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 高出力半導体レーザによる極薄材料の接合
  機械電子部 ○舟田義則 坂谷勝明 廣崎憲一

1.目 的
 電気電子製品や精密機械製品の小型化・軽量化に伴い,使用部材の厚みは減少傾向にあり,薄い素材を高精度に接合する技術が求められている。素材の厚みが薄くなるほど接合時の入熱を高精度に制御する必要があり,それには,優れた入熱制御性を有するレーザを利用した溶接が有効である。
溶接に現在利用されている炭酸ガスレーザやYAGレーザは,電力効率が10%以下と低いためコスト高さで問題視されている。これに対して,半導体レーザは,電力効率が40%以上と高く,また取り扱いが容易で発振器をコンパクトにできるという特長を有している。そこで,本研究では,半導体レーザを用いて板厚50mmの極薄材料の接合を検討したので,その結果を報告する。

2.内 容
2.1 高出力半導体レーザ接合システム
 極薄材料の接合試験に用いたレーザは,SEPCTRA- PHYSICS社製500W級半導体レーザシステムGTS500(図1参照)であり,試料との位置合わせ精度向上のため,CCDカメラ付きの顕微モニター装置を組み込んだ。
 接合試験は,レーザヘッドを固定し,レーザ光を照射しながら,送りテーブル上に固定した試料を移動させることで行った。このとき,周囲への熱影響を極力抑えながら,エネルギーを試料に効率良く与える目的から,半導体レーザの特徴である楕円ビームをそのまま使用し,ビームの長軸方向を接合方向とした。焦点位置でのスポットサイズは1800mm×363mmである。
2.2 接合方法および試験条件
幅12.5mmで厚み50mmの極薄ステンレス鋼板(SUS304)を試料とした。試験は,図2に示すように,幅方向に2枚並べたときの突き合わせ部分を接合する「突き合わせ接合」と,2枚を重ねた端部を接合する「重ね合わせ端部接合」の2通りの方法で行った。レーザ光の焦点位置は試料表面とし,レーザ出力50W一定の下,テーブルの送り速度を変えて試験を行った。接合試験後,接合状態を観察し,試験条件の影響を検討した。

(図1 高出力半導体レーザ接合システム)

(図2 接合試験方法)

2.3 接合試験結果
 図3は,突き合わせ接合したときの接合状態を表面および裏面から光学顕微鏡で観察した結果である。接合速度が12.0m/minの場合,溶け込みは裏側まで貫通しておらず,接合速度が速すぎて溶け込み不足の状態にあると言える。接合速度を10.5m/minにすると,裏面まで十分な溶け込みが得られ,半導体レーザの適用が十分可能であることがわかる。一方,接合速度を9.0m/minまで遅くすると,溶け込み幅は裏側で140mmに達するが,溶け込み部に隙間が生じて接合が不連続になっている。板厚に対して溶融幅が広すぎるために,表面張力によって溶融金属が凝集するためと考えられる。
図4は,重ね合わせ端部接合したときの接合状態を試料側面および端面から光学顕微鏡で観察した結果である。接合速度が4.8m/minの場合,接合速度が速すぎて溶け込み不足の状態にある。そして,接合速度が3.6〜4.2m/minの範囲で連続的な溶け込みが得られ,良好な接合が可能である。一方,接合速度をそれよりも遅くすると接合部が節状になる。これも,表面張力によって溶融金属が凝集したものと考えられ,溶け込み過剰が原因と言える。

(図3 突き合わせ接合部)

(図4 重ね合わせ端部接合部)

3.結 果
 高出力半導体レーザを利用した極薄板材の接合システムを試作し,板厚50mmの極薄ステンレス鋼板が接合可能であることを示した。特に,突き合わせ接合では,出力50Wの場合,10m/minを超える高速で接合できることを確認した。一方,極薄板材の接合では,溶け込み過剰になると接合部が不連続になるため,入熱の精密な制御が必要であることがわかった。

 本研究は,大阪大学接合科学研究所阿部信行助教授の御協力により実施した。


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