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 能登ヒバの機能性成分を利用した新商品開発
  製品科学部 ○志甫雅人 江頭俊郎 梶井紀孝
  石川県林業試験場 木村保典



1.目 的
能登ヒバは,ヒノキ科アスナロ属の針葉樹で,アテの地方名で石川県の県の木として親しまれ,建築材や輪島漆器の木地として利用されてきた。この能登ヒバは,抗菌性,芳香性,防虫性などの有用な機能性成分としてヒバ油を含んでいるが,伐採や製材の過程で多量の木くずを排出し,そのほとんどが山に捨てられたり焼却されたりで,資源が十分に活用されていない。
そこで工業試験場と林業試験場との共同研究により,排出された木くずに含まれるヒバ油を抽出し,その機能性を活かした具体的な製品試作を行った。

2.内 容
2.1 ヒバ油の抽出
 ヒバ油の抽出は,林業試験場が担当した。林業試験場で行った試算によれば,年間16.4tのヒバ油生産量が見込めることになる。
 ヒバ油の抽出方法としては,熱水抽出法と水蒸気蒸留法が考えられた。装置及びエネルギーコストは,両者共に同等と見込まれたが,実作業上簡便な水蒸気蒸留法を採用した。この方法では,ボイラーにより発生した水蒸気を抽出槽に導入し,槽内を通過してヒバ油を含んだ水蒸気が,冷却器を通って液体となり滴下される。1サイクル終了の後,抽出水とヒバ油を分離してヒバ油を採取する仕組みである。現在のところ収率は,ヒバ油/原料で1.5〜2.0%と高い率で一定している。
2.2 ヒバ油の成分分析
能登ヒバには,マアテ,クサアテ,カナアテ,スズアテの4種類があり,ビバ油の含有量は,工業試験場でエーテルによるソックスレー抽出を行った結果,カナアテが最も多かった。
ヒバ油は独特の芳香性を有するが,この香り成分の分析を工業試験場で行った。分析には,ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー(島津製作所GS-17A,HSS-4S)及びTCT(熱脱着冷却捕集)法,GC/MS(ガスクロマトグラフィー質量分析計)を用いた。その結果,主な香り成分はツヨプセン,4−テルピネノール,クパレン,α−ロンギピネン,酢酸,カリオフィレンであった。
2.3 ヒバ油の抗菌性評価
 ヒバ油の機能性の中で,抗菌性についての試験は,財団法人石川県予防医学協会に委託して行った。検査試料としては,林業試験場で抽出したヒバ油とヒバ油をマイクロカプセル化加工したものを用い,大腸菌,黄色ブドウ球菌,サルモネラ菌,枯草菌,黒コウジカビの5種類の菌に対しての最小発育阻止濃度と抗菌性持続期間について調べた。製品試作では,この試験結果を目安として,ヒバ油及びマイクロカプセルを使用した。
2.4 ヒバ油のマイクロカプセル化
製品試作では,紙製品と布製品の開発を主に試みたが,その際,抽出したヒバ油をマイクロカプセルに加工して製品に用いた。マイクロカプセル化処理は,紙製品用マイクロカプセルと布製品用マイクロカプセルの2種類を,県外企業で委託加工した。いずれもメラミン樹脂を膜材とした感圧性タイプのものである。
2.5 製品試作
 工業試験場と県内企業との共同で,和紙にヒバ油のマイクロカプセルを塗布した抗菌性,芳香性を有する紙製品を開発した。試作を行った製品は次のとおりである。
・和紙マウスパッド(県内手漉き和紙のマウスパッド)
・和紙収納ボックス(掛け軸入れ,賞状入れ,色紙入れ,短冊入れ,文庫等)
 図1に作製したマウスパッドを示す。マウスの操作によって,感圧性のマイクロカプセルが壊れ,抗菌性の効果を発揮し,且つヒバの香りを楽しむことができる。
 また紙製品と同様に工業試験場と県内企業との共同で,ポリエステルと綿の混紡生地に感圧性のマイクロカプセルを付着させた,抗菌性,芳香性を有する部屋着,シーツ,枕カバーを開発した。図2に試作した抗菌性部屋着を示す。使用中の摩擦によって,抗菌性の効果とともにヒバの香りによるリラックス効果も期待したものである。これらの布製品は,繊維製品新機能評価協議会(JAFET)の抗菌性試験にも合格している。
2.6 成果普及
作製した試作品については,展示会を通じて製品提案の形で成果普及に務めた。その結果,現在,県内の繊維関連企業や住宅・インテリア関連企業で,ヒバ油を利用した商品開発が進行中である。

図1 県内手漉き和紙のマウスパッド

図2 抗菌性部屋着

3.結 果
 工業試験場と林業試験場との共同研究による今回の成果をまとめると次のとおりである。
(1)林業試験場で,能登ヒバの林地残材,製材廃材からヒバ油を抽出する技術が確立し,企業化の検討が可能となった。
(2)工業試験場で,能登ヒバ油のマイクロカプセルを利用した紙製品,布製品等の製品提案を行い,商品化の検討が可能となった。
(3)共同研究により,林業,製材業,製品製造業といった一貫した流れの中で,新商品の開発研究が行えた。


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