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 シルクプロテイン利用によるポリエステル織物の高機能化
  繊維部     ○神谷 淳 山本 孝 森 大介
  イタリア・シルク研究所 Carlo Peruzzo G.M.Colonna
  福井大学   堀 照夫

1.目 的
絹は衣料素材として独特の風合いや優雅な光沢等を持つため,その感触などを模倣した各種合繊が開発されているが,最近の衣料素材開発がヘルスケア重視の傾向となる中で,特に注目されている吸湿性や肌への優しさ(生体への適合性)等の特性については未だ充分に達成されていない。一方で,イタリアなど絹織物産地では大量に発生する絹廃棄物(セリシン)の処理が大きな問題となっている。この二つの問題を解決する試みとして,工業試験場では平成11年度からイタリア・シルク研究所と共同で,セリシンをポリエステル織物のコーティング剤とする研究を開始した。
セリシンは水溶性が高い為,そのままではポリエステルへ固着させるのは困難である。本発表では,@コーティングするセリシン自身を化学修飾により改質する,Aコーティングされるポリエステル織物の表面をプラズマ処理で加工する,の両面から固着方法の改善を試みたので,その結果を報告する。                    
2.内 容   
2.1 セリシンの改質
疎水性のポリエステルとの親和性を高くするために,化学修飾でセリシンに疎水性を付与することを試みた。具体的には,セリシンとジイソシアネート(架橋剤)を水-クロロホルム混合溶媒中,45℃X2時間反応させた(図1)。疎水性の影響を確認するため,分子構造が異なる2種類のジイソシアネート(TDI:Toluene-2,4-diisocyanate, HDI:Hexamethylene Diisocyanate)を用いた。この架橋反応により,TDIを用いた場合ではセリシンの平均分子量は23,000から180,000にまで大きく上昇した。

図1 セリシンの架橋反応
反応前のセリシンは水溶性で有機溶媒であるDMF(N,N-Dimethylformamide)にはほとんど溶解しないのに対し,反応後の改質セリシンは3%程度まで溶解するようになった。また,改質セリシンの吸湿性を調べた結果を図2に示す。改質にTDIを用いた場合よりもHDIを使った方が吸湿性は高いことが分かった。これはTDIが分子内に疎水基であるベンゼン環を有しており,HDIで改質したセリシンよりも疎水性が大きいことによると考えられる。           
2.2 ポリエステル織物のプラズマ処理
セリシンのポリエステル織物表面への固着力及び付着量を向上させるため,プラズマ処理による織物表面の改質実験を行った。図3にイタリア・マンテロ社でプラズマ処理を行ったポリエステル織物の原子間力顕微鏡観察による表面状態を示す。プラズマ処理により粗面化され,表面積が大きくなったことが確認できた。

図3 原子間力顕微鏡観察像
(左)
プラズマ処理前のポリエステル表面,
(右)
プラズマ処理後のポリエステル表面
(低周波放電方式)

2.3 コーティング織物の作成
プラズマ処理したポリエステル織物を試料として,改質セリシン水溶液に浸漬・乾燥し,コーティング織物を作成した。この織物について20℃,65%RHにおける吸湿性を測定した結果を図4に示す。いずれの場合もコーティングにより吸湿性の改善が見られ,特に織物の両面をプラズマ処理した試料は,片面加工に比較して吸湿率が向上した。加工面が両面になったことで,改質セリシンの付着量が増加し,その結果吸湿性も向上したと考えられる。
さらに,改質セリシンをコーティングした織物について洗濯試験を行い,洗濯堅牢度を帯電性測定法(JIS L1094)により評価した。測定の結果,プラズマ処理した織物は未処理の試料と比較して,洗濯回数の増加に伴う飽和電圧半減期の増加が少ないことを確認した。プラズマ処理によるポリエステル織物表面の改質(粗面化)を行うことは,セリシンをポリエステル織物表面にコーティングする際の固着力の向上に効果があることが認められた。
また,コーティング織物のセリシン付着量を洗濯前後で測定したところ,反応前のセリシンと比べ,架橋反応後のセリシンは約7倍も多く残っていることが分かった。
3.結 果
セリシンを適切な架橋剤を用いることで,有機溶媒への溶解性や吸湿性を変えることができ,そのコーティング織物の洗濯堅牢度の上昇も確認できた。さらに,プラズマ処理は改質セリシンのポリエステルへのコーティングに際して,付着量の増加及び洗濯堅牢度の向上に有効であることが分かった。実際の実用化にあたっては一層の堅牢度向上が必要であるため,コーティング剤の調製等,今後も検討を進める予定である。


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