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 ジェットルームのよこ入れ性予測技術の開発
  繊維部 ○新谷隆二 森 大介

1.目 的
ジェットルームを使用した多品種少量生産では,品種変更に伴う段取り換えを迅速に行うことが必要である。商品開発に用いられるよこ糸は,必ずしも水噴流(ウォータジェット)や空気噴流(エアジェット)で搬送しやすい糸ではなく,その糸を搬送するときの水圧や空気圧などのよこ入れ条件は実際に試織して決定するため,未だ経験と勘によるところが大きい。そこで,糸の搬送しやすさ(よこ入れ性)を評価し、その糸に対するよこ入れ条件を適確に予測する手法を確立することは,迅速な新製品開発が促進されると考える。
本研究では,よこ糸の挿入に空気噴流を用いるエアジェットルームを対象として,よこ入れ条件である主ノズルの空気圧力と噴射時間および補助ノズルの空気圧力が,よこ糸の搬送に及ぼす影響を明らかとし,ポリエステル加工糸を例として,よこ入れ条件からよこ入れ性を表すと考えられる糸の挿入速度を予測することを目的とした。
2.内 容

(図1 よこ入れ実験装置の概略)

(図2 ポリエステル加工糸の概観)

2.1 実験装置と実験方法
 図1に,実験に用いたよこ入れ実験装置の概略を示す。おさ幅1.9mの変形おさ補助ノズル方式のエアジェットルームを改造したベンチテスト機で,たて糸は装着されていない。
このよこ入れテスト機は2ピック仕様で1ピック目によこ糸を挿入し,2ピック目でよこ糸を排除するようになっている。テスト機の回転数は434rpmで,主ノズルの出口穴径は3.9mm,加速管長さは200mm,補助ノズルは25本80mmピッチで取付けられている。実験には,よこ入れする糸として図2のような8種類のポリエステル加工糸を使用した。よこ糸先端が主ノズル先端からおさ端まで飛ぶ時間を計測し,よこ糸挿入速度を求めた。
2.2 主ノズル圧力の影響

(図3 主ノズル圧力の影響)

主ノズルに設定する圧力には,よこ糸挿入時に作用する圧力とよこ糸が停止しているときによこ糸の緩みを解消して初動を補助する常時圧力の2種類がある。図3に4種類の糸で主ノズル噴射時間39.9ms,常時圧力98kPa,補助ノズル圧力196kPaのときの主ノズル圧力とよこ糸挿入速度との関係を示す。実験した圧力範囲では,よこ糸の挿入速度は,糸種によらず主ノズル圧力に比例して増加している。また,このときの増加割合も糸種によらずほぼ一定である。糸の繊度による違いは,繊度の小さい糸の方が,同じ主ノズル圧力で大きなよこ糸挿入速度となる傾向にあるが,21.7tex/72fの糸と33.9tex/96fの糸ではほぼ同じよこ糸挿入速度である。これは,21.7tex/72fの糸と33.9tex/96fの糸との空気抗力係数の違いが大きく影響した結果であると考えられる。
2.3 補助ノズル圧力の影響

(図4 補助ノズル圧力の影響)

図4に3種類の糸について補助ノズル圧力とよこ糸挿入速度の関係を示す。21.7tex/72fと33.9tex/96fの糸は,補助ノズル圧力に比例してよこ糸挿入速度が増加している。16.5tex/96fの糸は,補助ノズル圧力が294kPaまではよこ糸挿入速度は補助ノズル圧力に比例して増加しているが,それ以上の圧力では増加が見られない。いずれの糸のおいても,補助ノズル圧力に対するよこ糸挿入速度の増加割合は,主ノズルの圧力や噴射時間に対する増加割合よりも小さくなっている。これは,主ノズルでは,高速空気がよこ糸を包み込むように流れているのに対して,変形おさのよこ糸通路内では,補助ノズルからの噴流速度がよこ糸の挿入方向とある角度を持って外部から流れ込んでいるため,補助ノズル圧力の増加に対するよこ糸挿入速度の増加が,主ノズル圧力を増加したときに比べて,小さいと考えられる。
エアジェットルームでの製織は,いかによこ糸を安定させて搬送するかが重要であり,よこ糸挿入速度の標準偏差が小さくなるように,主ノズル圧力,噴射時間,および補助ノズル圧力を調整する必要がある。織機回転数の増加に対するよこ糸挿入速度の向上には,主ノズルの設定圧力または噴射時間を増加させれば良く,安定したよこ入れを行うには,補助ノズル圧力を調整することによって可能となると考える。

2.4 空気抗力係数

(図5 ポリエステル加工糸の空気抗力係数)

よこ糸は,空気と糸表面との摩擦によるよこ入れ方向の力で挿入されることになる。このときの摩擦力の大きさを表すものが空気抗力係数と呼ばれ,よこ糸挿入速度を数値計算するには,実験により空気抗力係数を求める必要がある。
これまでの研究から糸の空気抗力係数は,糸の直径を代表長さとするレイノルズ数(無次元数で慣性力と粘性力の割合,水や空気の流れの相似性を表現するときに用いられる)で整理されている。
実験に用いたポリエステル加工糸の空気抗力係数をレイノルズ数で整理した結果を図5に示す。図中に示す実線は,J. Gouldら1)の両端支持の条件下でのモノフィラメントによる実験結果である。図から空気抗力係数のレイノルズ数に対する変化は,繊度には依存せず,3つのグループに分かれている。特にフィラメント数96本の糸16.5texと33.9texが,実験した中では一番大きな空気抗力係数となり,よこ入れ性が良いと判断できる。また,得られた空気抗力係数は,J. Gouldらの結果よりもかなり大きな値を示している。この理由としては,ポリエステル加工糸は糸の構造から空気との接触面積が多いことと,実験条件が片端支持であるので,主として自由端の振動や曲率を持つことにより,空気抗力係数が大きくなったものと考えられる。
また,これまでの糸の空気抗力係数を求める実験は,空気流の安定性から吸い込み流を用いており,レイノルズ数としては,あまり大きな値での実験が行われていない。しかし,本実験では,エアジェットルームに用いられる主ノズルを用いた噴き出し流であり,乱流中での実験であるにも関わらず,レイノルズ数の増加による空気抗力係数の変化に関しては,J. Gouldら1)の結果と同じ傾向がある。したがって,空気抗力係数を求めるための本実験装置および実験方法が,妥当であったことを示しているものと考えられる。
2.5 よこ糸挿入速度の数値計算
図6には,16.5tex/96fの糸,主ノズル噴射時間39.9ms,常時圧力49kPaの場合について,主ノズル空気圧力とよこ糸挿入速度との関係を数値計算した結果とともに示す。数値計算にはルンゲ・クッタ法を用いた。計算結果と実験値とを比較すると,計算結果のほうが実験値よりも少し大きいよこ糸挿入速度となっているが,主ノズル空気圧力とよこ糸挿入速度がほぼ比例関係にあることを良く表しており,計算値と実験値は,定性的にも定量的にも一致している。
図7に,16.5tex/96fの糸,主ノズル空気圧力196kPa,常時圧力49kPaのときに主ノズル噴射時間を30.3ms〜51.4msまで変化させた場合のよこ糸挿入速度を計算した結果とともに示す。噴射時間に対するよこ糸挿入速度は,噴射時間が42msを超えるとあまり増加しないが,それまでは,主ノズル空気圧力と同様に直線的な増加傾向を示している。噴射時間が42msを超えたときによこ糸挿入速度があまり増加しない理由は,貯留装置に蓄えられたよこ糸がなくなり,糸パッケージから引き出される糸の摩擦が増加するためによこ糸挿入速度が増加しないものと考えられる。また,計算結果と実験結果とは良く一致していることがわかる。
したがって,よこ糸飛走通路の速度分布と,糸の空気抗力係数を与えることにより,よこ糸挿入速度の数値計算が可能である。また,よこ糸の運動を解析する上で,よこ糸の運動方向を主ノズルの中心軸上と仮定して数値計算を行ったが,定性的・定量的にもよこ糸挿入速度の計算値と実験値は一致しており,よこ糸の飛走位置が,よこ糸挿入速度の平均値に与える影響は少ないと考えられる。

(図6 主ノズル圧力の影響)

(図7 主ノズル噴射時間の影響)

3.結 果
よこ糸の挿入に空気噴流を用いるエアジェットルームを対象として,ポリエステル加工糸のよこ入れ性予測技術の研究を行い,つぎのことが明らかとなった。
(1) 織機回転数の増加への対応など,よこ糸の挿入速度を大きくするには,主ノズルの設定圧力または噴射時間を大きくするほうが,補助ノズルの圧力を大きくするより効果がある。また,よこ糸到達のばらつきを抑えるには,補助ノズル圧力の調整が必要である。
(2) 16.5tex/96fのよこ糸挿入速度の数値計算結果と実験値とは良く一致し,よこ入れ条件とよこ糸の空気抗力係数からよこ糸挿入速度の予測が可能となった。

参考文献
[1] J. Gould and F. S. Smith: Air-Drag on Synthetic-Fiber Textile Monofilaments and Yarns in Axial Flow at Speeds of up to 100 meters per second, J. Textile Institute, Vol.71, No.1, p.38 (1980)


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