.1.2 リアクターの仕様
油分解実験は,ヒーター,散気管を備えた処理容量350Lのバイオリアクターを用いた。(図1)リアクターサイズは1300 mm (幅)×500 mm (奥行き)×1200mm (高さ)であり,処理槽は3槽に仕切り,浮上油は浮上油返送ユニットにより循環した。

(図1 バイオリアクター(350L))

2.1.3 リアクター内での油分解経路
 リアクターの構造を図2に示した。油分は油投入口より投入され、第一槽でエアブロウにより懸濁・エマルジョン化される。懸濁された油分およびエマルジョン化された油分は、第二槽に送られ微生物により分解作用を受ける。分解された油分は汚泥に変換され、エマルジョン化されていない油分はさらにエアブロウによりエマルジョン化される。第三槽には、汚泥、懸濁油分およびエマルジョン化された油分が送られ、未分解油分は浮上油として浮上油返送ユニットにより第一槽に送り戻される。返送された油分は、再度第二槽へと送られ微生物により分解される。

(図2 リアクターの構造)

2.1.4 実験方法
 本実験は,バイオリアクターに水道水350L,微生物製剤100g,栄養塩70g,油350g(1000ppm)を加え,電気ヒーターで27℃に設定し、ポンプでエアレーション(40L/min)しながら油処理を行った。対照実験は,同一タイプのリアクターに同量の水道水,油を加えて運転した。サンプリングは,微生物製剤投入時,投入後4時間,8時間,24時間,48時間,72時間,144時間後にリアクターの下部に設けた採水口より500mL採水した。
リアクター中に含まれる油分重量は,採水した水100mLをn-ヘキサンで抽出し,JIS K 0102に準じて定量を行った。なお,油分解率は次式により算出した。
油分解率(%)=(A−B) /A×100
A:対照実験水中に含まれるn-ヘキサン抽出重量(g)
B:微生物処理水中に含まれるn-ヘキサン抽出重量(g)
2.1.5 オリーブオイルの分解実験
オリーブオイルの分解実験におけるリアクター中に含まれる油分濃度の推移を図3に示す。
対照実験では,リアクター中に含まれる油分濃度が48時間後に684ppmに達した後,ほとんど変化することなく144時間後までほぼ同濃度で推移した。一方,微生物処理槽においては,24時間後までは対照槽に含まれる油分濃度の約1/2で推移し,285ppmを示した後,減少に転じ72時間後には31ppmを示した。
微生物処理槽が24時間後まで対照槽の1/2の油分濃度で推移したのは,リアクター内で油分の分散とともに微生物が増殖し油を分解したためと思われる。さらに,24時間以後は微生物の油分解速度が油分散速度を上回ったため,飽和状態に達する前に油分が分解されたものと予測された。なお,72時間後の油分解率は92%であった。

(図3 リアクター中に含まれる油分濃度)

2.1.6 ラードの分解実験
 ラードの分解実験におけるリアクター中に含まれる油分濃度の推移を図4に示す。
対照実験では,リアクター中に含まれる油分濃度が48時間後に48ppmに達した後,ほとんど変化することなく144時間後まで推移した。リアクター中に含まれる油分濃度が低いのは,ラードが水中で固体であるため,油分が水中に分散されなかったためと思われる。一方,微生物を投入した槽においては,対照槽に含まれる油分濃度の2倍以上で推移した。これはラードが微生物により低分子に分解された成分が水中に溶解したため,微生物処理槽の油分濃度が増大したものと予測された。

(図4 リアクター中に含まれる油分濃度)

2.1.7 エンジンオイルの分解実験
エンジンオイルの分解実験におけるリアクター中に含まれる油分濃度の推移を図5に示す。
対照実験では,リアクター中に含まれる油分濃度が24時間後に684ppmに達した後,微増しながら144時間後には847ppmに達した。一方,微生物を投入した槽においては,24時間後まで対照槽に含まれる油分濃度の約1/2で推移し,316ppmを示した後,減少し72時間後に20ppmを示した。
微生物処理槽の油分量が24時間後まで対照槽の1/2で推移したのは,オリーブオイルの分解実験と同様にリアクター内での油分の分散とともに微生物が増殖し油を分解したためと思われる。さらに,24時間以後は微生物の油分解速度が油分散速度を上回ったため,飽和状態に達する前に油分が分解されたものと予測された。なお,72時間後の油分解率は97%であった。

(図5 リアクター中に含まれる油分濃度)

2.2 現場排出油の分解実験
2.2.1 分解対象油と微生物製剤
 本実験の分解対象油は,石川県金沢市内のめっき工場の脱脂工程より排出された浮上油を用いた。なお,微生物製剤は市販品を使用した。
2.2.2 リアクターの仕様
油分解実験は,可搬式の処理容量160Lのバイオリアクターを用いた。リアクターのサイズは880 mm (幅)×440mm (奥行き)×740 mm(高さ)であり,処理槽の構造は350Lと同様な3槽構造をとっている。(図6)
さらに、本リアクターでは、各槽の仕切り板の位置を可変する構造を取り、各槽の処理容量を変化させることにより、最適な処理容量に調整することを可能としている。さらに、第一槽と第二槽に2枚ずつ仕切り版を設け、エアブロウによる撹拌効率を高める構造をとっている。

(図6 バイオリアクター(160L))

2.2.3 実験方法
 本実験は,バイオリアクターに水道水160L,微生物製剤120g,栄養塩100g,浮上油500mLを加え,ポンプでエアレーション(40L/min)し室温で油処理を行った。対
照実験は,同一タイプのバイオリアクターに同量の水道水,脱脂液の浮上油を加えて運転した。サンプリングは,微生物をリアクター内で3日間培養した後,浮上油を投入し,浮上油投入時,投入後4時間,8時間,24時間,48時間,72時間,144時間後にリアクターの下部に設けた採水口より500mL採水した。
なお,リアクター中に含まれる油分重量の定量および油分解率は2.1.4に示した方法で算出した。   
2.2.4 現場排出油の分解実験
 浮上油の分解実験におけるリアクター中に含まれる油分濃度の推移を図7に示す。
微生物を投入した槽では,24時間後に油分濃度が478ppmを示した後,徐々に減少し144時間後には168ppmを示した。一方,微生物を添加していない槽では,油分濃度が24時間後に349ppmを示した後,ほとんど変化することなく144時間後に377ppmを示した。微生物を添加した結果,油分濃度は最高値のほぼ3分の1に減少し,浮上油が分解されたことが認められた。

(図7 リアクター中に含まれる油分濃度)

3.結 果
オリーブオイルおよびエンジンオイルの分解率は,72時間後にそれぞれ92%,97%に達し,微生物処理が可能であった。一方,ラードは水中で固形状であったため,油分が水中に分散されず、微生物分解が進まなかった。めっき工場から排出された浮上油は,微生物を用いて分解することが可能であった。これらの結果より,水中で分散される油分は,バイオリアクター中で微生物処理することが有効であることが認められた。


* トップページ
* 技術ふれあい2003もくじ

概要のページに戻る