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 医療用チタニウム合金の切削加工技術開発
  機械電子部 ○廣崎憲一 舟田義則 坂谷勝明

1.目 的
チタン合金は,金属の中でも比強度が大きく,耐熱性・耐腐食性に優れていることから,宇宙航空関係や化学プラントの材料として多用されている。また,チタン合金は生体適合性にも優れており,人体に埋め込まれる医療用インプラント材料としても応用されている。2002年には外科インプラント用チタン材料として6種類のチタン材料がJIS規格に定められた。しかし,チタン合金は切削加工の立場からみると,一般的には難削材と言われ,切削温度が著しく高く,加工能率が極めて低い材料である。
そこで,医療用チタン合金の高能率加工を目的に,切削工具として耐熱性に優れた新素材工具であるバインダレスcBN工具を適用し,その加工性能について検討を行った。
2.内 容
2.1 チタン合金の加工特性
 チタン合金は熱伝導率が小さく,比切削抵抗が大きい,さらには化学的活性が高いこと等から,工具刃先の切削温度が非常に高く,鋼系材料の切削加工に比べると200℃程度切削温度が高くなる。そのため,切削温度上昇を抑えるためには,切削速度を下げざるを得ないのが現状である。図1に各種金属の標準切削速度を示す。アルミニウム合金や炭素鋼材料に比べて,チタン合金の切削速度は極度に低く,その値は60m/min程度とされる。

(図1標準切削速度の比較)

2.2 バインダレスcBN工具
一般的に切削工具に用いられるcBN焼結体はcBN(立方晶窒化ホウ素)粒子と10〜50体積%の結合剤(バインダ)を混合し高温高圧下で焼結させて作製される。一方,バインダレスcBN工具は新製造技術により,さらなる高温高圧下でhBN(六方晶窒化ホウ素)粒子を直接焼結することによりcBN粒子を合成して作製され,その含有率は99.9%以上となる。したがって,バインダ成分が工具内に存在しないため,cBN粒子本来の特性がそのまま得られ,耐熱温度は1350℃であり,ビッカース硬度は5000Hvの高い値を示す。

2.3 工具寿命評価実験
2.3.1 チタン合金の高速切削加工における工具材種の適性
バインダレスcBN工具と市販品工具(超硬合金,cBN,焼結ダイヤモンド)を用いてチタン合金の旋削加工における工具寿命評価実験を行った。切削速度は超硬合金工具の推奨の4倍程度の250m/minとした。送り速度0.15mm/rev,切り込み量0.5mmとし,クーラントは冷却性を高めるために水溶性切削液(エマルジョン型:30倍希釈液)を用い,工具すくい面側から30MPaの高圧供給を行った。工具はスローアウェイのネガタイプを用い,ノーズ半径は0.8mm,刃先は約10μmのホーニング加工を施した。被削材は,工業用および外科インプラント用に幅広く利用されているTi-6Al-4V合金(α-β合金)とした。
図2に,工具材種の違いによる工具寿命の比較と工具刃先の様子を示す。工具寿命は工具逃げ面摩耗幅VBが0.2mmに到達した時の切削距離とした。ただし,バインダレスcBN工具に関してはVB値が0.1mmに到達した時点で加工を中止した。図より,現在実用的に用いられている超硬合金工具は,逃げ面摩耗,すくい面摩耗ともに著しく進行しており,工具の耐熱温度を超えていることが考えられる。一方,バインダレスcBN工具はVBが0.1mmの時点でも切削距離が2400mであり,他の工具に比べ高い工具寿命を示した。また,切れ刃はシャープエッジの状態を保持しており,耐熱性の高さを示している。

(図2 Ti-6Al-4Vの加工における工具寿命の比較と工具刃先の観察)

2.3.2 バナジウムフリーチタン合金への適用
近年,Ti-6Al-4V合金に含有されるバナジウムの毒性が懸念され,生体インプラント用合金としてバナジウム成分を含まないチタン合金が開発されている。本研究では,Ti-6Al-2Nb-1Ta合金(α-β合金)とTi-15Mo-5Zr-3Al合金(β合金)の2種類について,バインダレスcBN工具による高速切削加工の可能性を検討した。実験は前述のTi-6Al-4V合金の加工実験と同様の条件で行った。
図3に工具摩耗曲線と工具刃先の様子を示す。Ti-6Al-2Nb-1Ta合金では,材料特性が似ているTi-6Al-4V合金の場合とほぼ同等の工具損傷特性を示し,VB0.1mmの時点で切削距離3300mと,高い耐摩耗性を示した。一方,Ti-6Al-4V合金よりも引張強度が高く伸びも大きいβ型のTi-15Mo-5Zr-3Al合金の場合は,切削初期においてすくい面での大きな剥離と横逃げ境界部での欠損が生じた。

(図3 バナジウムフリーチタン合金の加工における工具摩耗曲線と工具刃先観察)

3.結 果
(1)Ti-6Al-4V合金の高速切削加工を行った結果,従来の超硬合金,cBN,焼結ダイヤモンド工具に比べ,バインダレスcBN工具は高い工具寿命を示した。
(2)バインダレスcBN工具を用いて,バナジウムフリーチタン合金の高速切削加工を行った結果,α-β型のTi-6Al-2Nb-1Ta 合金では高い耐摩耗性を示したが,β型のTi-15Mo-5Zr-3Al合金の加工においては切削初期において欠損が生じる傾向がみられた。


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