全文 (PDFファイル:24KB、2ページ)


 医用マイクロマシンのための新素材開発
  化学食品部 ○北川賀津一 松田 章 豊田丈紫
  機械電子部  坂谷勝明 多加充彦
  繊維部  中島明哉

1.目 的
 近年,電気機能電子部品の小型化が進んでいる。また機械工作における加工技術はミクロンからサブミクロンのオーダに入り,制御技術の必要性が高まっている。圧電アクチュエータは高速応答,変位の高分解能,小型,高剛性を持つので,動力分野デバイスとして注目されている。
 本事業では,細胞操作などのバイオ分野への応用を目的に,圧電アクチュエータを組み込んだマニピュレータ装置の試作を行っている。このように動力分野デバイスの圧電セラミックスは優れた特徴を持つが,長時間の使用による疲労破壊が問題となっている。本研究では,試作したPZT(ジルコン酸チタン酸鉛,Pb(Zr,Ti)O3)圧電セラミックス(以下PZTと略す)にパルス電圧を印加し,共振振動させて,試料の温度上昇,圧電特性と試料破壊について検討した。

2.内 容
2.1疲労試験装置
 PZTの疲労試験は以下の部品で構成される装置を用いて行った。パルス電圧発生器で正弦波の交流電圧を発生させる。1正弦波は周波数50kHz(1波長260μs)で,13波長を1パルスとした。パルス発生器は電圧の大きさとパルス発生回数を変化できる。PZTは試料長手方向で50kHzで共振振動するように機械加工した矩形状試料を使用している。パルス電圧を印加し,電圧印加部分を節として波長の半分であるλ/2モードで共振振動させる。試料中央部の上昇温度(発熱)を熱電対で,圧電特性はインピーダンスアナライザー(HP-4192A)で共振反共振周波数から調べた。疲労試験で破壊した試料は,その破断面を走査型電子顕微鏡(H-8010)で観察した。
2.2試料上昇温度
 電子機器の高周波化に伴い圧電アクチュエータが小型・薄型になり,上昇温度が大きい。上昇温度が大きくなると電子部品の動作や疲労に問題を起こすことが知られている。今回,2種類の市販品から試作したPZT(high-Qm材(機械的品質係数(Qm)値が1000以上と大きい材料)とlow-Qm材(Qm値100以下で小さい材料))に印加する電圧を変えた場合の試料の上昇温度について調べた。high-Qm材は機械的振動による弾性損失が少ないので,超音波モータや圧電トランスに用いられる。一方,low-Qm材は機械的損失よりも圧電定数が重要になるアクチュエータやセンサに用いられる。実験結果からは一般に弾性損失の大きいlow-Qm材の方が上昇温度は大きい(図1)。60V印加では他の電圧と比較して上昇温度は低い。しかし,他の電圧間では上昇温度に差異はほとんど無い。これは振動による伸びが飽和に達したためである。
 次に印加電圧を固定しパルス回数を変え上昇温度を調べた。low-Qm材は最大27℃(図2)の上昇温度を示す。high-Qm材は最大12℃であった。前述の印加電圧とは異なり,パルス回数にほぼ比例して上昇温度は大きくなる。

(図1 印加電圧と上昇温度)

(図2 パルス数と上昇温度)

(図3 機械的品質係数Qmの経時変化)

2.3圧電特性
 パルス電圧印加後の圧電特性(電気機械結合係数(k31)と Qm)を調べた。high-Qm材とlow-Qm材のk31値はパルス電圧を印加しても低下がみられない。Qm値はlow-Qm材で17%,high-Qm材で37%の低下がみられる(図3)。弾性損失の少ないhigh-Qm材で弾性損失に関して大きい疲労がみられる。
2.4試料破壊
 パルス電圧印加中に破壊した試料について調べた。試料破壊はhigh-Qm材発生し,low-Qm材で生じない。電子顕微鏡からは粒界破壊が主に確認された。パルス電圧を繰り返し印加している間に,粒界を通じてクラックが進行し破壊する。low-Qm材の静的強度である4点曲げ強度はhigh-Qm材よりも約20%小さい。しかし,疲労試験で破壊するのはhigh-Qm材である。この点に関しては以下のように理由付けされる。low-Qm材はソフト材,high-Qm材はハード材というふうにも分類される。材質の柔らかいlow-Qm材は繰り返し応力が印加された際に,応力を緩和する機構が働きクラックが粒界を進行しづらくなる可能性がある。

3.結 果
 マニピュレータ装置では精密な位置決めにlow-Qm材のPZTが使用されている。今回,PZTが共振振動する時の疲労特性について調べ,以下の結果が得られた。
(1) 試料の上昇温度の最大値は,low-Qm材は27℃,high-Qm材は12℃で,パルス数に比例して大きくなった。
(2) 120V以上の電圧では上昇温度が飽和に達して一定になった。これは共振振動による伸びが一定に達したためである。
(3) Qmはlow-Qm材で17%,high-Qm材で37%の低下した。
(4) low-Qm材は本疲労試験で破壊せず,耐久性があることがわかった。


* トップページ
* 技術ふれあい2001もくじ

概要のページに戻る