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 有機廃棄物の高温高圧水による分解技術
  繊 維 部 ○笠森正人 山本 孝
  化学食品部  井上智実 中村靜夫 宮本正規

1.目 的
環境問題に対する取り組みが重要となって来ており,石川県においても地域における環境保全に取り組むために農業総合研究センター,保健環境センター及び工業試験場が連携して,地域完結型の環境浄化システムの研究を平成11年から13年にかけて行った。
農業総合研究センターでは河北潟東部承水路の隣に流路型水質浄化施設を設置し,承水路から取水した河川水を通して農業排水浄化について検討した。保健環境センターでは河川水に溶け込んだ環境ホルモンなどの微量有機物除去を検討した。当場では,機械工場や染色工場からの有機系廃液,さらに農業総合研究センターが設置した流水型水質浄化施設に発生する余剰汚泥を,高温高圧水を用いて分解した結果について報告する。
2.内 容
2.1 機械加工冷却液の分解

(表1 水溶性切削剤の組成)

成分 エマルジョン形 ソリューブル形 ソリューション形
オレイン酸 10%
リシノール酸 18%
オクタン酸 4%
ドデカン2酸 15%
トリエタノールアミン 5% 36% 40%
Naスルフォネート 5% 4%
POEアルキルエーテル 2% 9%
50%塩素化パラフィン 5% 4%
鉱油 73%
水 25% 45%

金属を加工する際に使用される切削油剤には,不水溶性切削剤と水溶性切削剤があるが,前者は燃料としての再利用の可能性もある。後者は有機物濃度が高いと焼却炉に噴霧して焼却処理される場合があるが,水分濃度が高いと凝集処理,生物処理及び膜処理が行われ,除去された成分は大部分が埋め立てや焼却処理されている。ここでは,水分の多い水溶性切削剤としてエマルジョン形,ソリューブル形及びソリューション形の3種類について検討した。それぞれの組成を表1に示す。各試料は成分が約2%になるように水で希釈し,成分中の炭素分をすべて二酸化炭素とできる過酸化水素水(H2O2)の量を,H2O2比1とした。

(図1 水溶性切削液のH2O2比による分解率の変化)

試験はステンレス製円筒型反応管に,試料と酸化剤として過酸化水素水を所定量仕込み,アルゴンガスで空気を置換した。次に,予め所定温度に加熱した溶融塩恒温槽に反応管を10分間浸せき後,反応管を取出して水で急冷した。
高温高圧水処理として温度400℃,圧力25MPaと一定にした場合の水溶性切削液のTOCから求めた分解率とH2O2比との関係を図1に示す。ソリューション形,ソリューブル形ともH2O2比1.4以上で分解率が95%以上になった。エマルジョン形はH2O2比の上昇とともに分解率は向上しているものの,分解率はH2O2比1.8でも90%程度に留まっている。しかし,エマルジョン形、ソリューブル形ともに塩素化パラフィンに含まれる塩素とNaスルフォネ−トに含まれる硫酸基はほぼ全量が塩素イオンや硫酸イオンとして測定されことより,この処理で塩素や硫酸基が外れることを示している。トリエタノールアミンに含まれる窒素は亜硝酸イオンとしてはほとんど測定されず,硝酸イオンとしても極僅かしか測定されなかったことより,窒素となって気散したものと考えられる。この温度領域では,エマルジョン形の分解率が低いのは,他の水溶性切削液に含まれていない鉱油の分解が困難なためと推測される。

(図2 水溶性切削液の処理温度による分解率の変化)

圧力25MPa,H2O2比1.2とした場合の分解率と処理温度との関係を図2に示す。なお,処理温度350℃における圧力は水の飽和圧力の16.5MPaであり,550℃と600℃での処理は所定温度にした電気炉に30分間入れて行った。処理温度が350℃から450℃へと上昇すると,各水溶性切削液とも分解率が70,80%から95%以上に向上し,分解液からは塩素や硫酸基がほぼ全量イオンとして測定され,硝酸イオンは極僅かしか測定されなかった。

(表2  分散染料と分散剤)

分散染料 アゾ系 Yellow Brown S-2RL
Rubine SE-GL extra conc.
Blue SE-2RF(A)
非アゾ系 Yellow SE-3GL(A)
Red E-FBL
Blue S-BG 200%
分散剤 タモール系アニオン活性剤
リグニンスルホン酸系アニオン活性剤

2.2 染色液の分解
現在,染色排液は活性汚泥法により処理されているが,この処理法では広い処理施設を要し,発生する余剰汚泥の処理も必要となっている。そこで,表2に示すポリエステル用分散染料を用いて,染料を予め0.1%に希釈し,高温高圧水による分解を行った。
実験は機械加工冷却液と同様に行った。最初に6種類の染料に過酸化水素水を添加しないH2O2比0について,温度を300℃(8.6MPa)〜400℃(40MPa)に変えて実験を行ったところ,いずれの染料も温度の上昇とともに色が薄くなる傾向がみられた。
次に,非アゾ系であるRed E-FBLについて詳細に検討した。 UV-可視分光光測定の結果を図3示すが,可視光域での吸収が温度の上昇につれて小さくなっているとともに吸収波長ピークの位置も変化している。また,紫外領域にある共役系の吸収波長ピークが温度の上昇により減少していることから,高温高圧水処理で染料が分解していることが推測できる。この紫外領域での吸収ピークの減少は,いずれの染料でも測定された。
図4に処理温度250℃におけるRed E-FBLのH2O2比によるUV-可視分光測定の結果を示す。可視光域では,H2O2比1以上で完全に無色となっている。紫外領域においてもH2O2比の上昇とともに吸収ピークは減少し,H2O2比1以上で吸収ピークが見られないことから,250℃では酸化剤を入れることにより染料を分解できることが分かる。処理温度400℃においては,H2O2比0.5以上で吸収ピークはほとんど無くなり,温度が高いと少ない酸化剤でも分解できることが分かった。
また、この染料の化学式からフタル酸の生成が考えられるため,フタル酸についても検討した。フタル酸は処理温度250℃で生じ,300℃で最大を示した後,350及び400℃では減少したことから,この染料は300℃でフタル酸までに分解が進行し,それ以上の温度ではフタル酸自体も分解されると考えられる。250及び400℃におけるH2O2比によるフタル酸の変化を図5に示すが,250℃ではH2O2比0.25において生成量は最大を示し,H2O2比0.5以上ではフタル酸は減る傾向を示している。一方,400℃ではH2O2比0.25以上でフタル酸の検出量は僅かになっている。よって,この染料は250℃では少しの酸化剤でフタル酸までの分解が促進されるが,酸化剤が増えるとフタル酸自体も分解されるものの,完全には分解されないと考えられる。しかし,温度が400℃になると酸化剤の添加によりフタル酸までも分解されていることが分かる。
さらに,2種類の分散剤についても高温高圧処理を行い,酸化剤の添加によって紫外領域の吸収が小さくなることを確認した。また,実際の染色排液を想定して,染料6種類を同量混合した混合染料と分散剤2種類を2:1:1に混ぜた液についても同様に処理を行い,酸化剤添加による無色化と紫外領域の吸収ピークの減少を確認した。

(図3 Red E-FBLの処理温度によるUV-可視分光スペクトル変化)

(図4 Red E-FBLのH2O2比によるUV-可視分光スペクトル変化)

(図5 フタル酸のH2O2比による変化)

2.3 余剰汚泥の分解
農業総合研究センターが設置した農業廃水の浄化プラントで採取した余剰汚泥と,浄化プラントへ取水した河川水及び浄化プラント後の処理水を採取した。余剰汚泥はろ過後,保健環境センターにて凍結乾燥器に接続したデシケータ内にて乾燥した試料から0.5gを採取して,前と同様な高温高圧水処理を30分間行った。河川水についても同様な高温高圧水処理を合せて行い,保健環境センターにてダイオキシンの分析を行った。
余剰汚泥の分解の前に,浄化プラント前後の河川水と処理水におけるダイオキシンは,測定年度と時期は異なるが,河川水では2.0または0.64pg-TEQ/lであった。処理水の濃度は0.46〜0.48pg-TEQ/lとほぼ一定の値となり,浄化プラントを通ることによりダイオキシンが減少することが判明した。しかし,浄化プラント内の充填材に付着した活性汚泥を含めて採取したものの濃度は河川水の濃度よりも高めに検出されたことより,活性汚泥や泥にダイオキシンが蓄積しているものと考えられる。
次に,河川水を処理温度400℃,H2O2比0,0.6及び1.1で高温高圧水処理を行ったところ,ダイオキシンはいずれも検出されなくなり,この程度の濃度ならば酸化剤がなくても分解できる可能性があることが分かった。 余剰汚泥を処理温度350,400及び450℃,H2O2比0と1にて分解を行った。TOCによる分解率の結果を図6に示すが,酸化剤を添加すると分解率は高くなるが,350℃と400℃では分解率の差は小さい。しかし,450℃になると酸化剤がなくても分解率は向上している。ダイオキシンについては処理温度の上昇により濃度は急激に減少し,350℃から450℃において分解率は約95%と高いものであったが,酸化剤添加による効果はみられなかった。なお,余剰汚泥中のダイオキシン濃度は0.037ng-TEQ/gであった。以上のことから,余剰汚泥は温度が高いほど分解され易く,酸化剤の添加により分解が促進される。しかし,余剰汚泥中のダイオキシンは温度の上昇により余剰汚泥以上に分解され易いが,この程度の濃度では酸化剤の添加の効果は認められないことが分かった。

(図6 余剰汚泥の処理温度による分解率の変化)

3.結 果
工場からの廃液である水溶性切削液,染料液及び農業排水の浄化プラントから生じる余剰汚泥を高温高圧水処理した結果,以下のことが明らかになった。
(1) 水溶性切削液は高温高圧水処理の温度が高く,酸化剤量が多いほど分解率は高くなる。
(2) 染色液は酸化剤がなくても,高温高圧水処理の温度が上昇すると色が消える傾向を示し,分解も進む。酸化剤の添加によって,より低温から分解が生じる。
(3) 余剰汚泥は高温高圧水処理の温度が高いほど,また酸化剤の添加により分解は促進される。余剰汚泥または河川水に含まれるダイオキシンも高温高圧水処理により分解されるが,この程度のダイオキシン濃度では酸化剤の影響はみられなかった。


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