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 簡易誘導加温装置の開発
  小松パワートロン株式会社 管理部 寺井 健二*

■技術開発の背景
癌温熱療法は約43℃以上の温度で癌細胞を加熱し死滅させる治療法である。現在主流となっている誘電加温法は電子レンジのように加温し,癌腫瘍のみならずその周辺の正常細胞までも加熱させ,火傷による苦痛を患者に与え,その限界ゆえに治療効果も明確でない欠点がある。
これに対し誘導加温法は,癌腫瘍に磁性体を滞留させ,外部交流磁場によって癌細胞のみを加温させる治療法であり,生体に安全かつ低侵襲で癌腫瘍に局所的に滞留する磁性体を使用することが重要である。
本開発では,MRI造影剤として生体安全性の高い磁性体「デキストランマグネタイト」(以下DMと略記)を用いる誘導加温装置として,小型化・軽量化を実現するとともにDMの滞留する癌細胞のみを選択的に加温することを実証した。

■技術開発の内容
1.半導体を用い小型・軽量化を図るとともに自動温度制御機能等,医療機器としての機能向上を果たした。
2.DMの加温特性として,DMの温度上昇と磁場強度(出力電流),DM濃度,周波数が各々正の相関があることを究明し,周波数300KHz,磁場強度3mT,50%のDM濃度に対して十分加温できる事が判明した。
3.動物実験(兎を使用)を実施,効果検証した。
誘導加温群においては,加温後4週に至るまで死亡例を認めなかったが,非加温群では40%の死亡率を示し,肉眼的肺転移の有無の検索では,誘導加温群8例中陽性であっものは2例(25%),非加温群では5例中4例(80%)であった。
【誘導加温装置】

■製品の特徴
1.癌腫瘍内に生体安全性の高いDMを注入し,選択的に癌細胞のみの加温を可能とした。
2.小型で電磁波は許容値以下であり,シールドルームや特別な電源は必要ない。
3.従来の癌温熱療法の主流である設置型誘電加温装置に比較して低価格化が可能である。

■今後の展開
生体深部および様々な患部に対し加温可能な誘導加温装置の開発を進め,医療機器システムとしての完成と事業化を目指す。

本開発は平成11年から13年度までの文部科学省研究委託事業「地域先導研究(EMTEQ)」を受け,金沢大学工学部長野研究室および富山医科薬科大学医学部田澤研究室との共同研究を進めた。

【温熱療法】癌細胞は正常細胞に比べて熱に弱い
腫瘍局所を一定時間42〜43℃以上に加温して死滅
〈電磁波誘電加温法〉
〈電磁波誘導加温法〉
(磁性体留置)

                                  〈照射部〉
周波数:8MHz,13.56MHzなど        誘電加温法での欠点を克服
実用化され,大多数を占める        低侵襲で扱い易い癌治療
正常組織も加温され加温範囲が不明確    癌と正常組織の区別ができる(磁性体)
生体深部の癌腫瘍治療困難         局所的加温が可能
装置が小型・安価である

【DM】
・最終的に糖と鉄分に分解     生体内に注入しても安全
・DMの温度上昇率は
    磁場強度の2乗に比例
    DM濃度に比例
    周波数に比例
・ 既に平成13年よりMRI造影剤として欧州で先行発売,日本においても平成14年に承認,発売開始

【動物実験】

腫瘍増殖曲線


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